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アナザーディメンション  作者: ユリス
第二章『救出』
6/11

「救出」(戦闘編)

 渓流なので周りが石だらけで普通だったら戦いにくそうだが、この戦闘は2D格ゲーみたいになるので、関係はない。

 だが、戦闘が終わると元に戻るので逃げるときなどは走りにくく逃げにくい。

 下手をしたら転けそうになる。

 そんな中、正成はシルバー色のコントローラーを出し、覚悟を決める。

 隣にはガルムが現れる。

 選手交代。

「じゃ、じゃ……い、いきますか……」

 震え声でつっかえながら言う。

「お前はすぐには殺しはしないからなぁ!! ボッコボコにして傷めつけてから殺す!! 俺っちに無駄なことをさせたことを後悔させてやる!!」

「…………」

 恐怖で足が震えて正成は動こうと思っても思うように動けない。

 覚悟を決めたとしても、怖いものは怖い。

「まともに戦えるのかぁ? 一方的すぎてもつまんねぇーからよぉ!!」

「お、おぅ……」

 正成の精一杯の言葉。

「はぁ……こりゃ一方的になりそうだな」

 ため息をついてゲルドは構える。

「よし! シュ、シュラハトフェルト!」

 途中裏声になるが、きちんと2D画面になる。 

 正成はエイルの隣まで全力ダッシュで逃げる。

 エイルが正成に必死に何かを伝えようとしているが、絶逃不は声も遮るためジェスチャーでしか伝えられないため正成はエイルが伝えようとしていることにも気づいていない。

「こ、コンソール、リンク!」

 右手を右から左へ一線して、正成の前には5インチサイズの画面が表示される。

 横で見ているエイルは不安でたまらない。

「さて、が、頑張るぞ……」

 生唾を飲みつつ緊張で手が思うように動くか心配。

 正成はコンソール画面を見て、今は画面が大きい方がよかったので親指と人差指をつまみ画面に触れ両指を開くようにして画面を大きくする。

「これで見やすくなったな」

 画面には2D背景で渓流にガルムとゲルドが真ん中辺りに立っている。

 右上にゲルド、左上にガルムの顔と名前があり中央に向かってHPゲージその下にガードゲージ、中央上に制限時間、下両端にスターライトゲージが表示されている。

 制限時間は∞。

「よし!」

 気合を入れ初めての試合に挑む。

 準備ができたところで試合前のちょっとした会話が流れる。

「弱そうだし、さっさと終わらせるぜぇ!!」

 指をポキポキとならしながら言い、ゲルドは戦闘態勢に入る。

「…………」

 ガルムが無言で戦闘態勢に入る。

 画面にⅢ、Ⅱ、Ⅰ……。

 正成の初試合が始まる。

 緊張でこのまま時が止まってほしいくらいだ。

 そして……、


 kämpfen!!


 の文字が出ると同時に戦闘が始まる。

 始まると同時にガルムがジャンプして後ろに下がる。

 相手の出方を見るためである。

 正成が臆病だからとった行動というのもある。

 出方を見た結果、ゲルドの最初の行動は拳で地面を殴り魔力の衝撃波を地面から伝わせてガルムに向かって攻撃を仕掛ける。

地波掌じはしょう!!」

 正成はとっさに着地と同時に十字キーの右を押してガードする。

 その時を狙ってかゲルドはダッシュでガルムに近付き回し蹴りで中段の攻撃をする。

 しゃがみガードしているガルムはガード出来ずにダメージを受ける。

「しまった!」

 思わず正成は声に出してしまった。

 一撃からコンボ攻撃は大ダメージに繋がってしまう可能性が大きい。

 案の定ゲルドのコンボ攻撃を受ける。

 アッパーで空中に上げられてゲルドもそれに合わせて跳び、中攻撃、強攻撃を2回ずつ入れられて衝撃波付きの踵落としで地面に叩きつけられる。

 その衝撃でガルムはバウンドで跳ね上がる。

 跳ね上がっている間にゲルドが着地してさらにコンボが続く。

 落ちてくるのを見計らってほんの少しだけ間を置く。

 落ちてきた瞬間を狙って中攻撃、強攻撃を入れ最後に衝撃波付き拳で大ダメージをガルムに与えるとガルムはダウンしたまま壁際まで追いやられる。

「やばっ!? かなりダメージ受けたな」

 壁際のコンボは抜け出すのが大変でさらにコンボが入りやすいので絶対に抜けださなくてはいけない。

「ってか、一番最初の敵って弱いって言うのが普通じゃないの……」

 愚痴を言っても状況は変わらないが、敵が強いので正成は言わずにはいられなかった。

「いやいや、集中しないとな」

 ゲルドはガルムが起き上がる前に走って近づいて、ガルムに何もさせないよう怒涛の勢いで攻撃を仕掛けようとしている。

「本格的に何とかしないと何も出来ないまま終わってしまう……。まぁ、一か八か魔力ブレイク狙ってみるか。その前にスキが出来れば普通に反撃したいんだよな」

 読み合いが重要になってくる。

 上・中段攻撃か下段攻撃のどちらでくるのか。

 読み合っていたとしても魔力ブレイクまでいけるかどうかは正成の腕次第。

 さっきは中段だったので、次も同じく中段で来ると読む。

 ガルムが起き上がる。

 その瞬間ゲルドの攻撃。

 正成の思った通り中段攻撃で直前ガードも成功。スターライトゲージが少し多く溜まる。

 ガードされたゲルドはコンボ攻撃が難しいと判断したのか、次の行動に移る。

 ガードしているガルムにガシッと掴み投げの体勢をとる。

「なるほど。そう来るか」

 正成は経験上、投げ技が来ることは予想出来ていた。

 なので、即投げ技のコマンドを入れて投げ技を回避する。

 ガルムはゲルドが掴んでいる手を払いのける。

 投げ回避が成功したので、ゲルドにほんの少しだけスキが出来る。

 その間にガルムはゲルドに向かってジャンプして空中ダッシュでゲルドを超えて立ち位置を逆にする。

 着地と同時にゲルドに攻撃を仕掛けてみる。

 ツヴァイボタン(中攻撃)、ドライボタン(強攻撃)からの左十字キー押しながらアインスボタン(弱攻撃)。

 ガルムはゲルドにパンチ、蹴り、空中に上げるために蹴り上げる。

 だが、全てガードされてしまう。

「これきつすぎる……何しても全てガードされるような気がしてならない……」

 ガードされたことで、どうしても隙ができてしまう。

 なので、正成は立ちガードの体勢をとる。

 相手はそれを分かってか牽制で弱・中・強攻撃をして空中ダッシュで後ろに下がる。

「うぉ! そりゃ!! はっ!!」

 攻撃をするたびに二人のキャラが掛け声を言う。

 正成はここからどうするか迷う。

 下手に動いたら反撃で大ダメージ、動かなければ中段か下段の揺さぶり攻撃で翻弄されて大ダメージ。

 迷っても仕方ないと決断して、攻撃をしようと近づこうとしたとき、ゲルドがファイティングポーズをとりその場で軽くジャンプしている。

「何だ? 何をしているんだ?」

 気になって警戒していると、ゲルドのスターライトゲージの上に違うゲージがある。

 正成はこれに気付いてはいたが、緊張と戦略でそれどころではなかった。

 ゲージは五段階あり階段上にゲージはなっている。

 今は二速と表示されている。

「おいおい……これってまさか……」

 考えている間にもゲージが少しずつ溜まってきている。

「やっぱりそうか! あれはゲージを溜めているのか!! やばい、早く止めないと絶対に面倒なことになりそうだな!!」

 止めるなら早くしないといけないので正成は即攻撃を仕掛ける。

 相手も気付いたのかファイティングポーズを止めガードの体勢。

 空中ダッシュでガルムをゲルドに近づけそのまま空中で中攻撃の足蹴りをして、ゲルドにガードさせる。

 そのまま地上に着き攻撃を続ける。

「相手も特殊なことしてるから、そろそろ俺も使っていかないとまずいよな」

 ツヴァイ、ドライ、フィーアとボタンを押す。

 殴って回し蹴りをしてからの特殊攻撃。

 回し蹴りまでを全て立ちガードでガードされてから、ガルムの足元から白い熊の手みたいな大きな手が出てくる。

 この攻撃は下段攻撃なので立ちガードしているゲルドはガードを崩されてダメージを受ける。

 この隙を狙って追加攻撃を入れる。

 今度はガルムの右肩あたりから同じように白い熊みたいな手が出てきてゲルドを殴るとゲルドは思いっきり吹き飛びダウンする。

「よし! 決まった!!」

 声で喜び心でガッツポーズをする。

 ダウンしている間に近づく、コンボを入れようしている。

「まだ、自分自身へのダメージが半分も減ってないからあまりダメージはないか。でも、同じくらいまでは減ったような気がするな」

 正成が考えた特殊技は、シュメルツ・タイレン(痛み分け)。

 自分のダメージが減っていればいるほど、相手に与えるダメージが増加していく。

 ゲルドが起き上がった瞬間に攻撃をする。

 ガントレットで裏拳で中段攻撃をして、しゃがんで足払いの下段攻撃をしてゲルドにガードされないように揺さぶる。

 ゲルドは立ちガードをしていて、下段は読んでいなかったのかそのままダメージを受け、またダウンする。

 そこから、ガルムはゲルドを掴んで起きがらせる技を使う。

「ほら、立てよ」

 ガルムが言うと、ゲルドを無理矢理立たせると正成はそこからコンボ攻撃を入れる。

「チャンスだな……」

 正成は、緊張とコンボをはずせないプレッシャーで手と声が震える。

 ガルムはストレートにパンチ、蹴り、そして空中に上げるため蹴りあげる。

 十字キーの斜め上でゲルドにガルムは付いていく。

 中攻撃、強攻撃を当てて空中ジャンプをしてもう一度当てて白い熊みたいな手を出して殴る。

 今回は壁際なので吹き飛びはしないが、地上にゲルドは落ちダウンはする。

 ガルムが着地と同時に再び起き上がらせる。

 これ以上当ててもダメージは全然と言っていいほど増えないので起き上がらせてちょっと時間を置いて攻撃に入る。

 手の震えでコンボが失敗しないか気が気でない。

 ゲルドが中段でガードすると読んで下段攻撃足払いをする。

 予想通りゲルドが中段でガードしたため下段攻撃がヒット!

 そこから技のコマンドを入れる。

 同じコマンドを三回入力して拳に風を纏わせ右手で腹、次に左手で顔、最後に右手で顎にアッパーをする。

「風・迅・裂波!」

 ゲルドが少しだけ浮いてダウンしようとする。

 正成はダウンする前にコマンドを入れる。

 ガルムの後ろから白い熊みたいな手が出てゲルドを握って捕まえると地面に投げて叩きつけると、ゲルドはバウンドする。

 そこからガルムが付いて行き技を入れ大ダメージのコンボを入れるはずなのだが……。

 正成は緊張と震えでコマンド入力を失敗して、ただゲルドに付いて行っただけで何も出来なかった。

「しまった!」

 ゲルドはこの隙を見逃さない。

 すぐに攻撃に移る。

 棒立ちでいるガルムにゲルドは場所を変えるため技を使ってガルムの後ろに回り込み屈みこんでおもいっきり殴る。

 壁際コンボ攻撃。

 ダメージを受けている体勢のガルムにゲルドは足膝蹴りから右手で殴り左手で衝撃波をゼロ距離で当てて足蹴りを入れてさらに追加で足蹴りでガルムを少し空中に浮かし付いて行くと衝撃波の踵落としでガルムが地面に少し埋まる。

 これにより数秒ガルムが立てなくなる。

 ゲルドはその間にファイティングポーズをとりその場で軽くジャンプしながらゲージを溜める。

 急いで正成はコントローラーのボタンをガチャガチャする。

 早くガルムを起こさせるために。

 その間にもゲルドの階段上のゲージが溜まっていく。

 三速とちょっと溜まるとガルムが起き上がろうとするので溜めるのをやめて攻撃に移る。

 ゲルドの特殊技、肉体強化『ギア』。

 ギアゲージを上げることで早さと攻撃力、防御力が大幅に上昇する。

 もちろん発動しなければ使えない。

 スターライトゲージを使う必殺技を使うと一気にゲージが減るのだが、特殊技で使うときに一定時間大幅に早さ、攻撃力、防御力を上昇させることが出来る。

 ゲルドは必殺技で使わずに特殊技で発動させる。

「ドライギア!」

 薄赤色のオーラを纏うゲルド。

 このオーラが消えるまでギアの効果が続く。

 ゲルドはガルムが起き上がった瞬間、弱、中、強の拳を繰り出す。

 ダメージが先程より多くなっている。

「やば……今で体力半分減ってるのにこれ以上は本気でやばい……」

 正成は焦っている。

 コンボが終わった後抜け出せるのか、本当に勝てるのか、といろいろ考えてしまい自信が少しはあったのが今は全然なくなっている。

 その間にもコンボは続く。

 ガルムが空中に上げられゲルドが付いて行き中・強攻撃を二回ずつ入れて衝撃波付き踵落としで地面に叩きつける。

 ギアで攻撃力が上がっているため地面にめり込む。

 ゲルドは着地すると地面に拳を入れる。

 ガルムの下から衝撃波が一気に吹き出しガルムが浮く。

 浮いたときにゲルドが必殺技を使う。

「覚悟はいいか?」

 拳が光ってガルムを衝撃波付きで空中に思いっきり上げるとガルムは画面から居なくなる。

「全然覚悟よくないよ!」

 正成は体力ゲージを見ながら死なないよう祈る。

 ゲルドはガルムが空中にいる間に衝撃波を溜めている。

 ガルムが降ってきてゲルドの目の前まで落ちてくるとボディに拳を入れる。

 ドンッと音と共に大ダメージを受ける。

 死にはしなかったが体力は危ない。

 ここから逆転するのは難しいだろう。

 焦りと緊張と震えがなければ別だが正成はさっきより震え増している。

 もう駄目だ……。

 諦めかけて隣にいるエイルの姿を見る。

 エイルは笑顔で正成を見ている。

 正成はこの状況で笑顔の意味は理解不能だったが少し落ち着く感じがした。

 そしてエイルは手のひらから青い炎を出し、正成に見せる。

 不思議と正成は震え、緊張、焦りが和らいでいく。

 鎮静の青い炎。

 この炎は燃やすことの攻撃は一切出来ず、見てる人を鎮静させる効果がある。

 今の正成には効果絶大。

 すごく気持ちが落ち着き集中出来るようになる。

 エイルは満面の笑みでグッと親指を立てる。

 正成がどんなにピンチでも必ず勝つことを信じているからだ。

 それが正成にはとても嬉しくありがたい。

 エイルの期待に応えれるよう勝つしかない。

 真剣な眼差しで画面を見る正成。

 今の状況はガルムが起き上がろうとしていて、ゲルドが近づいてきてとどめを刺しにきている。

 ここから相手の出方をどう読むか冷静に考える。

 下段攻撃が来ると読みしゃがみガードをする。

 直前魔力ガードで。

 ゲルドの連続攻撃が続く。

 中段攻撃と下段攻撃の揺さぶりをしてくるとさらに読んで魔力ブレイクを狙う。

 次に中段攻撃ときて下段攻撃を二回。

 ビンゴ!

 正成の読みは全て当たる。

 それを直前魔力ガードでガードしてゲルドを魔力ブレイクで吹き飛ばす。

 見ているだけだったら簡単に正成が全てガードしているように見えるが、これは正成の経験と読みがあってこそ出来たこと。

「よし!」

 正成は心の中でガッツポーズをとり反撃に移る。

 ゲルドに近付きゲルドが起き上がったときに、下段の足払いをする。

 立ちガードしていたゲルドは倒れる。

 ガルムはゲルドを掴み起き上がらせる。

「ほら、立てよ」

 ゲルドを蹴り上げ空中に浮かすとガルムは付いて行き中・強攻撃を二回入れて白い熊みたいな手が後ろから出てきてストレートに殴る。

 最後のは特殊技なのでダメージがすごく大きい。

 体力が減っていれば減っているほどダメージが大きくなるので今のガルムの攻撃はゲルドにとって驚異的。

 だが、ガルムのコンボを抜けゲルドが一撃でも入れてしまえばゲルドの勝ちは揺るぎない。

 絶対にさっきみたいなミスは許されない正成。

 そんな状況で今の正成は笑みを浮かべている。

 不思議とミスはしない気がする。

 こんなにも冷静に楽しく格ゲーが出来きて信頼してもらっているのが正成自信は集中していて気づいていないがとても嬉しく思っているのだろう。

 ガルムが着地してゲルドがダウンする。

 ゲルドが起き上がった時に、ガルムが中攻撃の裏拳で攻撃。

 だが、ガードされてしまう。

 次に下段の足払いをするがこれまたガードされる。

 この状況でも正成には焦りはない。

 逆にガードをされるのを望んでいた。

 スターライトゲージはMAX表示。

 画面が必殺技を発動する前に一瞬暗くなりガルムが光る。

 白い熊みたいな手がガルムの後ろから出てくるとゲルドの顔を掴む。

 投げの必殺技。

 スターライトゲージ消費はⅡ。

 ガードしていたゲルドは避ける事が出来なかった。

「消し炭にしてやるよ」

 ガルムを掴んでいる手から爆炎を食らわせる。

 ボンッ、ボンッ、ボンッ……と何度かダメージ与える。

 勢いよくゲルドのHPが減っていく。

 最後にドンッ! と、思いっきりの爆炎を浴びせる。

 この勢いで手から離れゲルドは地面へとダウン。

 この時点でゲルドのHPはなくなっている。

 K.O!

 と、表示される。

 正成の勝利!

「出直して来な」

 ガルムがダウンしているゲルドに言う。

 勝利した正成は時が止まったかのように画面を見ながら動かない。

 それほど勝ったことが信じられない感じだ。

 数秒して正成は全身が震えだす。

「や……やった――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 銀色のコントローラーを持ったまま両手を上げ目を瞑り思いっきり叫ぶ。

 隣にいるエイルは目を丸くする。

 正成にこんな一面もあったのかとエイルは思った。

 喜びの感情をこんなにも出すことは滅多にない。

 正成の前からコンソールが消える。

 少し離れたところにはガルムが立っていて、ゲルドが倒れている。

「お兄ちゃん!」

 ベリが急いでゲルドのもとに行く。

「よかった。気絶してるだけみたい」

 首に後ろから手を回して上半身を起こすと息をしているか確認する。

 ゲルドが気絶したことで絶逃不の陣が消える。

 エイルが開放される。

 すぐにエイルは隣にいる正成に抱きつく。

「エ、エイル!?」

 いきなり抱きつかれて正成はものすごく動揺している。

 正成の顔がゆでダコみたいに真っ赤になる。

「よかった……」

 耳元でエイルに言われ、信頼はしてくれていて、その上で心配もしてくれていたんだと正成は感じた。

「お兄ちゃん……敵討ちしてあげるからね」

 正成はベリの言葉を聞くと、これ以上戦っても意味がないと考えてベリに捕まる前に逃げることにする。

「エイル行くよ」

「えっ?」

 エイルをお姫様抱っこして森の中に走って逃げる。

 その時にはガルムの姿はない。

 抱きつかれた時に意識をエイルに持っていかれたからだ。

「あっ! こら! 待て――――――――――――――――――――――――――!」

 ベリが叫ぶが待てと言われて待つ人はこの状況ではいない。もし仮にいるなら戦闘狂くらいだろう。

 もと来た道を行く正成。

「お兄ちゃん、ごめんね。少しここで待っててね」

 ベリはゲルドを置いて正成を追いかける。

「正成! 正成! 追いかけてきたよ!」

「はぁ……勘弁してほしいよ……」

 ため息をつくとしょんぼりした顔をする正成。

「もう自分で走れるからおろして。じゃないと追いつかれるよ」

「ん? そうか。そうだな」

 正成はエイルを下ろす。

「本当はもうちょっとあのままでいたかったな……」

 ボソッとエイルが言う。

「えっ? 何か言った?」

「いやいやいや、何も!」

 慌てているエイルの姿を見て正成は、はてなマークだった。

 気にしないようにして正成はエイルの手を掴むと走る速度を上げる。

 エイルが一瞬ドキッとする。

「はぐれたら困るからこのまま行くよ」

「うん!」

 満面の笑みですごく嬉しそうな声で言う。

「あの時のことを思い出すよ」

「あの時って?」

 正成に聞こえないように言ったつもりなのにバッチリ聞かれてしまっていた。

「あの時はあの時だよ! ほら! 早くしないと追いつかれるよ!」

 恥ずかしさを隠すためエイルは無理矢理話を戻す。

「お、おぅ」

「体力がこのままいっても持たないからまかないといけないね」

「そうだな。どうするんだ?」

「任せて! ここでまくのは得意だから!」

 エイルはウインクをする。

「じゃ、任せる」

 木の枝が出ていて正成は足元を気をつけながら走っているがエイルは余裕で走っている。

 右に走りながら前に進み後ろを気にする。

 まだ、ベリの姿が見える。

 さらに右に走りながら前に進む。

 正成もベリをたまに気にしながら走っているが転けそうになって危ない。

 木が多いせいかベリの姿が確認しにくい。

 ベリからも正成たちの姿は確認しにくくなっている。

 エイルの狙い通り。

「これくらいかな?」

 左に一気にエイルは進む。

 いきなり左に行かれて正成は戸惑う。

「成功だね!」

 正成が後ろを見るとベリの姿はなかった。

「すごい……」

「これくらい余裕だよ」

 さっきまでの真剣な表情とは違って、笑顔でエイルは走っている。

 追手の心配もなくなったので、休憩しながら村へと戻る。

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