15.トレーニングエクスプロージョンLv.3
地下シェルター内は、もはやピンク色の煙で視界が効かないほどだった。
ピンク色の煙が充満し、空気は焼けたように重い。
対爆魔法を施した壁すら熱を帯び、微かに震えている。
ハジメは膝をつき、肩で息をしていた。
それと対照的に目の前では、
ボロボロになったメイド服を纏ったリリが、どこか陶酔したような表情で立っている。
「……ハァ、ハァ……リリ。一度休憩だ。お前、さっきから爆発を受けるたびに変な声を……」
「休憩なんて、もったいないです! ハジメ!」
リリが詰め寄る。
その瞳は完全に座っており、頬は上気し、額の汗が煤を流して筋を作っている。
「今、すごくいい所なんです!」
「何が良いところだよ!」
これが状態異常【爆破やられ】か?
「分かったんです」
さらに一歩、踏み込んでくる。
「一回一回の爆発を怖がるんじゃなくて、この衝撃のリズムに身を任せればいいんだって!」
「リズムだと……?」
「はい。爆発の合間にある、ハジメの鼓動…」
リリが胸に手を当てる。
「それに、自分の鼓動を合わせるんです」
「…………………………!?」
意味が分からない…。
「そうすれば、爆発はもう攻撃じゃなくて……」
少しだけ、恥ずかしそうに。
「私たちの、“愛”になります」
理屈が崩壊している…。
「どこで変換されたんだよそれ!?」
ハジメのツッコミも虚しく、リリは強引にハジメの両手を取った。
触れた瞬間、パチパチと火花が散る。
リリが耳元でささやく。
「もっと細かく、連続で」
期待に満ちた目で言う。
「私に爆破をください」
「!?」
もうダメだ!
ここまで来ると、理屈じゃ止まらない。
半ばやけくそで、抑えていた魔力を解放する!
感情を!
主に“リリに触れたいのに触れられない気持ち”を、そのまま流し込む。
魔力の抑制が解け、感情のままリリへの「愛おしさ」が爆発する。
もうダメだっ!!!
ボンッ! ボボンッ! ボボボボボンッ!!
ドラムの連打のような爆発がリリの全身を叩く。
衝撃のたびに彼女の体が細かく震え、破れた布切れが舞い、白い肌が火花に照らされる。
「はっ……、あぅ……! これ……すごいです……。身体が温かくて、ハジメに……包まれてるみたい……!」
「……っ、こいつ……本当に、!」
最初は爆発のたびに悲鳴を上げていたリリが、今や衝撃を真っ向から受け止め、あろうことか心地よさそうに目を細めている。
不幸に耐え続けた勇者の防御力が、魔王の嫉妬から生まれた力を「快感」へと変換する……。
まさに最悪と最高が混ざり合った、地獄のケミストリーだった。
「……あ、あれ?」
リリがふと、自分の胸元を見下ろす
連続爆破の余波で、前面の布が完全に消えていた。
「わっ」
慌てて腕で隠す。
煤けた肌と、露わになった曲線。
ハジメは思わず目を逸らすが、リリはそれ程気にする様子がない。
「ハジメ……私、もう痛くないです。むしろ、爆発がないと物足りないというか……。次、もっと密着していいですか?」
「お前、さっきから距離感がおかしいぞ! 目が! 目が据わってるって!」
リリは獲物を狙う獣のような足取りで、ハジメを壁際まで追い詰める。
じり、と。
リリが一歩詰める。
反射的に下がる。
また一歩。
壁に背中が当たる。
「……ハジメ」
逃げ場がない。
「私もう大丈夫なので」
顔が近い。
「いっそこのまま……全部壊れるくらい」
息がかかる距離で、
「私を、ぐちゃぐちゃに爆破してください」
「情緒どうなってんだよ!!」
ハジメの理性が、リリの「愛という名の暴力的なおねだり」に悲鳴を上げる。
その頃、城の執務室では。
「ドコドコドコッ!」という重低音が響いていた。
ザルドスは無言で耳栓を押し込む。
「……なあカミラ」
「なに?」
「もはやドラムの練習場か何かに変わってないか?」
「あら。あんなに激しいリズムを刻めるなんて、魔王様もリリさんも、よっぽど体力が余っているのね」
カミラは優雅に、部下から差し入れられた高級スイーツを口に運んでいる。
廊下のあちこちでは、魔王のセンサーが届かないことを確信した部下たちが、完全に仕事放棄モードで恋バナに花を咲かせていた。
「……ザルドス」
ふと、カミラが近づく。
「髪に埃、ついてるわよ」
指先が、耳元をかすめる。
一瞬、空気が変わる。
爆発は、起きない。
「……ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
城の全域がかつてない平和と愛に包まれる中。
地下室だけは、魔王がメイドの「目覚めてしまった本能」に恐怖し、悲鳴を上げ続けるという、魔界で最も危険な空間と化していた。
「……はぁ……っ、はぁ……」
壁にもたれ、そのまま座り込む。
「もう無理だ……」
心が折れかけている。
対してリリは、
「……すっきりしました」
やりきった顔で、自分の腕を見ていた。
「ハジメ」
嫌な予感しかしない。
「私、分かりました」
やめろ。
「私、ハジメに爆破されるために生まれてきたのかもしれません」
「違うに決まってるだろ!」
「魔王を倒す為に転生してきたんだろ!?いや、むしろもう倒されてるよ!!」
「えへへ……やり過ぎました」
全然響いてない。
そして。
「じゃあ明日は、添い寝訓練にしましょうか」
「……殺す気か、俺を」
その時、こいつは勇者でまだ魔王を倒そうとしてるんじゃ無いかと思ってしまった。
ボッ。
弱々しくスキルが反応する。
それはもう警告じゃない。
ただの、降伏音だった。
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