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アナザーディメンション  作者: ユリス
第二章『救出』
5/11

「救出」(作戦実行編)

 翌朝。

 正成は眠い目を擦りながら大きなあくびをして目を覚ます。

 一度伸びをして布団から出る。

「あぁ、朝がきてしまったか……。出来れば夢であってほしかったがそうもいかないよな……」

 言葉では言っていても行動はエイルを探している。

 帰ってきているのではないかと。

 だが、現実は甘くない。

 着替えを済ませて、とりあえず座って作戦を改めて確認する。

「本当にいいのだろうか……。最悪エイルだけは助けれるようになってるよな……?」

 最終確認ですごく不安になる。

 テスト勉強をして次の日テストを受ける前に教科書を見て最終確認しながら大丈夫だろうか、と思う感じ。正成の場合生きるか死ぬかなのだが……。

「はぁ……じっくり考えても仕方ないか。実行あるのみ」

 立ち上がりとりあえず、朝ごはんを作ることにする。

 エイルがいないので簡単な料理をして食べる。

「やっぱ自分で作ると美味しくは感じないな。エイルの料理がいいな。そのためにも頑張らないとな」

 助けに行くので気合いを上げる。

 食べ終わって片付けて、出発の準備をする。

「よし! そろそろ行かないとな。エイルも待ってるだろうし」

 足が少し震えているが、そんなことを気にしている場合ではない。ここで行かねば男ではない!

「それじゃ、村の人に森の渓流の場所を訊きに行きますかね」

 家を出て、村の人に尋ねると歩いて一時間くらいで着くと言われ、まず森に向かう。

「一時間は結構かかるな。まぁ、のんびり歩いて緊張をほぐしながら行くか」

 森に着くと、正成が見たこともないような植物がたくさん生えていて、地面から木の根っこがあちこちに出ていてとても歩きにくい。

「これを一時間もかよ! これ着く前に体力つきそうだな。大丈夫か……?」

 文句を言いながらも地道に歩いていくしかない。

 三十分後。

「はぁはぁ……ちょっと休憩……さすがに疲れた。これ渓流に着いたとき動けないんじゃね?」

 近くの木に座り、もたれ掛かる。

 空を見上げると、風で草木が揺れる音がして、励ましてくれているかのように気持ちのいい風が吹いて木の葉が掠れて舞う。

「さて……と、もうちょっと頑張りますかね!」

 自然から少し元気をもらい進み始める。

 さらに、三十分後。

 渓流が見えてきたので少し休んでから作戦を実行することにした。

「つ、疲れた……。とりあえず、回復するまで待って行動開始だな」

 少し離れているが渓流のせせらぎが聞こえ、まったりと待つ。

 疲れが少し癒えたところで、作戦を開始!

 手足が震えているが立っていられないほどではないので気にしていられない。

 では、最初の作戦……コソコソ作戦を実行する。

「さぁーて、まずは相手が何人くらいいてエイルがどこにいるかだな」

 ほふく前進をしたいところだが木の根っこが邪魔で出来ないので、しゃがんで小さくなりながら草むらに身を隠しながら渓流の様子を伺う。

 すると、二人の男女がいる。

 女性は小柄で黒髪ポニーテールで川で水を汲んでいる。

 男性が黒髪ショートの細マッチョで片手腕立て伏せをして筋トレをしている。

「あの二人がエイルを拐ったのか?」

 自分でも聞こえるか聞こえないかくらいの声で言う。

「いやまさか、二人だけでエイルを拐ったってことはないだろうし、二人の様子を観察しながらエイルを探してみるか」

 草むらに隠れながら移動すると、先ほどの角度からは見えなかったがエイルを発見する。

 手足を縄で縛られ、口は何もされておらず喋れる状態。

「エイルを発見したはいいが、どうやるかな……。助け出すには川を渡らないと行けないしな」

 思考しながら、辺りを見回す。

「二人から見えないところまで移動して川を渡ってからエイルに近付き縄を切って助け出すか。エイルの周りに隠れる場所がないからそこは考えておかないとな」

 このときのことを考えてなぜか家にあったサバイバルナイフを持ってきている。

 隠れながら移動開始して十分に離れてから川を渡る。

 渡り終えると葉っぱ付きの太い木の枝を探す。

「えーっと……おっ、あったあった。うわっ、思ったより太いな。ノコギリがあればよかったが今はこのナイフしかないからな。頑張って切るか」

 時間はかかったが沢山の太い葉っぱ付き木の枝を集め追え休憩する。

「これだけで一苦労だな。これだけあれば俺の姿を隠しながらエイルに近づけるはず……気付かれなければ……」

 この場合気付かれたときのことを考えないといけない。

 相手にバレた場合コソコソ作戦は即失敗に終わり次の作戦に移行しないといけなくなり、その場で考えてどうこうできるようなものでもない。

 で、バレた場合の次の作戦。


 『迷い人作戦』


 無理がちょっとあるかもしれないが森で迷ったと装って、仲良くなり相手を油断させエイルの見張りを一時的にするみたいな感じで助け出す作戦。

 コソコソしている時点で上手くいくかどうか怪しいが……。そこは、正成の話術次第。

「この作戦が失敗したときが怖いんだよな……。いろいろ考えてはいるんだが果たして上手くいくかどうか……。ここで後がなくなったら本当に最終作戦にいかなきゃいけなくなるからな」

 休憩を終わらせ行動に移る。

 まず、葉っぱ付き木の枝を沢山手に持ち正成が隠れるようにバランスよくする。

 上手く隠れたことを確認したところでエイルがいる場所まで戻る。

「もうちょっと近くで集めればよかった……」

 多すぎて持ち歩くのが不便だった。

「えーっと……おっ、いたいた。さて、ここからが本番だな」

 持ってきた葉っぱ付き木の枝で姿を隠す。

「よし! 準備オーケー!」

 作戦開始!

とりあえず、ゆっくり背後から近付いてみる。

 緊張で心臓の音が聞こえてくるくらいに心臓がバクバク鳴っている。

 一歩、また一歩近づくと二人の男女が会話を始める。

「ねぇ、お兄ちゃんフリッグさん遅いね。本当に来るのかな?」

「確かに遅いが間違いなく来るよ。フリッグがエイルさんを見殺しになんてするはずがないからね」

 近付くのを少し止めて耳を澄ませて話を聞く。

 相手の情報を知っておくのは決して無駄ではないからだ。むしろ、知っておかないと危なくなるのは自分自身にくる恐れがあるからだ。

 話を聞いている限りでは二人は兄妹で、フリッグと知り合いなのだと考察する。

「でも、お兄ちゃん。言い忘れてたけどフリッグさんがあの脅迫状読んでるのか気になるんだけど……」

「読んでいるんじゃないのか? エイルさんと仲いいし家にくらい行くだろ。それに、フリッグが読んでなくてもほかの誰かが読んでくれればフリッグには伝わるってもんだ!」

 自信満々に兄の方が言う。

「例え誰かが読んでいてもフリッグさんに伝わるとは限らないと思わない? 他の人が助けに来たりするかもしれないし」

「まぁ、そのときは助けに来た奴にフリッグを連れてきてもらうよう言えばいいさ」

「そうなんだけどね……」

 心配そうな表情で妹が言う。

「全部俺っちに任せとけば大丈夫! 心配すんな! はっはっはっ!」

 すごくいい笑顔で笑う。

「はぁ……それがすごく心配なんだよね……」

 重いため息をついて項垂れる。

 正成は二人の会話を聞いて絶対に見つかるわけにはいかないと強く思う。

 もし見つかった場合フリッグを探しに行かなくてはならない。例え探しに行ったとして今ここに来た意味がなくなってしまうし、フリッグの居場所が絶望的に分からないのでどうしようもない。見つかったとしてもフリッグに半殺し確定してると考える。

 慎重に……慎重に……進んでいたが、さらに神経を研ぎ澄まして進むことにする。

 二人の行動を見ながら一歩、また一歩エイルに近付いていく。

 が、しかしここで予期せぬ事態が起きる。

「なぁ、妹よ。あんなところに草木生えてったけ?」

「ん? そう言えばそうね……。どうだったかしら?」

 今の正成の心境は、冷や汗ダラダラで心臓バクバクで、とりあえずこっちに来ないでほしかった。

 後、二メートルくらいの距離なのでこのまま行きたい。

 進んでる途中でエイルが正成に気付いたのか口パクで何かを伝えようとしていたが、正成はそれどころではないので対応出来なかった。

「怪しいよなー。とりあえず調べてみるか」

 兄と思われる人物が正成に近付いて行く。

 正成は、頭の中でどうにかならないかフル回転で思考するが緊張と焦りで全然思考出来ない。

 むしろ、考えすぎてパニックになりかけている。

 最終的に諦めて成功率が低いが『迷い人作戦』に決行するしかないと思った瞬間。

「お兄ちゃん、そんなのどうでもいいからご飯にしようよ。お腹すいたよー」

 まさに、正成が隠れている草木に細マッチョ男が触れようとしたときだった。

 細マッチョ男の手が止まり、妹の方を向く。

 間一髪。

 ピンチを逃れたが、冷や汗ダラダラで心音バクバクでどうにかなりそうな正成。

「了解。じゃ飯にすっか」

「おー!!」

 ポニーテール少女が元気よく右手を上げ返事をする。

 正成にとってこれはピンチからのチャンス到来。

 食事中にエイルを救い出せる。

 とりあえず、冷静になれるように一時ストップ。

 兄妹が食事の準備を始める。

 その様子を窺いながら正成はエイルに近付こうと考える。

 まだ動くまでにはもう少し掛かりそうなので、エイルの状態を見る。

 その瞬間エイルと目が合う。

 エイルは、手でバツ印を作り口パクで、

 ち・か・づ・く・な。

 と、言ったのだが、正成は何を勘違いしたのか、

 た・す・け・て・よ。

 と、言っているのだと勘違いした。

 なので、なんで手でバツ印を作っているのかよく理解出来ていない。

 数分して兄妹がご飯を食べ始めたのを見計らって正成は少しづつ動き出す。

 その様子を見てエイルは手で追い払う仕草をシッシッとする。

 正成は首を傾げ意味も分からず木の枝を持ったまま親指を立てグッと答える。

 全力で首を振るエイル。

 正成に伝わらないもどかしさでエイルはどう伝えていいのか困る。

 その間にも正成はエイルに近付いて行く。

 エイルが正成をどうにか近付けないようジェスチャーで表現するがまったく伝わらず、とうとう正成はエイルの元に着く。

 少し落ち着いて正成が兄妹の方を見て行けると思って、エイルに手を伸ばそうとしたとき、エイルが右手人差し指を下に向ける。

 正成が何だろうと下を向くと陣が描いてある。

 とっさにこれはまずいと思ったが、正成の手はエイルに向かっている。

 エイルに手が届くと思ったとき、見えない何かに触れエイルには手が届かなかった。

 それを見てエイルは右手で顔を覆いかぶさるようにして困った表情で溜息をつく。

 正成はいけないことをしてしまったと思ったが時すでに遅し。

「妹よ。誰か罠にかかったみたいだぜ」

「ん? そうなの? 丁度食べ終わったし暇つぶし出来そうかな」

 兄妹は立ち上がり、正成の方に向かっていく。

「いいかげん出てきたらどうだ?」

「そうよ。隠れててももうばれてるんだからね」

 言われて正成の時が止まる。

 なぜ、ばれたのか……。理由は考えるまでもなく陣の範囲に触れてしまったからである。

 出て行こうか正成は考える。

 その間にも兄妹は近付いてくる。

「早く出てきた方がいいぞ。うっかり殺りかねないからな!!」

 殺されたくないので、しぶしぶ作戦変更。

 正成はガサっと音をたてて立ち上がる。

「すみません……。ちょっと、道に迷ってしまいまして」

「あのな……。嘘をつくならもうちょっとマシな嘘をつけよ」

 細マッチョが呆れた顔をして言う。

「いえいえ、本当に迷ってしまって、貴方達怖そうでしたのでそこのお嬢さんに道を尋ねようと思って」

「俺っちたちのどこが怖いってんだ!! あぁ!!」

 すごく怖い顔をする。

「そういうところが……」

 正成は足が震えていて、本気で怖がっている。

「まぁまぁ、お兄ちゃん抑えて抑えて。怖がってるからね。ここはわたしに任せてよ」

「すっげー怪しいが、妹がそういうなら仕方ない。じゃ、そいつは任せるぜ」

「了解!お兄ちゃん」

 敬礼のポーズをしてウインクをする。

 不覚にも正成は可愛いと思ってしまう。

 細マッチョはその場であぐらを掻いて座る。

「今から質問するから答えてくれる?」

「え? あ、はい」

 突然ポニーテール少女が言ったので、少し戸惑ってしまう。

「じゃ、訊くね。君はどこから来たの?」

「村だよ」

 この世界の事を知らないので、ここで嘘をついてもすぐにばれてしまう可能があるので、本当の事を言う。

「では、何故ここに?」

「食料調達していてなかなか見つからなくて、一生懸命になってたらこの渓流に辿り着いたってわけです」

「なるほど。じゃ、フリッグさんって人知ってる?」

「フリッグさん? いや、初めて聞く名前だよ」

 首を傾げ知らないふりの演技をする。

「本当に本当?」

 下からのぞきこむように、腰を少し低くして上目遣いで正成を見る。

 仕草が可愛い。

 正成はいろんな意味でドキドキしながら、ポニーテール少女と目を合わす。

「本当だよ」

 裏声が出て変な声になって少し恥ずかしい。

「ふーん……じゃ、帰り道教えるから探してくれない?」

 やはりそうきたか、と正成は思って対処する。

「まだ食料を取って帰ろうと思っているので、時間は掛かると思いますが……」

「どれくらい?」

「昼くらいまでとりあえず探して、帰りつくころには夕方かな、と」

「そっか……」

 しょんぼりとした顔をするので、罪悪感をすごく感じてしまう。

「あの……もうそろそろ食材探しに戻ってもいいでしょうか?」

 早めにここから退散して作戦を練り直さないといけない。

「あぁ!! ダメに決まってんだろうが!!」

 細マッチョが怒鳴りながら、立ち上がる。

「ちょっと! お兄ちゃん!!」

「うだうだ言うより、強制的に行かせりゃいいんだよ!!」

 そういいながら、細マッチョが正成の胸ぐらを掴み睨む。

「もちろん、行くよな?」

「いやいや、生きていく為には食材が必要なのでむ、無理です……」

 目を逸らして震えながら正成は答える。

「これは力ずくでも言う事をきかせるしかないな」

 乱暴に正成から胸ぐらを掴む手を離すと、正成は尻もちをつく。

「いたた…………」

 足が震えていた為立つのに少し時間がかかった。

「お・に・い・ちゃ・ん……」

 細マッチョが怖い顔から恐怖している顔になる。

「ここはわたしに任せてくれるって言ったよね……?」

 ポニーテール少女が細マッチョの右肩をガシッと掴む。

「お、おぅ……た、確かに言ったな……。でも、このやり方の方が――」

「いっ・た・よ・ね?」

 細マッチョが言い終わる前に鬼の形相で言い返す。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 右肩を握力で潰している。

「す、すまん……。許してくれ……いたたたたたたたた……」

 正成はその光景を見ながらポカーンとなっている。

「じゃ、下がっててね」

「はい……」

 とぼとぼと細マッチョが後ろに下がる。

「で、話の続きだけど、もしフリッグさんを連れてきてくれるなら食材探し手伝ってあげるよ」

「いや、それは悪いよ」

「いいから。いいから。持ちつ持たれつでいきましょう!」

「は、はぁ」

「よし! じゃ、決まりね!!」

「えっ!? いや、あの……」

 あやふやに答えたせいで正成の意思とは関係なく決定された。

「じゃ、さっそく探しに行きましょう!」

「俺っちはここで待機しておくよ」

「何言ってるの? 一緒に行くに決まってるでしょ」

「はぁ? いや、だって探している間にフリッグ来たらどうすんだよ!」

「そんなに自分の魔力が信じられないのかしら?」

「そういうことじゃなくて、待ってくれるかも分からんだろ」

「いいから来る! 三十分あれば大量に取れるでしょ!!」

「はぁ……何言っても無駄そうだな……分かったよ」

 細マッチョは諦めが肝心だと悟った。これ以上言い争っても火に油を注ぐようなもの。

「分かればよろしい!!」

 ポニーテール少女はすごく満足そうな顔をしている。

「あの……二つほどお訊きしてもいいでしょうか?」

 話が終わったみたいなので、恐る恐る尋ねる。

 ここで訊いておかないと、どんどん話が進んでいって訊けそうにない。

「ん? 何?」

「あの魔法陣みたいなの、どんな魔法なんですか?」

「あぁ!! 何でそんなことおしえ――」

 細マッチョが正成に怒鳴りながら言っている途中でポニーテール少女が細マッチョを睨みつけ、気付いた細マッチョは止まってしまう。

「お兄ちゃんは気にしなくていいからね」

 笑顔で正成の方を向く。

 それが一番正成にとって恐怖を感じた。

「は、はい」

「えーっと、あれはね。絶逃不ぜっとうひって言って、あの陣の範囲内にいる人を出られなくするの。さらに、外側から何をしても助け出す事も出来ないのよ」

「だから見えない壁に触れたような感じだったんだ」

「そうそう。で、次は?」

 どうやったら陣を破壊できるかまで知りたかったが、そこまで訊くと助けに来た事がばれてしまいそうなのでやめる。

「あのお嬢さんはどうして捕えられているんですか?」

「それは君には関係ない事よ」

 フリッグをよび出すためとは分かっていたが、強そうなのにどうして自分たちから会いに行かないのか気になったが、訊けそうにない。

「そうですね。ちょっと気になったもので」

「気にしない方が身のためよ」

 笑顔でウインクをする。

 外見はものすごく可愛いのだが、触れるなオーラが伝わってきて少し正成は怖かった。

「そうします」

「はい! これで終わりね! じゃ、探しに行きましょうか!!」

「気は乗らないがな」

「何か言ったお兄ちゃん?」

「いや、何も」

 細マッチョが真っ先に森の中に行く。

「じゃ、わたしたちも行きましょうか」

「はい」

 

 二時間後。


「これだけあれば十分でしょ!!」

 渓流に戻ってきて細マッチョの分も合わせて五日分くらいの食料が目の前にある。

「確かに」

 正成は食材を探している間もこの状況をどうにかしようと考えようとしていたがいい策が思いつかなかった。

「じゃ、帰り道教えるからフリッグって人を連れてきて……えーっと、そう言えば自己紹介まだだったね」

「まぁ、そうだね」

「わたしは、ベリ・スキールニル。君は?」

「に……ガルム。ガルム・ティウ」

 本名はアルムヘイムでは伏せるようにしている。

 戦う時はガルムでそれ以外は新田正成だと紛らわしくなりそうなので統一させることにした。

「ガルムね。お兄ちゃんは、ゲルド・スキールニルって言うの。自分からは名乗らないと思うのでわたしが教えておくね!」

「余計な御世話だっての……」

 ベリに聞こえないようにゲルドが言う。

「ベリさんとゲルドさんですね。兄妹仲良くて羨ましいです」

「ガルムは兄妹はいないの?」

「一人っ子なので」

「そうなんだね。まぁ、お兄ちゃんたまにうざいときあるから、一人っ子いいなって思うときもあるんだよね」

「自分は兄妹ほしいと思ってたのでいいなって思います」

「俺っちうざいの!?」

 ゲルドがショックを受けている。

「だから、たまにって」

「いや……それでも……」

「ま、まぁ気を落とさずに」

 正成が励まそうとするが、

「うるせぇ!!」

 ゲルドが正成の肩を強く突き飛ばす。

「いたっ……」

 そのせいで、尻もちをついて倒れる。

「ちょっとお兄ちゃんやりすぎよ!!」

「す、すまん……」

 ベリにゲルドは頭を下げる。

「わたしじゃないくて、ガルムに謝る!!」

「何であんなやつに」

「い・い・か・ら!!」

「お、おぅ……」

 ゲルドがたじろぐ。

「ほら! 早く!!」

「ったく……悪かったよ」

 悪気もなく言って、ゲルドが正成に右手を伸ばす。

 掴まれってことなのだろうと思い正成は同じく右手を伸ばしてゲルドの右手を握る。

 ゲルドが正成を起き上がらせる為に手をひっぱり正成が起き上がる。

「ありがとう」

「…………」

 すました顔でゲルドはそっぽを向く。

「ん? ガルム、何か落ちたよ?」

 ベリに言われて、正成は何だろうと思い落ちた物を見ると、冷や汗ダラダラになる。

 それをベリが拾おうとする。

「いや、自分で拾うのいいですよ!」

 慌てて正成が拾おうとしたが、ダメだった。

「これくらい、いいって。で、何でそんなに必死になってるの? まさか、ラブレターとか」

 全然違っているが、ある意味当たっているのかもしれない。

「いやいや、本当に見られたら困るんで何も見ずに返してください」

「そんなに見られたくないのなら、はいこれ」

 ベリは何も見ずに正成に渡そうとしたが、横からゲルドが横取りする。

「えっ!?」

「あっ、ちょっとお兄ちゃん!!」

「いいじゃねぇか、別に減るもんでもねぇーし」

「だめだよ。ちゃんと返してあげて!!」

「やーだよ。ん? これ見た事あるような……」

 正成の冷や汗の量がだんだん増えていく。

 隙を見て取り返さなくてはならない。

 なぜならゲルドが持っているのは、この二人が出した脅迫状なのだから。

「あっ!! ゲルドさんあそこ見て!!」

 古いやり方だが、今の正成にはこの方法しか思いつかなかった。

「ん? 何だ?」

 正成の指差したほうをゲルドは見る。

 引っかかってくれた。

 チャンス到来。

 正成は隙ができた今脅迫状に向かって自分自身がだせるこれ以上ないと言うくらいの速さで手を伸ばす。

 取れる、そう思ったときゲルドは正成の手を見もせずにかわす。

「えっ!?」

 驚きで思わず正成はバランスを崩しこけそうになるが、何とかもち直す。

「甘いな!! そんなんで取り返せるわけないだろうがぁ!!」

 ゲルドが睨みつけながら正成のほうを向く。

「何で……」

「気配で分かんだよぉ!!」

「気配!? そんなアニメや漫画じゃあるま……いや、ここは異世界だった……」

 驚きつつ一人でブツブツと正成は小声で独り言のように言う。

「残念だったなぁ! じゃ、遠慮なく見させてもらるぜ」

「ちょ!! まっ!!」

 二人のやり取りが面白くなったのか、ベリがニヤニヤしながら見ている。

 ゲルドが脅迫状の紙を広げる。

 正成はその瞬間これはもう最終作戦にいくしないと悟った。

 だが、兄妹を倒さない限りエイルは助けることは不可能だろう。

 エイルを逃がして自分だけ残る方法は使えない。

 ならば、倒すしかない。

「おい……、お前これ……」

 ゲルドの手が怒りで震えている。

「何々? どうしたの?」

 ベリが楽しそうに覗き込む。

 取って怒っていたのはどこにいったのやら……。

「どうなるかは分かってんだろうなぁ!!」

 殺意の籠った眼で正成を睨みつける。

「あぁ……なるほど。これはもう誰もお兄ちゃん止められないな……」

「ど、ど……どうなるんでしょうか……?」

 震え声で必死に正成が言う。

「とりあえず、この状況全部知ってたんだよなぁ!!」

「…………」

 あまりの恐怖に頷くことしか出来ない。

 ここで知らないと言っても脅迫状を持っていたことが分かってしまった以上嘘を言ってもバレバレなので肯定するしかない。

 脅迫状をなぜ持ってきてしまったのかは正成にも分かっていない。

「覚悟はできているんだろうなぁ!!」

「…………」

 首を横に振り、否定することしかできない。

「できていなかろうが、関係ねぇ!! とりあえず、ガルムだったか? お前を殺すことは決定だなぁ!!」

「残念だな~。せっかくガルムと仲良くなれると思ってたのに、これはひどい裏切りだからわたしはガルムがやられるところを見学させてもらうね」

 ベリは少し離れ座る。

「さぁ! 殺ろうかぁ!! 助けに来たことを後悔させてやる!!」

 戦う以外の選択肢はなくなった。

 正成も戦闘態勢をしぶしぶとる。

 これが初めての戦い。

 負ければ死、勝ったらエイルを救える。

 心臓バクバクで破裂しそうなくらいな正成は一度深呼吸をして決意を固める。

 それをエイルは固唾を呑んで見守るしかなった。

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