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アナザーディメンション  作者: ユリス
第二章『救出』
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「救出」

 トレーニングを始めて五日目。

 アルムヘイムの生活に慣れてきたかなぁって思いつつも、気候が一定のせいか気持ちよくて朝起きてからの眠気が全くと言っていいほどとれず二度寝をしてしまいそうになる。

 してしまいそうになる、というのは二度寝をしようものならエイルから練習量を倍にすると脅してくるからだ。

 二度寝をする前に正成は起き上がる。

 朝食の支度をするエイルが目に映る。

 胸のところにハートのマークが付いたピンク色のエプロンを着て鼻歌を歌いながら調理している。

「あっ、起きた? ちょっと待っててね。今出来上がるから」

「…………はいよ」

 ボーっとした頭で正成は聞き適当に返事をする。

 寝巻きから着替え終わると朝食が出来ていた。

 テーブルには焼き魚、キノコのソテー、味噌汁がある。

 最初正成が見たときは味が心配だったが一口食べて美味しかったので残さず綺麗に食べれた。

 エイルが料理上手なことは驚きだった。

 本人に言ったら、絶対に怒ることになるので口が裂けても言えない。

 今日のも美味しく食べる。

「ごちそうさま」

「お粗末!」

「今日は買い出し行った方がいいの?」

「うーん。そうだね。行ってきてもらおうかな。ちょっと待ってね。今メモ書くから」

 二日に一回くらいのペースで行っている。

 正成は住まわせてもらっている身分なので、それくらいはしないと気まずくて居づらいので進んでやっている。

「はい。書いたから買ってきて、まーくん」

「…………」

 いきなり変な呼ばれ方をして返事に困る。

 正成だから、まーくんなのだろうが……。

「まーくんってば!」

「一体誰のこと呼んでるのか分からないな」

 完全に棒読みでエイルから目を逸らし顔を合わせないようにしている。

「もう! ここには一人しかいないでしょ!」

「やっぱり俺のことか……急にどうした?」

「いやーここはやっぱりお互いの距離を縮める為に愛称をつけたほうがいいと思ってこれからはまーくんと呼ぼうかと」

「いや、呼び方は普通に前のままでお願いします」

「えーっ! せっかくずっと考えてたのに!」

「余計なこと考えなくていいから……ってか、その愛称で呼ぶ変わりに前にフリッグに呼んでもらおうと思ってた可愛い呼び方を俺に呼ばせようとしてたりは……しない……よな?」

 恐る恐るエイルに訊く。

「よく分かったね。そうだよ! そして二人の距離を少しでも近くなるじゃない?」

 笑みを浮かべながら首を傾げ問いかける。

「ならないな」

 きっぱりと言い切る。

 ここで言っておかないとグイグイ来られてソマにゃんと呼ばされるようにされてしまいそうなので。

「やってみないと分からないよ!」

 どうしてもエイルはソマにゃんと呼ばれたいらしい。自分で考えてとても気に入っているようだ。

「その呼び方をさせようとするなら、エイルさんと呼ぶからな」

「何で!?」

 驚きの表情を隠しきれないエイルは両手を上下にパタパタと振っている。

「無理だから」

「そっか……。じゃ、これ買ってきて欲しいリストだから分からなかったらいつもの通り村の人に訊くんだよ」

 しょんぼりとして元気がない声で言うエイルを見てすごく罪悪感が残る。

「了解。じゃ、行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 家を出て村の市場まで歩いていく。

 最初はエイルに案内、村の人たちに紹介をしてもらい、交渉の仕方をいろいろ見ていた。

 市場までは遠くはないのだが、下手をしたら道に迷ってしまいそうになる。

 実際、最初買い出しに行ったとき正成は迷ってしまい、村の人の助けによって何とか家に戻れた。

 恥ずかしいのでエイルには黙っておきたかったが、帰りが遅くなってしまったので帰り着いたときニヤニヤしながら「迷ったね?」と言われて正成は頷きすぐにバレてしまう。

 そんなこともあってか絶対に道に迷わないよう心掛けるようにして、自由時間のときは村を歩いて回るようにしている。努力の甲斐あってかすぐに市場にたどり着く。

「おう! いらっしゃい!」

 元気よく村の人が挨拶をしてくれる。

「おはようございます」

「この村には慣れてきたか?」

「いえ、まだ迷いそうになりますね……」

「そうだろうな。村って言っても結構広いからな。時期に慣れてくるさ」

「はい。頑張ります」

「で、今日は何を頼まれてきた?」

「えーっと……」

 ポケットからメモを出す。

「おっ! エイルちゃんからのリストか。どれ、見せてみろ」

「はい」

 村の人がリストを見ると、

「結構たくさんあるな。ウチのところにある分は持ってくるからちょっと待ってろ」

 自分の店から食材を探しに行ってくれる。

 数分後。

「待たせたな。後ちょっとあるから他のところで訊いてみてくれ」

 両手に大きめの袋いっぱい入った食材を渡される。

「ありがとうございます。えーっと……いくらですか?」

「エイルちゃんの為だからなお安くしとくよ」

「この前も安くしてもらってるみたいで、すみません」

「いいってことよ!」

 お金を払い、次のところに行く。

 量が多いので重たく早く終わらせたかった。

 気になって袋の中を見てみると野菜と肉が均等に入っている。

 次のところで、全て揃い量がハンパじゃなくとても重い。

「さて、早く帰るか。もう道に迷わないようにしないと。それにしても今日は前と違って多いな。パシリしてた頃を思い出すな」

 空を見上げ遠い目しながら懐かしむ感じで言う。

 まだ、アルムヘイムに来て日にちはあまり経っていないのに。

「おっと、考え事してたら迷ってしまうな。気を付けないと」

 危うく違う道を行こうとして前を見て歩く。

 なんとか無事に帰り着いたが、両手が塞がっていてドアが開けれなかった。

「エイルー、ドアを開けてー」

 大きな声で言うが、全く反応がない。

 外出するときは一言何か言ってくれるのだが急な用事でも出来たのだろうかと考え、仕方がないので一度荷物を置いてドアを開け家に入る。

「エイルいないの?」

 一応家の中でも呼んでみる。外では聞こえていなかったのかもしれないため。

 それでも、返事がない。

「どこか本当に行ったのか?」

 とりあえず、荷物をキッチンに持っていき保管庫があるので荷物を置く。

 置き手紙くらいあるだろうと探し、テーブルの上に実際にあった。

「どれどれ」

 正成が手紙を開いて読むと……、


『フリッグへ

 エイルは預かった。

 取り戻したければ村の森の渓流まで来い。

 期限は明日までだ。

 もし来なければエイルの命はないと思え』


 内容は脅迫状だった。

 読み終わったとき手が震えているのが分かる。

「いやいやいやいやいや……き、き、きっと、エ、エイルのいた……ずら……だろ?」

 ドッキリだと信じたかった。

「エイルいるんだろ?」

 脅迫状を持ったままで家中を隈無く探す。

 だが案の定誰もいない。

「本物……なのか……」

 ドッキリでした、と言ってもらったほうが心臓には悪いが気分はすごく楽になるのだが、そうはいかない。

「まぁ、フリッグ宛に書いてあるしいたずらはないか……」

 とりあえず、フリッグに言った方がいいのだろうが足が震えて動かない。フリッグに会いにいくのを拒んでいるのと脅迫状見て怯えている。

 ひとまず、落ち着くためその場に座る。

 脅迫状を広げておいてじっくり見る。

「どうしようか……」

 全然落ち着けなかった。脅迫状を広げたら仕方ない……。

 一時間悩んだ結果。

 フリッグに伝えることにしぶしぶ結論を出した。

 伝えなかったら後々怖いことになりそうだし……。

「よし! む、村の人にフリッグの居場所を訊いてみるか」

 震え声で言う。

 立ち上がり家を出て、村の人に尋ねる。

「あのちょっとお聞きしたいんですけど……」

「はい? ああ! エイルちゃんと一緒にいた子じゃないか。どうしたんだい?」

 ちょうど、おばちゃんがいたので訊いてみることにする。

「フリッグって知ってます?」

「知ってるよ。フリッグがどうかしたのかい?」

「いえ、ちょっと探しているので、どこにいるか教えてもらえないでしょうか?」

「そう言えば昨日も今日も見てないわね。家に行ってみたら?」

「い、家ですか……どこにあるんですか?」

「ここから近くよ。先に雑貨売ってあるお店あるじゃない。そこから右に二メートルほど行ったら着くよ」

 本当に近くだった。歩いたら一分かからないくらいの距離。

「分かりました。ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」

 おばちゃんと別れてフリッグの家に向かう。

 正成はすごく緊張している。

 緊張しすぎて家に向かうまで動きがロボットみたいな感じになる。

 まさか、明後日戦う人の家に自ら進んで行くことになるとは夢にも思わなかったから。

 フリッグの家の前に立つ。

 勇気を出してドアを叩く。

 コンコン。

 心臓バクバクで待つが何の反応もなく誰も出てこない。

 もう一度ドアを叩いてみるが同じだった。

「な、何だ……留守か」

 安心してはいけないが安心してしまう。

 もし、フリッグがいたら言いたいこと言えそうになかったはずだ。

「どうするかな」

 少し考え、また村の人に訊いて回ることにする。

 いろいろ訊いてみた結果は皆知らなかった。ほとんど家に行くことを進められて息詰まる。最後に一人だけ訊いてダメだったら家に引き返して考え直すことにする。

「あの、すみません。ちょっといいですか?」

「おう、兄ちゃん! いいぜ!」

 活気のある坊主頭で筋肉ムキムキの青年。

「フリッグ知ってます?」

「もちろんだ! 仲いいからな!」

「じゃ、フリッグ今どこにいるか知ってますか? ちょっと急ぎの用事で探しているんですよ」

「今? そういや一昨日くらいにちょっと修行に行ってくるって言ってどこかに行ってたな」

「場所は分かりますか?」

「さぁな。あいつは気まぐれなところあるから適当に旅しながら修行してると思うぜ。特にどこに行くって決めてなかったみたいだし」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「ごめんな。期待に応えられなくて」

「いえいえ、こちらこそお時間頂きすみません」

 お辞儀をしてお礼を言って、どうしようもなくなったので家に一度戻って考えることにする。

 テーブルの椅子に座り腕を組みどうしていいかまったく分からなくなってしまう。

「考えても仕方ないんだよな……。最終的に俺が行くってことになる……のか……?」

 このアルムヘイムは未だよく分からない。

 危険なのは分かるがまだ実感していないのでどのくらい危険なのか予測のつけようもない。だから、助けに行ったとして助け出せる確率は低い。

 トレーニングをしていると言っても、日が浅いので初心者に近いレベル。

「俺が行って二人で殺られたら意味ないし、せめてエイルだけでも助け出せるくらいの作戦が必要だな」

 と言っても何が出来るか……。一人で動かないと行けないので囮作戦や助け合いなどの二人以上の作戦は出来ない。

「あれだな。とりあえず、エイルには悪いが助けに行くとしたら、明日の朝以降だな。確か、明日までって書いてあったから大丈夫なはず」

 自分に言い聞かせるように言って、作戦を考える。

「コソコソ作戦。まず敵を隠れながら発見してバレないようエイルに近付き助ける。これが成功すれば一番楽なんだが失敗するだろうな……。だから、いくつも作戦は考えておかないとな」

 腕を組み、うーん、うーん……と唸りながら考える。

 夜までにいくつか考えた結果。

 大勢いると予想して、最終的には対決しながらエイルを逃がして正成だけを相手してもらえるようにしていくしかない。

 名付けて……、


『一人囮作戦!』


 この作戦を失敗すればエイル、正成二人共無事では済まないので本当に最終手段として考えている。

 他の作戦は上手くいけばいいが、とりあえず明日の朝から森の渓流に行くことにする。

「よし! 明日に備えて寝るか。緊張で眠れるか分からんが……」

 布団に入って緊張で目が冴えて一時間ほど正成は眠りにつけなかった。


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