16.トレーニングエクスプロージョンLv.4
地下シェルターの強固な魔法鉱物の壁には、無数の焦げ跡が刻まれていた。
特訓開始から数時間。
ハジメとリリは、ついに一つの「境地」に達した。
「よし…訓練終了だ。……城に戻ろう」
「お疲れ様です。やりましたね!」
二人がシェルターの重厚な扉を開け、地上へと戻ってきた。
煤まみれでボロボロのハジメと予備のメイド服に着替えたリリは、どこか晴れやかな顔をしていた。
外の空気が、やけに軽い。
「お疲れ様です、魔王様」
カミラがいつもの調子で迎えてくる。
「……後半は随分と、静かでしたね」
「まあな」
軽く肩をすくめる。
「一応、形にはなった」
「それは何よりです」
その後ろで、ザルドスは少し心配そうな顔をしていた。
「これで城も一安心ですね」
「長かったな」
「城がもったのが奇跡です」
「……悪かったよ」
軽く返しながら、歩き出す。
「だが、大きな収穫があった。今後は、実戦でも今回の成果を活かせるだろう」
ハジメが努めて冷静に答える。
その横で、リリが「魔王様との共同作業、最高でした!」と頬を染める。
その様子を見て、カミラはザルドスに小声で囁いた。
「(……ねぇ、気づいている? 魔王様、さっきからリリさんの肩を抱いてるけど……一度も爆発していないわよ?)」
「(……ああ。完全に『耐性』がついたか、あるいは爆発そのものを手懐けたかだな。……とんだバカップルの誕生だな)」
二人の部下は、すべてを察していた。
ハジメが必死に「スキルの制御」という建前で、自分の恋心を正当化しようとしていることも。
リリが「メイドとしての奉仕」という名目で、全力でハジメを誘惑していることも。
「さて。訓練も終わったことだし、今日の晩飯は豪華にするか」
「はい! 魔王様! あ……、」
リリが、ハジメの頬についた煤を指先でそっと拭った。
その無垢な仕草。
上目遣いで見つめてくる、潤んだ瞳。
地下での「荒っぽい密着」ではない、日常の中の不意打ちの優しさ。
(……あ。これ、マズい。……制御してない方の『キュン』が来た)
【緊急警告:未知の多幸感を確認。……全方位、ぶちかまします】
「あ……」
ハジメがリリの肩を抱いたまま、固まる。
「……カミラ、こっちだ!!」
ザルドスが叫ぶと同時に。
ドゴォォォォォォォォォン!!!!!
訓練場よりも遥かに巨大な、ピンク色の爆煙が魔王城の玉座の間を突き抜けた。
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
廊下で羽を伸ばしていた部下たちも、二人の幹部も、まとめて爆風に呑み込まれる。
煙が引いた後。
玉座の間の屋根は完全に吹き飛び、美しい星空が顔を出していた。
「……魔、魔王様。……今のは、ちょっと……凄かったです……」
リリが煤だらけの顔で、フラフラとハジメにしがみつく。
「……すまん。……日常の不意打ちは、まだ耐性が足りなかったようだ……」
ハジメは崩れ落ちた玉座の上で、リリを抱きしめたまま天を仰いだ。
「魔王様ぁ……。屋根の修繕費、今回も魔王様になんとかして貰いますからねぇ……」
瓦礫の下から伸びるカミラの白い手。
「……ゲホッ、…しばらく迷宮とかで訓練してくれると助かります……」
カミラを庇いボロボロになったザルドスの虚しい声。
こうして特訓は城の屋根と引き換えに、二人の絆を深めて幕を閉じた。




