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アナザーディメンション  作者: ユリス
三章『約束の日』
7/11

「約束の日」

 森の外に出ると村が見える。

「はぁ……はぁ……、やっと戻ってきた……」

「これくらいで疲れてちゃダメだよ」

「無茶……はぁ……はぁ……言うなよ……」

 あれから休憩しては走ってを繰り返していたので正成は体力の限界だ。

 別に走らなくてもいいような気がしたがエイルが「また見つかったら大変でしょ! 急いで帰らないと!」そう言いつつ正成を先頭で走らせてものすごく楽しそうにしているエイルが正成にはよく分からなかった。

 エイルも正成と同じで走っていたのだが息切れはまったくしていない。

 正成にはエイルの体力が信じられない。

 同じ距離走ったのに……。

「あと少しだから頑張って!」

「が、頑張るよ……」

 正成が再び歩き出そうとしたら、

「あっ! やっと見つけた!」

 後ろから声がしたので振り向くとベリの姿がある。

「げっ……マジかよ……ここまで来るか普通……」

「執念深いんだよ。きっと」

 独り言で正成は言ったのに、エイルにはバッチリ聞こえていたらしく苦笑いで答える。

「もう逃さないんだからね!」

 ベリは右手を真っ直ぐ伸ばし正成とエイルに指さして言う。

「本当に勘弁してくれよ……一日に二回も死ぬような目に合わなきゃいけないのは絶対に嫌だ……」

 嘆いていても仕方がないので、

「また、走るよ正成!」

「ですよねー」

 再び逃げることにする。

「あっ! また逃げるの! 卑怯者!」

 何と言われようが正成はもう戦闘はしたくない。

 障害物がないので今回は追いかけっこ。

 ベリの方が少し早くだんだんと距離が縮まっていく。

「このままじゃ追いつかれそう……」

「諦めないの! 諦めたらまた戦闘だよ! いいの?」

「よくない!」

 一生懸命追いつかれないよう目を瞑って走っていると、ドンッと誰かにぶつかり正成は吹き飛び尻餅をつく。

「いったー……」

 目を開け何にぶつかったのだろうと思い顔を上げるとそこには……、

「ぶつかってきてんじゃねーよ! このボンクラ!」

「ひぃ! す、すみません」

 フリッグが立っている。

「あれ? フリッグ何でここにいるの?」

 エイルが不思議そうな顔をして言う。

「そこのボンクラがオレのことを探してるって村のやつら言ってたのを聞いてわざわざ探しに来たところです」

「正成が? フリッグを?」

 首を傾げてエイルは正成の方を見る。

「脅迫状にフリッグへって書いてあったから探してたんだけど……」

「なるほど。で、見つからなかったから自分で来たんだね」

「そう……」

「ボソボソ喋ってねぇでしっかり喋れや!」

 フリッグ大声で言うと正成は震えながら頷く。

「げっ! フリッグさん……」

「あぁ?」

 フリッグが振り向くと、ベリと目が合う。

「ベリか。何でここ……なるほど。だいたい把握した。答え合わせといこうか」

 眉を上げ少しフリッグが考えると、ニヤリッとする。

「いやー……そうそうわたし用事があったの思い出したので失礼しますね」

 動揺しながら森の方に帰ろうとしようとすると、

「待て! このまま帰らせると思うのか?」

 フリッグが一喝してベリの足を止めさせる。

「そうだよねー」

 フリッグの方をロボットみたいな動きでベリは振り向く。

「まず、ボンクラが言っていた脅迫状は姉御をお前らが拐ったでいいよな? ベリが一人ですると思えねぇし。で、脅迫状を置いてきたってところか?」

「はい……」

 いつの間にかベリが正座して答えている。

「なるほど。ボンクラがそれを見つけて、オレを探してたって訳か。てっきりオレはボンクラがオレとの対戦を断りにか先延ばし出来るよう言いに来たのかと思ってたところだったが」

 正成の方に首だけ回して見る。

 首をふるのが精一杯の正成。

「そんなことガルムはしないよ!」

「あ? ガルム?」

「そうだった……。フリッグには正成で教えてるの忘れてた……。フリッグ、この子は本当はガルムって名前なのいい!」

 少し強引に分かってもらうため強めにエイルが言うが……、

「そんなことはどうでもいいです。どのみちオレはボンクラとしか言いませんから」

「あぁ……そぅ……」

 無駄に終わる。

「まぁ、そんなことボンクラが言いに来てたならオレは即刻殺していたな」

 殺気を放ちながらガルムが言うと、正成の震えが更に増す。

「そんなに威圧しないの!」

「ちっ……まったく姉御はこのボンクラのどこがいいのかオレには理解に苦しみます」

 舌打ちしてものすごく嫌そうな顔で言う。

「そんなこと言っていいのかな? ガルムはゲルドを倒したんだよ!」

 ニヤニヤしながら少し腰を低くして上目遣いでフリッグに言う。

「……はぁ? 今姉御何て言いました? オレの聞き間違えかもしれない……」

 フリッグは少し固まった後、信じられなかったのか聞き直している。

「だ・か・ら、ガルムはゲルドを倒しんだよ!」

「聞き間違いじゃなかったのか……おい! ベリ! 今のは本当か?」

 独り言のように言うと、ベリに確かめる。

「はい……本当です……」

 しょんぼりした顔で答える。

「はぁ……あの野郎鍛え方が足りねぇーな」

 ため息をつき頭を抱えるフリッグ。

「ガルムのこと見直した?」

「驚きはしましたが全然です」

「えーっ!」

 エイルは頬を膨らませる。

「おい! ボンクラ今の態度演技じゃねぇだろうな?」

 フリッグは正成を見下して睨みつけながら言う。

 怖くて声も出せない正成は首を左右に振るのが精一杯。

「ちっ……演技しても意味はねぇーか」

 そうであってほしかったのか舌打ちをする。

「で? ゲルドのやつ姿がねぇーが」

「け……渓流で気絶してます……」

 ベリはものすごく言いにくそうな顔でフリッグと目を合わせないように下を向いて言う。

「渓流? 気絶? まさかボンクラにやられて気絶したってのか?」

「はい……」

「オレはてっきり気絶まではしなかったがやられて一緒に追いかけて来たのかと思ってたが、詳しい話はゲルドのやつをここに連れて来てからだな!」

「はい……」

「そうだな……二時間半以内にゲルドを連れて反対側の草原まで来い。いいな?」

「はい……」

「じゃ、行って来い!」

 ベリは立ち上がるとすぐに森に戻る。

「さて、状況は姉御たちから聞いても?」

「いいよー」

「とりあえず、姉御の家に戻りましょうか」

「了解! ってかさっきから姉御言うな!」

「ボンクラ早く立て!」

「はい!」

 急いで正成は立ち上がる。

 十分くらい歩くとエイルの家に着く。

「たっだいまー」

 嬉しそうにエイルは家のドアを開けて入る。

 正成はフリッグと一緒なので気が休まらない。

「じゃ、早速話してもらおうか」

 フリッグはテーブルの前にあぐらをかいて座ると睨むように正成を見る。

 蛇に睨まれた蛙。

 その言葉が状況的に合っていて、正成は立ったまま動けなくなる。

「うわー……とりあえず、ガルム座ろうか」

 苦笑いでエイルは正成の側に行くと正成をテーブルの前に座らせる。

 フリッグと正成の間にエイルが座る。

「ボンクラは姉御が拐われている時何してたんだ?」

「か、買い出しに……」

 恐る恐る正成は答える。

「ったく、シャッキと喋れや!」

「はい!」

 ビクッとなり正成は元気良く言う。

「なるほど。あいつらその時に姉御を拐ったのか。で、買い出しから戻ってきたらさっき言ってた脅迫状が置いてあってオレを探していたってことか」

「そうです!」

「オレがいない間にあいつら好き勝手しやがって」

 フリッグが苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

「ガルムはずっとフリッグを探してたわけじゃないんだよね? 他は何してたの?」

「エイルをどうやって助けだすかずっと作戦を考えてた」

「なるほど。コソコソしてたのは作戦だったのね」

「まぁ……」

「それでよくゲルドに勝てたなぁ? ゲルドが鍛錬を欠かすようなやつじゃないことくらいは分かっているから決して弱くねぇーはずなんだがなぁ」

 フリッグは威圧しながら正成を見る。

「それはもう激闘だったよ! フリッグにも見せたかったくらいだよ!」

「ほぅ? じゃ明後日の約束は楽しみにしていいんだろうな?」

 正成に睨みながら顔を近づけるフリッグ。

 あまりの怖さに後退りする正成。

「いえ、楽しみにしないほうがいいですよ……」

 必死に大きな声を出して言う。

 だんだんと声は小さくなっていくが……。

「ちっ……で、ゲルドにどうやって勝ったんだ?」

「それはね、こう殴り合いの末ガルムが獣を使って倒しんだよ!」

 シャドーボクシングをしながら説明するエイル。

「ざっくりとした説明ですね……。ってことは、ゲルドのやつ剣は使ってないんですね?」

 フリッグはエイルの方を向いて苦笑いをして尋ねる。

「うん。使ってないよ」

「本気は出してないってことだな。まぁ、あいつが本気出したらボンクラは消し炭にされてるだろうからな」

「えっ?」

 正成は驚きを隠せないという表情をしている。

「何驚いてんだよぉ? じゃなきゃボンクラなんぞ楽勝だろ。あいつ油断しすぎだな。ここに来たらきつく言ってやらねぇーとな!」

 指を鳴らしながら怪しく笑っている。

 正成は今後勝てる自信を少しずつ失っていっている。

「ほどほどにね……」

 今度はエイルが苦笑いで言う。

「さっき姉御が言っていたボンクラが使っている獣って何なんですか?」

「チッチッチッ。それを言ったら戦うときの楽しみがなくなるってもんでしょ!」

 人差し指を左右に振りながら言う。

「はぁ……姉御がそういうなら」

「だから姉御言うな!」

 ガーッと両手を上げてフリッグに飛びかかろうとしたがひょいと避けられる。

「一通り話は聞いたのでお茶を入れますよ」

「おぉ! さすがフリッグ気が利くね」

「いえいえ、本当は家に着いてから入れたほうがよかったでしょうが」

 フリッグは保存庫に向かいお茶の葉を探す。

「何でもフリッグは出来るんだね」

「まぁ、ある程度のことは出来ると思うよ。料理も得意だし」

「す、すげー……」

「フリッグの入れるお茶は私より美味しいから期待してていいよ」

 楽しそうに笑顔で言う。

「う、うん」

「ってか、料理なら正成も得意でしょ?」

「ん? 簡単なのしか出来ないよ。エイルみたいに美味しいのは作れない。……で、何で知ってるの?」

「調べたからね。フッフッフッ」

 目を細めて怪しげな笑いをする。

「こ、怖っ!」

「私の料理を褒めてくれるとは嬉しいよ」

 正成は背中をバンバン叩かれながらエイルが照れながら言う。

「エイル、痛いよ」

「あっ、ごめんごめん。でも、私よりフリッグが作る料理の方が美味しいんだよ。一回教えてもらったけど覚えるのが難しいんだよ」

「へぇー」

 エイルより美味しい料理なら食べてみたいが正成が言っても絶対にフリッグは作ってはくれいことは正成自信よく理解しているので言えない。

 でも、エイルが正成の分も作ってと言うならフリッグは嫌々作ってくれるだろう。

 今もお茶を淹れているが正成の分は持ってきてはくれないと思っている。

「よし! 今度三人で料理勝負をしよう!」

「は?」

 呆気にとられる正成。

「は? じゃないよ! 料理勝負だよ!」

「いやいやいやいやいやいやいや! 二人に勝てる気がしないし絶対に参加しないよ!」

 右手を左右に振りながらエイルを止めようとする。

「えーっ。面白いと思うのに。それにフリッグの料理食べれる口実になるし!」

 フリッグが作った料理を思い出したのか、両手を頬に当ててニヤける。

「エイルが作ってって言ったらすぐ作ってくれそうだけど違うの?」

「フリッグは私の料理が食べたいって言って、作ってくれないんだよ。それに答えて作る私なんだけどね」

「あぁ、そうなんだ」

 上手く言いくるめて作ってもらってるのだろうと勝手に正成は思う。

「はい、姉御お茶入りましたよ」

 エイルの前に丁寧にお茶を置く。

「ありがとう」

「ほら、ボンクラの分だ!」

 正成の前に雑に置く。

 そのせいでお茶がこぼれそうになるが、ギリギリこぼれない。

「えっ? あ、ありがとうございます」

 持ってきてもらえると思っていなかった正成は驚く。

「何だぁ、その顔は? もしかしてオレがボンクラの分持ってこないとでも思ってたのか?」

「…………」

 図星だったためどう返していいか分からず無言になってしまう。

「当たってんのかよ……。てめぇ、オレはそんなに心狭くないからな!」

「す、すみません……」

「はぁ~、美味しい~」

 目を閉じてお茶をすすりながら、エイルはまったりしている。

 正成とフリッグはエイルを見て自分たちも同じくまったりしてしまう。

 目の前にあるフリッグが置いたお茶を正成も飲んでみる。

「あっ! 美味しい!」

 エイルの言った通りだった。

「ボンクラに言われても嬉しくも何ともないがな」

「ですよね……」

 三人でお茶をすすりながらまったりしていると外から声が聞こえてくる。

「妹よ。先に行っていいぞ」

「はぁ? お兄ちゃんが先に言ってよ!」

「レディーファーストを心掛けてるから先に行くんだ!」

「それ今思いついたでしょ? 絶対にそんなこと心掛けてないって分かるよ! ここだけだって! しかも使ってる場面が最低だし……わたし以外にはやめてよね。その使い方……」

「いやいやいやいや! 今思いついてないし! いつも心掛けてるっての! 別にいいだろどんな場面だろうと!」

「男ならグダグダ言わずに入るのがかっこいいと思うんだよ」

 大きな声でエイルの家の前で口喧嘩を始める。

 まったりしているのに水を差されるのもあってかフリッグがイライラしながらドアの前に行って思いっきりドアを開ける。

「おい! てめぇーら! グダグダ言ってねぇーで早く入って来い!」

 一喝して二人の口喧嘩を止める。

 もちろん、ベリとゲルドの二人である。

『はい! すみません!』

 兄妹だからなのだろうか息ぴったりに声を合わせて同じことを言って気を付けをして頭を下げて謝る。

「ちっ……いいから早く入って来い」

 フリッグが舌打ちをして、元いた場所に戻る。

『はい……』

 しょぼんとして返事をしてエイルの家に入る二人。

 フリッグの隣で正座して座る。

「で、この計画を考えたのはどっちだ?」

 フリッグが二人を睨むようにして見る。

「お兄ちゃんです!」

 背筋を伸ばしていたベリだがさらに伸ばして声を大にして言う。

「おい……」

 ゲルドがベリを見ながら焦っている。

「ほぅ……」

 フリッグがゲルドの方を見る。

 ゲルドは苦笑いしか出来ない。

「おいゲルド一応聞いておく。姉御を拐って脅迫状まで置いて俺にどうしてほしかったんだ?」

「フリッグなら分かってるかもしれないが、戻ってきてほしかったんだよ」

「まぁ、やっぱりそうだと思ったぜ」

「戻ってきてほしかった?」

 ほぼ無意識で正成はつぶやいてしまう。

「ボンクラは黙ってろ!」

「はい! すみません!」

 今後気をつけようと心がける正成である。

「フリッグがどうしても必要だと俺っちは思ってる! だから……」

「だからじゃねぇー! やっていいことと悪いことあんだろうがぁ!」

「そうですね……」

「やり方がゲスいんだよ! やるなら正々堂々と来い! オレは逃げたりはしねぇー! だが、ことと次第よっては断る可能性もあるがな」

「正々堂々と行って勝てる気がしないからこうしたのに……」

 縮こまってボソッとゲルドが聞こえないように小声で言うと……、

「あぁ! やってもねぇーのにそんなこと言ってるから成長しねぇーんだろうが! だから、ボンクラにも負けんだよ!」

 聞こえてしまっていた……。

「すみません!」

 ゲルド即頭を下げる。

「まぁ、姉御も無事だったし今回だけは大目に見てやる……だが、次同じようなことをやってみろ! どうなるかは分かってるだろうなぁ?」

「き、肝に銘じておきます……」

 ゲルドが小さくなって言う。

「でだ、ゲルド。そこのボンクラと戦ったそうじゃないか?」

「はい……」

 ゲルドがさらに小さくなる。

「本気でやったのか?」

「半分は……」

「なるほど。半分か。剣を使わなかったからか?」

「はい……使わなくても勝てるかと思って……」

「まぁ、そうだよなぁ! 見た目があんなだしなぁ!」

 フリッグが正成をチラッとだけ見ると正成はビクッとなる。

「はい、俺っちとやりあう前もあんな感じだったし……」

「前? ってことはやりあってるときは違ったのか?」

「ええ、結構強気にきてましたよ」

「ほぅ……で、ボンクラは強かったか?」

「なかなか。あれが本気だったら次は負ける気はしないかな」

「そうか。だったら楽しめそうだなぁ!」

 フリッグがニヤリッとする。

「楽しめる?」

「明日ボンクラと試合するんだよ。オレに勝てば不本意だが認める。負ければ殺すって感じだな」

「それってもう『死』確定じゃないっすか……」

「やってもねぇーでそんなこと言ってんじゃねぇーよ! なぁ! ボンクラ!」

 ここで会話をパスされると思ってなかった正成は、

「は、はい!」

 裏返った声で返事をする。

 大きな声だったため物凄く恥ずかしくて顔が真っ赤になるが誰もそんなことは気にしてはいない感じ。

「ボンクラもああ言ってるんだからまだまだ秘策があるのかもしれねぇーだろ?」

 楽しそうにフリッグが指を鳴らす。

「あれは条件反射で答えてて本人の意思はないような……」

 ゲルドがフリッグに聞こえないように呟く。

 聞かれたらまた面倒なことになりそうだからだ。

 フリッグの言葉を聞いて正成は秘策は全然ないし明日はどうしようかずっと考えているが、この状況では思いつくはずもない。

「それじゃ、オレはこれで失礼しますよ姉御」

「ん? もういいの?」

 ずっとまったりお茶をすすって話を聞いていたエイルはフリッグを見る。

「はい」

 フリッグが立ち上がる。

「そっか。ご飯食べていけばいいのに」

「姉御にそこまでしてもらったら悪いです。今日はお疲れでしょうからこれで失礼しますよ」

「分かった。また明日ね」

「はい。おい、おめぇーらはどうするんだ?」

「あのー……明日のフリッグの試合見に行っても?」

「構わねぇーがどこに泊まるんだ?」

「まぁ、野宿でもするかな」

「えー、じゃお兄ちゃん一人でしてよね! わたしはどこか探すからね!」

 今まで黙っていたベリが不服そうに答える。

「いや、帰っていいんだぞ?」

「嫌に決まってるでしょ! わたしも試合見たい!」

「そうかよ……で、止まる場所の宛はあるのか?」

「ないから探すって言ってるじゃん!」

「諦めて一緒に野宿だな……」

「いや! お風呂入れないし、布団でも寝れないのは勘弁だよ!」

「だったら諦めて帰れよ……」

「いやって言ってるでしょ!」

 何だかイタチごっこになりそうだなぁと正成は思いつつ、兄妹ってこんな感じなのかなと感じで見ていると、

「だったら、ここに泊まっていく? 布団も来客用にあるし」

 エイルがイタチごっこを止めに入る。

「え? いいんですか! あっ、でも……」

 ベリが喜んだがすぐに自分がしたことを思い出ししょんぼりとなる。

「あぁ、気にしなくていいから、女の子野宿させるのも私が嫌だし」

「でも、昨日はわたしがさせてしまったので……」

「いいよ。もともとは私が原因みたいなものだし」

「いや……でも……」

「あぁ! もう! ベリちゃんはここに泊まる! オーケー?」

 エイルはベリの両肩を掴み無理にでも泊まらせようとする。

「お、オーケー……」

 気まずそうにベリが言う。

 それを黙って聞いていたフリッグが、

「い・い・わ・け・ねぇー・だ・ろ・う・がぁ!」

 ベリの頭を右手で鷲掴みする。

「いたたたたたたたたたたたたたたたたたた! あ、頭が割れますぅぅぅぅぅぅー!」

 怒りでついフリッグは握力を入れすぎる。

 目の前でその光景を見ているエイルは苦笑いをしている。

「ったく、今回はオレが悪い部分もあるからおめぇーらはオレのところに来い! いいな! まぁ、反論は許さねぇーがな!」

「は、はい! 分かりましたから手を話してください!」

 フリッグが手を話すとベリが半泣きで頭を抱えてうずくまる。

「フリッグ……ベリちゃんに変なことしたらダメだからね!」

「変なこと?」

「手を出すってことだよ!」

「別に暴力はしないですよ。泊めるだけだし」

「そっちの意味じゃないよ! セクハラ的な意味だよ!」

「…………はぁ!? 姉御……オレがそんなことするようなやつに見えますか? ってかゲルドも一緒なんですよ?」

「ゲルドっちが寝た後とか?」

「ないですよ……」

「だよね! 冗談はここまででありがとうね」

 満面の笑みでフリッグに言う。

 それを見てフリッグは許してしまう。これがエイル以外の人だったら確実にやられていただろう。

 正成はフリッグとエイルのやりとりをハラハラ・ドキドキしながら見ていた。

「姉御の家に泊めさせたら、また姉御に借りを増やしてしまって返せなくなってしまいますからね」

「いつも言ってるでしょ。忘れていいって。かしてるともわたしは思ってないからね」

「姉御がよくてもオレがダメなんですよ」

 一体この二人に何があったんだろうと思い正成が見ていると、

「ボンクラ何見てんだぁ? 何か言いたいことでもあるのか?」

 フリッグが怒りの眼差しで見ながら言う。

 ぼーっとしていた正成はビクッとなり反射で、

「いえ! 何もないです!」

 と答える。

 本当は二人に何があったか訊きたかったが訊いたところで教えてくれるはずもなさそうなので今回は触れないようにする。訊く機会はいつでもありそうなので。

「そうかよ。ほら、おめぇーら行くぞ!」

『は、はい!』

 ベリとゲルドがすぐに立ち上がりフリッグに付いて行きエイルの家を出る。

『お、おじゃましました』

 なぜか二人して小声で言って、ドアを閉める。

「はぁ……」

 ここで正成の緊張が一気に解けて脱力する。

「緊張しすぎだよ。もっと気楽にしてないと疲れるでしょ」

「いやいやいやいやいやいや! エイルが気楽にしすぎなの……」

「自分の家だし気楽にするでしょ」

「メンバーにもよるでしょ……。今日は誘拐犯もいたんだし」

「全員知ってる人だったからね」

「そう言えば、そんな感じだったね」

「あっ! お腹空いてない? 何か作ろうか?」

 エイルがゆっくりと立ち上がると全員分の湯呑みを片付けながら正成に訊く。

「えっ? まぁ、空いてるかな……って、あぁ! エイル湯呑みは俺が片付けるよ」

 正成はいきなり話が変わったので戸惑って返事をした後エイルが片付けようとしていた湯呑みを渡してもらい洗い場まで持っていく。

「ありがとう」

「いや、これくらいはしないとね」

「じゃ、片付けてる間に下ごしらえでもしておこうかな」

「終わったら手伝おうか?」

「大丈夫! 正成は待ってて」

「逆に気を使うんだよね……」

 頬を掻きながら困った顔をする。

「じゃ、手伝ってもらおうかな」

「喜んで。そうだ。エイルって俺の名前使い分けるの大変そうだしいつもガルムでも構わないよ?」

「ん? それじゃ、私が許せないの。本名は正成だから一人でも名前で呼んでくれる人いたほうがいいでしょ?」

 エイルの言葉を聞いて嬉しく思う正成。

「ありがとう」

 自然と微笑み言葉が出る。

 エイルはその正成の表情に少し見とれて、

「どういたしまして」

 同じくエイルも微笑み返す。

「さっ! 洗い始めようかな」

「じゃ、私も下ごしらえ始めようかな」

 気のせいかエイルのツインテールがピコピコ動いている気がする正成だったが、エイルが動いているからそう見えるのだろうと思う。

 正成が片付けを終えるとエイルを手伝いお昼ごはん。

「今日は夕ご飯の下ごしらえ早く終わってよかったよ!」

「言ってくれればいつでも手伝うよ」

「そう? ピンチの時はそうするよ」

 いつも楽しそうで余裕な感じなので手伝うことがあるのかどうか……。

「じゃ、お昼終わったら特訓だね!」

「そうなるよね……」

「で、夕ご飯終わったら作戦会議だよ!」

「いい案があればいいが……明日は俺の命日かも……」

 しょんぼりする正成。

「こら! そんなこと言わないの! 正成なら大丈夫! 信じてるからね!」

 正成の額をエイルは人差し指でツンとつく。

「頑張るよ」

 お昼を済ませ特訓開始。

 外の草原に出てエイルが伸びをすると、マジックケージを出す。

「さぁ、結界を展開するよ」

「うん」

「結界展開!」

 エイルの足元に魔法陣が出ると、結界が張られる。

「いつ見てもすごい」

「いい感じだね!」

 次にフリッグを魔力で生成する。

「いつ見ても迫力あるな……」

「さぁ! 練習! 練習!」

「やるだけやってみるか」

 銀色のコントローラーを出して、ガルムが現れる。

「シュラハトフェルト」

 2D使用にすると今度はコンソールを出す。

「コンソール、リンク」

 まだまだ声は小さいがエイルはぎこちなさがなくなって少しはよくなったかなと思いつつ微笑ましい顔で正成を見ている。

 準備完了。

「さっ、どうぞ、どうぞ」

 ニコニコしながらエイルが正成を見守る。

「それじゃ、始めますか」

 早速始めるがコンボの練習がなかなか上手くいかない。

 練習を重ねないと出来ないのだがこの短時間で出来るようになるかと言うと、少し上達するくらいでフリッグに挑むとなると『少し』ではまったく歯がたたないと正成は思っている。

 せめて、後一、二週間はほしかったところ。

 練習していくうちに時間はどんどん過ぎていく。

 正成が予想した通り少し上達しただけで辺りが暗くなってくる。

「もうそろそろ撤収だね」

「そうだね」

「じゃ、戻ろうか」

「了解」

 家に戻るとエイルは夜ご飯の支度をする。

 下ごしらえをしていたため、早く出来がったのでいつもより早いご飯になった。

「ごちそうさまでした」

「お粗末様」

 正成が皿の洗い物を済ませてエイルのところに行くと何か一生懸命紙に書いている。

「何書いてるの?」

「ん? あぁ、洗い物終わったんだね。ふっふっふっ……じゃーん!」

 集中していたのかエイルは正成に声をかけられるまで気づかなかった。

 書いているものを正成に腕を伸ばして見せつける。

「なになに……? 『打倒、フリッグ! 勝利を我の手に作戦』……えっ? 何これ?」

「何これじゃないよ! 明日のために気合いを入れてあげようと思ってるの!」

「なるほど。で、どんな作戦なの?」

 あまり期待をせずにどんな作戦なのか訊く。

「とりあえず、攻めて攻めて攻めるんだよ! 攻撃は最大の防御って言うくらいだし!」

 少しは期待した正成は心の中でがっくりしている。

「そんな言葉よく知ってるね……。まぁ、頑張ってみるよ」

「はい、これあげるよ。今日はこの言葉を胸に抱いてちゃんと睡眠をとるんだよ!」

 エイルから『打倒、フリッグ! 勝利を我の手に作戦』と書かれた紙を受け取るがどうしたものかと正成は考える。考えても仕方ないのでとりあえず、明日どうするか考えつつ寝ることにすることを決める。

 で、何も思いつかないままいつの間にか寝てしまい決戦の日を迎えることになる。


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