↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ぐらたん  作者: Yorimi2
3.シークワース・バニラホワイト編
PR
95/97

#94「タニブモフモフパラダイスキングダム・・・だとぉっ!!?」

★★★

朝の厨房。

ネビロスのお師匠は今日も魂が抜けたように窯(かま)をぼんやりと眺(なが)めていた。

あの実験から数日、彼の研究が停滞しているらしい・・・ずっとこんな感じ。


「さて今日も頑張るぞいっ!」


それに反して、あめのはっか龍王様は元気にトレーにのせたパンを売り場へ運んでいく。


「あの・・・お師匠?」


ずっとこのままは心配なので、思い切って話しかける僕。そしてシュトーレンさんも。


「おーい、ネビロスの大将?」


しかし、呆けているお師匠には僕達の声は全く届かない。

しまいには、もん太のお師匠が割り込んで、彼に入魂する!


「ネビロス君、気合いを入れたまえっ!」


「ぐはっ!!?」


もん太のお師匠の張り手で、ネビロスのお師匠はふっとばされて、窯(かま)の扉に叩きつけれたのだった。


お、おししょ〜〜・・・。


僕はただハラハラと見守るしかできなかった。


「な、何をするんだっ! ・・・!?」


クラクラとしながらお師匠は後ろに振り返ったが、焦げ臭い匂いに気が付き、そのまま360度回って、再び窯(かま)の方に向き直るのだった。


「うわっ・・・あっ」


漸(ようや)く我に返った彼は慌てて窯(かま)を停止して、急いで中にあるパンを取り出した。


「あ、あ〜〜・・・」


パンは真っ黒焦げとはいかないものの、売り物に出来るものではない。

お師匠らしくもない痛恨のミスだ。

彼は項垂(うなだ)れるように床に降りて座り込んでしまった。


「大将? 今日は休んだ方がいいんじゃないか?」


「そうですよ・・・。最近寝てないでしょう? ここは僕らに任せてくださいっ!」


休息をすすめたが、彼は頑なに作業をやめようとしない。再びパンをコネ始める。

見て分かるように彼の目の下にはくっきりとクマができていた。


「大丈夫だ・・・これくらいは問題ない」


「いいや、ネビロス君。2人の言う通り休みなさい。その状態で働かせる訳にはいかんのだ。・・・それにここは私の店だぞ? 後は私達が何とかする」


「うわっ、離せっ!」


ネビロスのお師匠をガシッと鷲掴みにして、2階に続く階段へ摘み出した。

その時もん太のお師匠は龍王さまを一瞥(いちべつ)したような気がした。


「気持ちは分かる・・・。だが、あまり気負うんじゃないぞ?」


「・・・」


無言の背中を見せ、2階に上がろうとした所、起きて来たぐらたんさんが丁度降りて来た。


「おはよう、ネビロス様・・・」


「おはよう・・・」


挨拶だけ済ませて、彼はそのまますれ違った。

俯くぐらたんさんは、諦めずに振り返って声をかけ続ける。


「ネビロス様っ、また手伝える事があったら言ってッ」


「・・・。ありがとう、ぐらたん。でも、今は1人にしてくれ」


彼女に笑顔を向けたものの、その言葉を残して彼は2階へ上がってしまった。

またしても、僕は寂しそうな彼女の背中を見ることしか出来なかった。

★★★


「・・・と言う事でずっとお師匠があんな感じなんだ。カオリ、どうしたらいい?」


今日の業務を終えて夕食を済ませたスダチは、2階の休憩室で娘のカオリに悩みを打ち明けるのだった。

同じく彼女も彼のことで悩んでいた。


「そうだよね・・・。ネビロス君、あれからずっとよく分からないこと独り言でブツブツ言ってて。私もお姉ちゃんとして、力になりたいけど・・・。流石に、マトリョーシカ? マドーリョーシリキガクなんて全然訳わかんない・・・」


彼の悩みの源が正に別次元で手のつけようがなく、お手上げだった。


「そうだよね・・・。僕も魔術はサッパリ・・・」


2人は同じタイミングでため息を吐くのだった。


「でもさ、ネビロス君だけじゃなくて・・・ぐらたんまでも元気が・・・」


「うん・・・」


その煽りを一番受けてるのがぐらたんだ。彼が研究に勤しむあまり、彼女は置いてけぼりだ。


何とかしたい・・・。しかしどうする事も出来ない。


隅で静かに端末を眺(なが)めていたやどりんにも、助けを求めるカオリ。


「やどりん、何か良いアイデアない?」


眉間にシワを寄せたままで聞いていない様子だった。


「やどりん?」


「・・・。んあっ!? ああ、済まねぇ」


気づいたやどりんは、少しと惑った様子でやっと返事をした。

彼女もあれから少し様子がおかしい。


「どうしたの?」


「いや、大した事じゃない・・・。2人の事なら、もう時間が解決するしかないなー。あたしにもどうする事もできんっ」


「そっか・・・」


そっとするのが一番なのかな・・・? このまま自然に良い方向に向かえばいいけど・・・。


モヤモヤが溜まり、再びカオリからため息が出た。

そんな時、シュトーレンがパイシチューを運んで休憩室に入って来た。彼も夕食をとりに来たようだ。

テーブルにトレーを置いて席に着くシュトーレン。


「お疲れさん・・・うっ」


しかし、2人からの強い視線で中々夕食に手をつけられない。

席を立とうとしたが、カオリとスダチに左右を挟まれて逃げられない。


「あの〜、シュトーレンさ〜ん?」


「な、なんだよ、おまえさん達までそんなジメッとした顔で! メシまでカビが移るだろう、あっち行け・・・ッ!」


左右に忙しく交互に振り向きながら追い払おうとしたが、訴えるような2人の眼差しに負けて、シュトーレンはその場に留まるしかなかった。

ガクッと頭を下げて観念するのだった。


「はあ~、大将のことだろ? 俺だってお手上げだよ。休めっつっても、それが裏目に出て大将はずっと研究に・・・。まるで何かに追われてるような感じだ。それに付き合うウンギャンもよくついてこれるよなぁ〜」


パイのドームをスプーンで崩し、シチューに沈めてから口に運んでいくシュトーレン。


「息抜きにどこか遊びに行こうと誘っても、ネビロス君は全然聞いてくれないし」


「どこかね〜・・・あっ!」


サッと聞き流すように彼女の話をききながら咀嚼していると、何かを思い出しては食事の手を止めて、ジャケットの内ポケットを探った。


「そうだっ! 忘れてたぜっ! しかし、コイツでのってくれるかどうか」


そこから取り出されたのは2枚のチケットだった。やどりんも気になってテーブルの上にやってくる。

ポカーンとしながらスダチはチケットに書かれている文字を読んだ。


「タニブモフモフパラダイスキングダム・・・?」


それはタニブ市にあるテーマパークのチケットだった。


「なんだ知らないのかよ、スダチ・・・。え〜と、実はな、本当はこいつの取材のためにクライアントから貰ったものなんだ。丁度、お前さん達が来たから、そっちの方がスクープになるって・・・はははっ、完全に忘れてたぜ」


カオリは無言のまま、シュトーレンからチケットを奪い取った。ワナワナと震えながら不気味な笑みを浮かべて、スダチやシュトーレンを驚かせる。


「これよっ! これなら十分に効くわッ! ありがとうシュトーレンさんっ! ちょっと2人を呼んでくるねッ!」


そして高らかに歓喜した後、3階へバタバタ駆けて行った。


「あーあ、はえ〜こと・・・」


呆れながらシュトーレンは彼女が出て行ったのを見送った。


☆☆☆

「タニブモフモフパラダイスキングダム・・・だとぉっ!!?」


効果は絶大でネビロスは簡単に食いついた。そのまるで子供のようにはしゃぐ彼をみんなほっこりとした顔で囲んでいてた。

周囲の視線に、彼は落ち着きを取り戻す。


「・・・うん。とても嬉しいんだが、今はそれどころじゃ・・・」


手にしたチケットをチラチラと見つつも、今のしかかっているタスクを放っては置けなかった。

往生際が悪く、素直になれないネビロスだった。


「いいのかい、大将? またとないチャンスだぜ? これを逃したらもう行けないんじゃね? 息抜きに彼女と遊びに行って思い出を作って行きなよ」


シュトーレンがニヤニヤしながら、頑固な彼を揺さぶる。

険しい顔をしながら、ネビロスはチケットを眺(なが)め続ける。


「・・・誰が彼女だっ! 兎に角、僕はいいが、ぐらたんはどうなんだ? 興味ない事に付き合うのは退屈にならないか?」


そして、横にいるぐらたんに流して、卑怯にも逃げようとしたが、


「私は・・・」


じっとネビロスを見つめて、ぐらたんは強く答えた。


「行きたいっ! ネビロス様が一緒なら全然ッ!!」


彼女の回答にご満悦なカオリ達の視線がネビロスの方に集まった。


「・・・だそうだ。大将の負け」

「・・・お店の事も忘れて遊びに行ってください」

「えへへ、折角の念願のモフモフパラダイスでしょ? 行かないなんてネビロス君らしくない」

「行かないなら引きずってでも、私達が連れて行くギャン!」


集中砲火を浴びて、もう何も言い返せなかったネビロス。


「ネビロス様、言ったはずですギャン。目的だけが人生じゃないって。楽しみましょうっ!」

傍(そば)にいたウンギャンの後押しにより、彼は漸(ようや)く決意を決めた。


「・・・。そうだったな」


そして、ぐらたんに向き直るネビロス。


「行こう、ぐらたん。遊びに」


彼の言葉に、ぐらたんは満遍の笑みを浮かべた。

こんなに嬉しい事はなく、只々頷(うなず)くのだった。


「うん・・・!!」


しかし、本人以上に周囲が歓喜した。特にカオリが。


「きゃーーーーーーーッ!! いやったああああッ! 随分待ちかねたよッ! その言葉ッ!!」


「バカ・・・アンタが一番喜んでどーすんだっ!」


荒ぶるカオリは直様やどりんにツッコミを入れられた。後頭部を撫でるカオリの横で、アギャンとウンギャンが締めくくる。


「お嬢様、ネビロス様・・・」「良い一日を!」


☆☆☆

暗黒の空間、

ヌイは1人思い詰めていたところ、目の前にナイトメアユニオン総裁タマモが姿を現した。


「・・・いつまでそうしてるつもりかしら、ヌイ」


「・・・」


タマモの目には浮かない顔のヌイが映り込む。

普段から無口で感情を表に出さない彼女なのだが、最近ずっとこの調子だ。


「・・・。申し訳ございません、タマモ様。今の私にはまだ割り切れることが出来ません」


シークワーライナーの件をずっと引きずっているようで、それが彼女の中で病巣を作り、迷いとなって蝕んでいたのだ。


「何か別の方法で・・・」


他にも世界を手中に収める手段があるのではないかと提案しようとしたヌイだったが、タマモが話を遮る。


「うふふっ、もう私たちは行動を起こしたのよ。後戻りは出来ない・・・今更、平和的解決なんて無理なのよ。どうやって、それをみんなに分かって貰えるのかしらね?」


彼女の言葉にヌイは何も言えなかった。


「私たちは、腐敗した天界から人々を解放するために、世界を変えようとしているのよ? それにしがみつく人間達に何が理解出来て? 分からない・・・何も学ぼうとしないから、痛みと恐怖を与えるのよ。そうでもしないと分かろうしない。その先に見える真の自由を勝ち取る為に、犠牲や痛みなんて些細なことなのよ? 貴方はそれを承知の上で、私に協力してくれたのでしょう?」


「・・・」


「それに、あのフローズンショコラに堕ちたオモチャの存在は貴方が教えてくれたものでしょう?」


ビクッと体を震わせるヌイ。後悔の念がヌイに覆い被さり、顔を引き攣(つ)らせる。

タマモは表情を崩さず、近づいてはヌイの肩に手を乗せた。


「そんな貴方が感傷的になっているなんて滑稽(こっけい)よ?」


「うっ・・・」


耳元で囁かれた総裁の言葉に、ヌイは視線を落とす。


「貴方にはまだ自覚がたらないようね・・・。チャンスを与えましょう、ヌイちゃん」


タマモはバーゲストギアを差し出した。


「ナイトメアユニオンの理想の為に、何事にも覚悟が必要よ・・・。迷いを捨てなさい」


葛藤する心に反して、ヌイは無意識にもバーゲストギアを手に取ってしまった。

修羅の道しか無いのである。

自分の存在、自分の立場、自分達の正しさを証明するのにはこの選択しか無い・・・。


ヌイの手は震えながらも力強くギアを握りしめる。


「分かりました・・・」


戦う意志を取り戻した彼女に、タマモは笑みを浮かべ、明後日の方向を見る。


「全く・・・居たのなら、そんなとこで立ち聞きしないで、こっちに来ればいいのに」


タマモの視線の先の闇の奥から、レヴィアタンが現れた。


「すまぬな、タマモ。聞こえてきたのじゃから・・・。まだアレの改修は済んでおらんのに、ヌイに出撃させるのか?」


「そうよ、レヴィアタン。ヌイに戦う意味を学んで欲しいからね」


邪龍の隻眼がチラッとヌイを見る。


「ふむ・・・ならば妾(わらわ)も出て良いか? あのデカブツの修理は退屈で暇じゃ。もう船虫達で十分じゃろ?」


彼女の気の変わりように、タマモはクスッと笑い声を上げた。


「うふふっ、全くレヴィアタンも気まぐれね」


「今に始まったことではないわ。皆気まぐれじゃろ? タマモよ」


フッと笑ってタマモに言い返すと、邪龍はヌイに向き直る。


「ヌイ、ソナタ自身が戦うと言うのなら、妾(わらわ)は務めを果たすが良いな?」


そして紫色に輝く結晶を出してみせた。

アクムーン結晶体を見つめ、ヌイはゆっくり頷(うなず)く。


「はい、お任せいたします」


脳裏でイヌガミライの姿が浮かぶ。


過去なんて変えられない。もう元に戻る事など出来ないのだから。ならば進む道はただ一つ・・・。


☆☆☆

翌朝。

ぐらたんとネビロスの2人は、タニブモフモフパラダイスキングダムへ向けて、ミルクベーカリーを後にした。


「・・・行ったか」


シュトーレンはショーウインドウの内側から外を覗(のぞ)き、2人が見えなくなるまで見送っていた。


「行ったね・・・」


カオリも呟き、店内では静けさだけが残ったが、


「さてと、私たちも行くとしますか」


「へっ?」


続けて出た言葉に、シュトーレンは気の抜けた声が出た。


「おいおい、カオリちゃん! まさかこっそりと後をつけるって話じゃないだろうな・・・?」


「そのまさかだよッ。2人の進展をこの目にしっかり刻まないとね。私もしっかり思い出を残すんですから」


カオリはウインクして見せた。


「カオリちゃんはカオリちゃんで思い出残そうぜ・・・」


シュトーレンはそんな彼女に呆れながらボヤいたが、腕をガッチリとカオリに掴(つか)まれた。

彼は嫌な予感がした。


「もちろん、シュトーレンさんも来てくれるよねッ? あの2人を写真にしっかり収めてくれるよねッ!? ねッ!?」


「・・・え〜っ、ミセガアルンダケドナ」


拒否を示す彼だったが、もんちゃんとスダチが厨房から出てくる。


「構わんぞ、シュトーレン君。君も遊びに行ってきなさいっ!」「ここは僕たちだけで十分ですよ」


彼らからGOサインをもらってしまって、頭を抱えるシュトーレン。

結局彼は頷(うなず)くしかなかった。


「はあ〜、やれやれ・・・俺としたら2人を邪魔したくないんだがね・・・」


それでも乗り気にはなれなかったところ、やどりんも話に混ざってきた。


「安心しなっ! あたしのドローンがありゃ、バレずに完璧に収められるぜ!」


悪そうな笑みを浮かべた彼女は腕をクロスする。全ての指の間にはヤドリギの実がびっしりと挟まっていた。


「流石、やどりん! これで完璧ねっ!!」


そしてアギャンも尾行の話に乗って来た。


「ふふふっ、私も行くギャン! なんたってモフモフパラダイス。道中にはお嬢様の敵だらけギャン。しっかりと2人を護衛しなければッッ!」


「そうこなくっちゃッ! それじゃ、ぐらたんとネビロス君を見守り隊、出動ッ!!」


「「おーーーーっ!!」」「お〜・・・」


シュトーレンを引き連れて、カオリとアギャンとやどりんの4名による尾行大作戦が開始されるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。