ヘルハウンドを倒せ
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その夜から、僕らは村の見回りを始めた。イリスの話では、ヘルハウンドは日付が変わる頃に姿を見せる魔物で、死を告げる魔物として恐れられているらしい。しばらく、村の家を巡っていった。だが、ウィットはとても眠そうだった。
「ウィットさん、立ったまま寝ないでくださいね。」
「分かってるわ、そんなことにはならないから安心して。」
話し方は今にも寝そうなので、安心できなかった。
「お姉様がこんな夜遅くまで起きてるのを私は見たことがないから眠いのも仕方ないだろう。もし眠いなら、私がおぶってあげようか?」
もはや、イリスが姉を通り越してお母さんみたいに見えてきた。
姉としてのプライドが眠気に勝ったのか、ウィットは頑張って起きていた。
「空が白んできましたし、今日はもう終わりますかね。」
「やっと寝れるー!早くベッド行きたい。」
家に戻るとすぐに2人はもう寝てしまったようだ。僕は、おなかが空いていたので、朝食を摂ることにする。母は朝食の用意をしているところだった。リビングのソファに座ると、父が話しかけてきた
「こうやって話すのは何年振りだろうな、オーラム。」
僕がまだこの家にいたころ、父は冒険者をしており、たまにしか家に帰ってこなかったので、父と話した記憶をあまりなかった。
「もう、冒険者はやめたんですね。」
「オーラムが出ていっちまって、この広い家に母さん一人だとかわいそうだろ?ちょうど、牧場をもらい受けてくれないかって相談もされてたし、もう戻ることはないだろうな。」
「そうですか。あと、今までなんの連絡もしなかったことは申し訳なく思っていますよ。」
「便りが無いのは、良い便りとも言うからな。俺は気にしてねえよ。まぁ冒険者やってりゃ危険なことばっかかもしれねえけど、死なないことだけ頑張れ。先輩冒険者からの助言はそんだけだ。」
朝食の後、眠りにつく。疲れていたようで、泥のように眠った。
「オーラム、起きなさい!」
ウィットの声で目を覚ます。外はもう暗くなり始めていた。
「晩御飯できたから、早く来るのよ。」
その後、リビングへ行くと、僕以外は席に着いていた。
「ウィットちゃんは冒険者なのに、料理も上手ですごいわね。おばさん助かっちゃったわ。」
「いえいえ、これぐらいの手伝いならいつでもしますよ。」
なんか、母とウィットが仲良くなっていた。そして、それを見たイリスが自分に構って欲しそうにしているのが面白かった。
「さて、今日も見回りしますか!」
夕食を終え、2人は武器の手入れを始める。すっかり辺りも暗くなり、今日も村の家々を回っていく。
「それにしても、オーラムの父は名の知れた冒険者と聞いていたが、魔力を感じなかったな。」
イリスは、視界に入ったものの魔力量を感じることが出来る。これは、魔物の血がなせる業らしい。
「でも、魔法を使わずに冒険者になるなんて無理だわ。どうやって魔物を倒していたのかしら?オーラムは何か知らないの?」
「僕が幼少期に父と会話したことはほとんどないので、知りませんね。それより、目的のワンちゃんが来ましたね。」
燃えるような赤い瞳に吸い込まれそうな漆黒の体、間違いなくヘルハウンドだろう。
「ヘルハウンドは早い動きを得意としている。暗闇だからって見逃すなよ。」
ウィットが牽制のためにダガーを投げる。恐らく、ヘルハウンドは噛みつくことでしか攻撃できないだろうから、リーチの面で僕らに分があるだろう。だが、如何せん動きが速すぎてダガーが当たらない。
「オーラム!あいつにダメージ与えられそうなものは生み出せないの?」
「流石に、近くに家があるところで異臭を放つ化合物なんかの危ない薬品は使いづらいですよ。」
「あなたの魔法は使える条件が少なすぎるわよ!しょうがない、イリス、援護するは!」
「はい!お姉様!!」
イリスが槍を振るい、ウィットが後ろからダガーで援護する。息の合った2人の動きに感心したが、そんな場合ではなく、何か僕にできることはないのだろうか?
「グゥオ!?」
ウィットのダガーがヘルハウンドの足に刺さったようだった。これで、少しは動きが鈍くなるだろう。
「こいつ、さらに俊敏になっている!?」
しかし、僕らの予想を裏切り、ヘルハウンドの動きは衰えるばかりか、増していった。そして、ヘルハウンドは僕らと距離をとったかと思うと、そのまま暗闇に消えていった。
「勝てないの踏んで、逃げたのかしら?」
「いや、直ぐ近くに魔力を感じるな。目を瞑って、こちらを伺っているのだろう。」
今までは、赤い眼が光っていたことから、暗闇でもヘルハウンドの位置を見失うことはなかった。
「つまり、どこから襲ってくるか分からないってわけ?やっかいなことしてくるわね。」
「これはまずいな。」どうにかして、暗闇の中のヘルハウンドを見つけることが出来ないだろうか。
「イリスさん!ヘルハウンドは、まだ動いていないですよね?」
「ああ、もしかしたら少し疲れが出ているかもしれぬな。」
「やったことはないが、上手くいってくれよ!!」
やったことないというのは、水溶液中にさらに、化合物を混合したものを出すことだ。
地面目掛けて、混合溶液を放つ。そしてすかさず、次は過酸化水素水を撒き散らす。すると、
「姿を現したようですね。」
ヘルハウンドの足が青白く光った。これでもう、暗闇に姿を隠せない。
「場所が分かれば、こっちのものよ!イリス、行くわよ。」
ウィットがヘルハウンドの動きを封じるようにダガーを投げ、イリスがヘルハウンド目掛けて攻撃する。
「我、この矛先に風神の加護を授けん。穿て!『ウィングスピア』!!」
風の槍がヘルハウンドを貫いた。
「グォオオオオォォオオオオ!!!」
ヘルハウンドは唸り声を上げた後、魔石へと変わっていった。
「それで、どうしてヘルハウンドの足が光ったの?」
「それはですね、ルミノール反応ですよ。最初の溶液は、水酸化ナトリウム水溶液にルミノールを溶かしたものです。それに過酸化水素水を振りかけると、鉄が触媒となって反応が進みます。こうして反応が進んだ物質はエネルギーの高い励起状態であるのですが、すぐに基底状態に戻ってって、ウィットさん寝ないでくださいよ!!」
「ごめんごめん、もう夜遅くだから眠くなっちゃったのよ。」
「なるほど、足から出ている血と反応して光ったというわけか。」
「その通りです。僕ももう眠いので家に帰りましょうか。」
ヘルハウンドを倒した僕らはこの後、手厚いお礼を受けた。
・解説コーナー
ルミノール反応はルミノールと過酸化水素、そして鉄やコバルトなどを触媒にして青白く発光する反応ですね。発光のメカニズムを簡単に説明しますと、反応が起こった際の高いエネルギーが光エネルギーに変換され光るという訳です。鑑識が血痕を特定するのに、使っていたということで、有名な化学反応の一つですね。




