11.迷宮メイド無双 その5
帰路は、やけに静かだった。
さっきまでの死闘が嘘の様なあっさりとした静寂。ヒュドラの気配が完全に消えたせいか、迷宮そのものが眠りについた様だ。
「……大丈夫ですか?」
傷だらけの体にリリの心遣いが染みる。
「ああ、歩ける程度にはな」
実際、体の芯に鈍い痛みは残ってるが、動けないほどではない。むしろさっきの事を思い出して、体が軽いぐらいだ。
「リリもしんどかったら言ってくれよ」
「はい。でも私、あの戦いの後から体が凄く軽くて、力が湧いてくる感覚があるんです。」
「そういえば、あの時どうなってたんだ?」
少し間を置いて、リリがぽつりと呟いた。
「……私もはっきりとは分からないんですけど…」
リリは小さく息を吸ってから、ゆっくり話し始めた。
「……夢中で、よく覚えてなくて。でも…」
声の温度が、ほんの少しだけ下がる。
「魔王様がやられて……気づいたら、体が勝手に動いてて」
「ショートランスから光が溢れて剣の様な形になってたんです。」
「……光の剣」
「はい。体の底から力が溢れてきて……あれ、多分――」
少しだけ言葉を選んでから、はっきりと言った。
「……“聖剣”だったと思います」
「スキルか」
リリが一瞬こちらを見る。
「はい。多分私の質に入れた剣が聖剣だったんじゃなくて、私のスキルが聖剣だったんだと思います。」
「じゃ、今の持ち主はただの剣を聖剣と思って作ってる訳だ。」
「そうですね。私が持ってる時は聖剣だったんで嘘じゃないですよ」
リリがちょっと悪そうな顔で言う。
「本当にそう思ってましたし」
一撃で九本まとめて落としたって話だし、普通の武器でどうこうなるレベルじゃない。
「……リリって本当に勇者だったんだな」
最初のポンコツ具合を思い出しながら、少し笑った。
「そうなんです。……まだ使いこなせてないですけど」
「帰ったら特訓だな」
魔石も回収済みだし、城の修理はどうにかなる。問題は…
「……俺たちの方だな」
ぽつりと零すと、リリの気配がわずかに揺れた。
「……はい」
少しだけ間があってから、返事。
「……ハジメ」
咄嗟のことで返事できなかった。
「……これから、そう呼んでもいいですか?」
「きゅ、……急に呼び方変わったら、色々勘繰られるから…」
「じゃあ人がいる時は魔王様で」
なんだろう。少しこそばゆい。
けど、悪くない。
「で、その……これからどうしようか?」
リリの声が、少しだけ柔らかくなる。
「もっと……ちゃんと、仲良くなりたいです」
素直に嬉しい。
「今は、触れると爆発してしまいますけど」
「ああ」
「それでも……距離を縮めたいです」
その言葉に、少しだけ息を吐く。
「……だな」
軽く返すと、リリが小さく黙る。
少しだけ、照れた空気。
「……だから、その……特訓、しようと思います」
「特訓?」
「はい。爆発を抑えるか、耐えるか……その両方か」
いつになくリリが真剣な表情をしている。
【ボン!これ以上イチャイチャすると本当に爆発します】
(ん?なんだ?アナウンスがいつもと違う気がする…)
今爆発しないならいいか、と気にせず答える
「ああ。もちろん両方特訓しよう」
「……ハジメと、もっと……一緒にいたいので」
その言葉に、胸の奥がじわっと熱くなる。
「じゃあ決まりだ」
「帰ったら――リアエクスプロージョン対策訓練だな」
「はい!」
くすっと笑う声。
その瞬間、二人の距離がほんのわずかに近づく。
ボンッ。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
慌てて距離を取る。
沈黙。
「……先が思いやられるな」
「……ですね」
それでも、声はどこか楽しそうだった。
静かな迷宮に、小さな爆発音と、控えめな笑い声が響く。
さっきまでの死地とは思えないくらい、穏やかな帰り道だった。
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