釣りバカ日記
アーゴン級になったからと言って、特に何かが変わるという訳でもなく、今日もクエストを選ぶ。
「今日のクエストは釣りよ!!」
ウィットが受けるクエストを選んできた。
「いつから僕らは漁師になったんですか。それで、何を釣るんですか?」
「人魚よ!!!」
僕らに沈黙が走る。
「人魚?そもそも人魚って釣るものなんですか?」
「人魚は、人と同等の知能を持つと言われている。釣るなんて無理だろう。」
「え!?そうなの?半分魚って聞いていたから、そんな頭良くないと思ってたわ。」
半分魚と言っても、上半身は人間と同じだし、普通に考えたら釣れるなんて思わないだろう。
「それで、人魚を捕まえるクエストなんですか?」
「そうでは無いわ!人魚を見つけるクエストね。金持ちの道楽で、冒険者たちに人魚を探させているんじゃないの?」
「人魚は噂には聞くが、実際に見たことは無い。時間をかけたとしてもそう簡単に見つかるものでも無いだろうな。」
「ウィットさんは、どうしてこのクエストを受けようとしたんですか?」
拘束される時間に対して、報酬もしょっぱいし、受ける必要が無いように思える。
「だって・・・・人魚見たいじゃない!!!」
はぁ、そんな理由かよ。
「まぁお姉様がそこまで見たいのなら、受けてみてもいいかもしれんな。」
イリスのウィットに甘すぎるところが出た。
「流石イリスね!分かってくれると思ったわ!」
そして、ウィットは僕の方を見つめてきた。
「分かりました、分かりましたよ。ただ、人魚を探すのは今日だけですよ。」
こんなに我儘な人がお姉さんぶっているのはどうかと思うが、そのわがままを聞いてあげることにした。
「それで、人魚はどこにいるって言われてるんですか?」
「ベルセリウの東、ディールズ海よ!!」
「それで、どうして釣り竿持ってきてるんですか?」
ディールズ海に着いた僕らだが、ウィットさんは何故か3人分の釣り竿を持ってきていた。
「オーラムは釣り竿が何に使う道具か知らないの?教えてあげるわ!魚を釣るのよ!!」
このチビ、人を煽るのだけは上手いな。
「人魚は釣り竿では釣れないと思うんですけど、どうするんですか?」
「魚を釣るのよ!」
このチビ、マジで話通じねえな。
「恐らくオーラムは、魚を釣ることと人魚を見つけることは何か関連性があるのかと聞いているんだろう。」
流石イリスだ。どっかのバカとは違うな。
「あー、そういうことね。魚を捕まえまくったら、人魚も気になって海面に出てくるという作戦よ!!」
「「はぁ・・・。」」
イリスと完全にシンクロしてしまった。流石にそんなことで見つけられたら、苦労はしないと思う。
「まぁ今日だけという約束だし、オーラムも釣りをしようではないか。」
大人なイリスの話を聞き、3人で釣り竿を振る。釣りが嫌いとかではないが、何匹釣っても人魚が来る気配はないのでもう辞めたい。いや、まぁ当たり前のことなんだが。
「全然、人魚は来ないわね!こんなに釣ったら、私たちに食料取るなって文句言ってきてもおかしくないのに。」
そんなに生態系を壊すほどは釣っていないんだが・・・
「お、またヒットかも!」
ウィットの竿が勢いよくしなる。すごいしなり具合だ。
「これは大物ね!人魚かしら!?」
そんな訳は無いと思うが、超大物ではありそうだ。
ボキッ!
ウィットの竿が過重に耐え切れなくなって折れた。折れた竿は海に飲み込まれていった。
「竿が折れてしまっては、もう終わりだな。今日のところは帰ろうか。」
僕も同調する。
バシャッッッ!
「え?」
海から飛び出してきたのは、ウィットの竿を咥えたとても大きな海蛇だった。
「えーっと、海の主を吊り上げちゃったみたいね。」
「怒ってるように見えるんですけど、これどうするんですか?」
「倒すしかないだろうな。」
「逃げることはできないんですか?」
「この海蛇、シーサーペントは陸上でも這って進むことが出来る。ここで返り討ちにしないとベルセリウまで追いかけてきてもおかしくないだろう。」
「つまり、倒すしか無いってわけね。」
カッコよく言ってるけど、あなたのせいですよ。
シーサーペントが口を開いて、僕らを丸呑みにしようとしてくる。
「的が大きくて狙いやすいわね。地の果てまで、獲物を追いかけろ!『キルチェーン』!!」
ウィットが連続で放った4本のダガーは、シーサーペントに吸い込まれるように刺さった。どうやら、狙った獲物にダガーが飛んでいくという魔法らしい。
「フシャアアエエエアアア!!」
シーサーペントはかなりのダメージを受けているようだ。
「オーラム!駄目押し頼むわよ!」
「すみません、海に有害物質流すと、生態系変わっちゃうかもしれないので、加勢は難しそうです。」
こんな大きい魔物にダメージを与えようと思ったら、環境破壊は避けられないだろう。
「ったく、使えないわね。それじゃあ、イリス!頼むわよ!」
「先日、マーナガルムに槍を折られて、武器を持ってきていないのだ。」
「あなたも!?」
「準備を怠る冒険者は命がいくつあっても足りねえぜ?」
シーサーペントの巨体が何かにぶつかったように吹き飛んでいった。声のした方向を3人で振り返ると、
「アクチスさん!?」
副ギルド長のアクチスが立っていた。
「どうしてこんなところに?」
「誰も受けねえと思ってた人魚のクエストを受けたバカがいるって聞いて、来てみりゃお前たちじゃあねえか。もっとクエストはちゃんと選んだほうがいいぞ。」
僕も本当にそう思います。
「今、ディールズ海には誰も近寄らせないようにクエストを制限してたんだが、このクエストは貼りっぱなしのままだったんだとさ。」
「なんで、制限してたんですか?」
「そりゃ、やべぇやつの目撃情報が出てるからだよ。」
「「「やべぇやつ?」」」
「ああ、さっきのシーサーペントを唯一捕食する存在、”大海の王” クラーケンだ。」




