「チュートリアル」(実戦編)
このまま考えてても気が詰まりそうなので外に出る。もちろん、エイルに一言いって。
外に出ると澄んだ空気で気持ちのいい風が吹き、辺り一面草原が広がっていた。
アルムヘイム。
自然に恵まれていて年中気候が一定でとても過ごしやすい。
森に入れば木の実やキノコなど食料が豊富にはえていて、川は澄んでいて魚が泳いでるのが目視で分かるくらいだ。
正成は草原を初めて見てとても感動している。今考えなくてはならないことを忘れるくらいに。
ある程度感動し終えると、背後を見る。
すると、エイルの家の周りに集落がある。
十メートルくらいはある建物を囲むように人々の家がある。
村長や偉い方が住んでいるイメージを正成はするがまったくその通りである。
草原の反対側に森があり山がそびえ立っている。
歩き回っても迷子になりそうなので草原を見ながら正成は座る。
ぼーっとエイルに言われたことを考える。
アルムヘイムを救う。
「はぁ……まったく、すっげー平和そうじゃないか。この世界もう救われてるんじゃないのか?」
誰に問いかけるわけでもなく雲一つない青空を見上げ目を細める。
「そう言えば、分身だっけ? いつの間にかいなくなってたな。自分が好きでよく使ってるキャラが分身ってすごく悪い気がする。何て言うか分身に失礼な気がしてくるんだよな。結構人気キャラだし俺なんかの分身でごめんなさい。あぁ、本当に――」
「おい」
「ごめんなさい!」
声には全然気づいていなくて、塞ぎ込んで下を向いている。
「おい! てめぇ、聞いてんのか!」
「ん?」
大声で言われて目線を上げ少し顔を上に向ける。
「聞いてんのかって言ってんだよ!」
「ひぃ! すみません」
目の前にはグレーのパーカーで薄い青色ミディアムの髪で腰に剣を下げている。
パーカーの少年は完全に見下して睨みつける。
「えっ? いや……あの……その……か、考え事を……」
「あぁ? 考え事? 他所でやれ! ここはてめぇのようなのがいていい場所じゃねーんだよ!」
「す、すみません」
「分かったらさっさとどっかいけ!」
立ち上がり正成は走って逃げようとしたが、
「あぁ! 帰ってきたんだね。大声出してどうしたの?」
家からエイルが出てきて正成は足を止める。
「こいつが姉御の家の前で座ってるから邪魔だったので追い払おうと」
パーカー少年が親指で指すとエイルが正成を見る。
「あぁ、私が連れてきた人だよ」
「…………はぁ!? 冗談でしょ? 姉御がこいつを連れてきた?」
数秒パーカー少年の時が止まって驚きの表情を隠しきれない。
「冗談言わないよ。後、姉御って言わないでって言ってるよね?」
「このボンクラを姉御が? ありえない……」
頭をかかえてうずくまってパーカー少年はバッとすぐ立ち上がる。
「おい、そこのボンクラ!」
「は、はい!」
「てめぇ、強いんだろうな?」
「いえ、全然まったく弱いです」
「あぁ! 姉御に選ばれたんだぞ! シャキッとしろや!」
大声で怒鳴られて正成は完全に縮こまっている。
「まぁまぁ、お互い自己紹介しようね。後、姉御って呼ぶな、ここだけ無視するな」
パーカー少年は正成を睨みつけるだけで話そうとはしない。
「はぁ……じゃあ、私がしてあげるよ。私が連れてきた少年は新田正成。で、こっちの睨みつけてる怖い人がフリッグ・ラッカム。仲良くしてね……って、いきなり難しそうだね……」
エイルは困った顔をしてどうしていいか分からずオロオロしている。
「姉御が仲良くしろって言うなら、ボンクラ! オレと勝負しろ!」
「えっ?」
「勝負しろっつってんだよ! 勝負は一週間後のこの草原でだ。ボンクラが勝ったら考えてやらなくもない」
「いや、あの……」
「男だろ! 受けるのか? 受けないのか? どっちだ!」
困ってエイルの方を正成はチラッと見ると、嬉しそうに頷きながら右手を前に伸ばしゴーと言ってる感じがして、
「う、受けます」
答えは一つしかなかった。
「よし! 決まりだな。一週間後、ボンクラの力見せてもらうぜ。もし、この試合でボンクラが本当に弱いとオレが判断したら殺すかならな」
「フリッグがそれで納得してくれるならいいよ」
「ちょっと!」
制止しようと正成はしたが無意味だった。
「それはそうと、姉御はいつお帰りになってたんですか?」
「さっきだよ。本当見つかってよかったよ」
「無事でなによりです。見つけなくてもオレが姉御を護ってあげますよ」
「私を護るだけじゃこの世界救えないからね。フリッグはとても頼りにしてるよ」
「ありがとうございます」
右手を右からお腹のところまで振ってお辞儀をする。
「それより、さっきから姉御って呼ぶなって言ってるよね? 分かってる?」
「おい、ボンクラ! てめぇを殺せるときを楽しみにしてるぜ」
睨みつけて、集落の方に入っていった。
「あぁ、怖かった……」
正成は震えが止まらない。
「ごめんね。フリッグ本当はいいやつだから、頑張って仲良くなってね」
「あの状況みてよくそんなこと言えるね……」
「まぁ、初戦がフリッグならトレーニングいっぱいしないとね。絶対勝って仲良くしてね」
「勝っても仲良くできる気はしないよ……」
「頑張ってよ! フリッグなら本気で殺すからね。一週間後までみっちり鍛えてあげるから覚悟してね」
「今は立てないからあと少ししてからで……」
「はぁ……仕方ない。一時間くらいしたらまた来るからね」
エイルはため息をついて家の中に戻ろうとすると、
「ちょっと待って、さっきの想像したキャラってどうやって出すの?」
正成は気になっていたことを訊く。
「ん? あぁ、正成が強くイメージしたら出てくるよ。意識がキャラから完全に離れるか、正成が意識失うかしたら消えるよ」
「なるほど」
「じゃ、一時間後ね」
「了解」
エイルが家に戻ると、正成は早速試してみることにする。
「…………」
目を瞑り、集中して想像する。
隣を見るとキャラはそこに立っていて、シルバー色のコントローラーもすぐそばにある。
「おぉ! すごい! 本当に出てきてくれた!」
再び感動して眺める。
正成がずっと好きで使っているキャラで、ネット対戦成績は八割が勝利。ただネットでしか対人戦をしたことがないので、正成は大会に出たら勝つことは難しいと思っている。ネットでも本気でしているかもしれないが、大会となると気合の入れ合いが段違い。だからこそ、まだ正成は未熟だと考えている。
大会に出ようとしたこともあったが、引っ込み思案な性格と自信が持てなくて諦めていた。
ゲームセンターで乱入されることももちろんあるが、絡まれると嫌なのでわざと負けて席を空ける。
だから、本気で目の前の人と対人戦は初めてと言ってもいい。
正成自身、心の片隅ではワクワクするものはあるが本人は気づいていない。
「さ、触れるのか?」
分身に恐る恐る手を伸ばし、腕をつついてみる。
「おぉ、触れた」
一通り触ると、分身が女性キャラだったらという思考をしてしまうのは男として仕方がない。
「俺の分身か」
未だに夢ではないのかと頬をつねってみるが夢ではない。
「いてて、まぁ、こんな残念な俺の分身でごめんな。そして、よろしく相棒」
近くに落ちているシルバー色のコントローラーを拾おうとしたら背後から視線を感じた気がしたのでバッと正成が振り向くと、
「ふっふっふ…………」
エイルが、ニヤニヤして不気味な笑い声で顔を半分出して正成を見ていた。
「えっ? ちょっと、エイル今の見てたの!?」
サッと逃げるようにドアをバタンと閉める。
「いや、無言で行かないで!」
顔を真っ赤にして、叫ぶが虚しく響く。
ガクッと四つん這いになりショックを受ける。
近くにシルバー色のコントローラーがあり、ショックを受けていても何も変わらないので座って気を紛らわせるためシルバー色のコントローラーを拾う。
「確か、十字の右で前に進むんだったな」
正成が右を押すとそのまま分身は前に進んでいく。
「おぉ、左が後ろに下がる」
分身は後ろに下がり元のところに戻る。
「ってことは、上を押すとジャンプで下を押すとしゃがむのかな?」
思った通り分身はジャンプしてしゃがんだ。
「なるほど。だから前と後ろのボタンだけ教えてくれたのか。家の中でジャンプしたら大変なことなりそうだし」
正成はエイルが来るまで、分身を動かし続ける。
一時間後。
「準備出来た?」
エイルが家から出てくる。
「まぁ、一応……」
「よし! これから一週間ビシビシ鍛えていくからね!」
「お、お手柔らかに」
「何を言っているの私には分からないよ」
笑顔で首を傾げる。
エイルの笑顔が怖くて正成は一瞬寒気を覚える。
「ちょっと、家から離れて」
分身を一度消して、正成は家から1キロメートルほど離れる。
エイルも一緒についてくる。
「じゃ行くよ。結界展開!」
魔法陣がエイルの足元で展開されると、薄いオレンジ色の半球体が1キロメートルほど広がりすぐに透明になり、結界が張られる。
「おぉ! すごい! これ人払いってやつ?」
「ふぅ……それもあるけど、この結界内ではダメージを受けてもすぐ回復できるんだよ」
一息ついて、満足そうな顔をする。
「すごい結界だけど、魔力消費が激しいんじゃないの?」
「結界張ってるだけだったらそうでもないんだけど、ダメージを受けて回復させてたら消費はさらに増えて大変かな」
「それを聞いたらものすごくやりにくい……」
「大丈夫! 大丈夫! そのためにこれがあるんだからね」
エイルの隣にはいつの間にかでっかいクリスタルが置いてあった。
「何それ?」
「これはね、マジックケージって言って魔力をこのクリスタルに封じておくの。で、使いたい時に魔力を回復出来るの。スターライトをこのクリスタルが自動的に回収して保存してくれるの。便利でしょ」
「便利すぎ……」
「だから、丸一日くらいは大丈夫だよ」
「了解。で、どうやって練習するの?」
「あぁ、それはね。フリッグをこの結果内で作ってそれで練習……いや、トレーニングって言ったほうがいいね」
「フリッグ!?」
一瞬で引き攣った顔になり、正成は逃げたしたくなる。
「もう! 戦う前からそんな顔だったら勝てないよ! ほら、そこにフリッグを魔力で作ったからトレーニングするよ!」
怒った顔で強気に言って頬を膨らませる。
正成の横にはフリッグが立っている。
「ひぃ!」
魔力で作られていると分かっていても恐怖で体が震える。
「はぁ……まずは精神面を鍛えないといけないね」
「無理だよ! 俺にはやっぱり無理だ! こんな力の差があるのに勝てるわけがないじゃないか!」
「最初から諦めてたらダメだよ!」
「何で俺なんだよ! 他にも強いやついるだろ! 他のやつに頼めよ!」
カチンときたエイルは正成の頬をビンタする。パンッといい音が鳴る。
「私が何で正成を選んだか教えてあげる」
「…………」
俯いたままビンタされた頬を摩りながら黙って聞く。
「最初はゲーセンで格ゲーをしている筐体の画面が目に入ったの。格ゲーに興味があったわけじゃないんだけど、見ててすごく魅了されたの。コンボが綺麗に決まっていてミスがなく最後は超必殺技で華麗に終わらせる一連の流れ。とても感動して、誰が操作しているのかと気になって反対側の筐体に座ってプレイしてる人の姿を見たの。その人はとても嬉しそうでキラキラしていて、何より格ゲーが大好きなんだと伝わってきて私まで興奮してしまった」
エイルはとても嬉しそうに思い出している。
「それが君だよ、正成。私は直感でこの人だ! って思った。この人なら私の世界を救ってくれるって」
満面の笑みを正成に向ける。
「残念だったな。こんなどうしようもないクズで」
「もう一回ビンタされたいみたいだね正成は。私もそれだけで選んだりはしないよ。ちゃんと正成のことを調べて連れてきたんだからね」
正成はビンタされると思い目を思いっきり瞑るが、ビンタされなくて恐る恐る目を開ける。
「調べて?」
「身辺調査だね! いじめられてることも知ってたし、ネガティブなのもね。正成の行動を三週間くらい見ていたからいろいろ知ってるよ。いろいろは省略するね。後、自宅でネット対戦していて、勝率八割。なのに、ゲーセンでは全敗なんだよね」
「あの……ものすごく怖いんだけど。まぁ、いろいろは気にしないようにして、何でネット対戦の成績知ってるの!? 普通分からないでしょ。後、ゲーセンでは乱入されたらわざと負けるようにしてるんだよ。絡まれると面倒なことになる」
「三週間もあればそれくらい私にかかればすぐに分かるんだよ! なるほど。ゲーセンの全敗はそういことだったのね。まぁ、これからは全勝に変えていこうね!」
エイルは途中頷きながらも、最後にウインクして楽しそうに言う。
「全勝!? そ、それは無理な気が……。世の中には一撃でも攻撃が当たったら連続コンボで体力半分以上減らされたり、なかなか攻撃出来なかったりするし」
「そこはこれからトレーニングして頑張ろう!」
「簡単に言うなよ……」
「まずは、フリッグを克服することから始めないとね。ビシバシいくから覚悟してね!」
「勘弁してください」
「ダメ! ほら、立って!」
エイルは正成に手を伸ばし、正成を立ち上がらせる。
「まずは、分身を出して」
「ああ、分かった」
目を瞑り集中する。
数秒して目を開けると分身が隣にいる。
「あのさ、時間かかりすぎだよ。もっと早く分身をよべるようにしてよ」
「これが精一杯だよ」
「それなら、練習が必要だね。練習項目追加しておくからね」
「何? その練習項目って?」
「朝から晩までみっちり練習するから時間ごとにやることを書いてるの」
「見たいような、見たくないような……」
「これは企業秘密なので決して見せらないからね!」
両手でバツ印を作る。
「そう言われると見たくなる」
「ダメ! 絶対にダメ!」
「はぁ……分かったよ。まぁ、出来るだけ早く出せるようにするよ」
「そうそう。頑張る姿勢が大事だよ」
「最初は何をするんだ?」
すごく嫌そうな顔をして気が進まなさそうな正成である。
「そうだね。まずは、フリッグになれるところからかな。さすがに、魔力で作ったフリッグには怯えないようにすること。いい?」
「マジで……」
チラッとフリッグを見ると、正成は足が震える。
「はぁ……。まぁ、いきなりは無理だよね。じっくり慣れていくしかないね。じゃ、次は分身を動かしていこうか」
「あぁ」
正成は、ホッとする。
「あっ、分身、分身言うのもあれだから名前を付けようよ」
「名前か……。だったらガルム。ガルム・ティウ!」
「なかなか、いい名前だね」
「だろ!」
「名前も決まったことだし、トレーニングを始めようか。まずは、このままだと分身は相手には見えないから、戦う時はそれようの掛け声を言ってね」
「見えない?」
「ガルム出した瞬間殴られでもしたらダメージは正成自身に受けるから最初は敵に見えないようにしてる。上級者には見える人もいるかも。で、掛け声は2D使用って言えばいいのかな。格ゲーであるやつね。それにするための掛け声」
「ガルムが見えないようにしてることは分かった。見える相手がいたときのためにガルムを早く出さなきゃいけないってことも。それに出すまでにやられそうだし……。掛け声は……つまり、格ゲー画面を想像したらいいのか? 2Dにするために掛け声ってのがいるのか?」
「そうそう! 理解が早くて助かるよ!」
ニコニコして上目遣いで正成を見る。
エイルの仕草で顔が赤くなり目を逸らす。
「じゃあ、シュラハトフェルトで」
「シュラハトフェルト?」
「深い意味はない。戦場って意味だし」
「なるほど。じゃ、コントローラーを握って今の言葉を気合入れて言ってみて!」
「えっ? それすごく恥ずかしいんだけど!」
「いいから、恥ずかしいのは最初だけだよ。だんだん慣れてくるから言いなさい!」
正成はコントローラーを握り締め顔を真っ赤にして、
「シュ……シュラハトフェルト!」
目を閉じて叫ぶように言う。
恐る恐る目を開けるとそこにはテレビ画面で見る2Dの世界になっていた。
背景画面に正成、エイルの二人がいて、主要キャラのガルムとフリッグがメインに立っている。
「うんうん。いい感じだね」
「俺は何か変な感じがするな……」
「気のせい、気のせい! あっ、今は私たち背景にいるけど普通はいないよ。バトル終了時危ないから離れておかないと」
「じゃ、どこから操作するの?」
「画面の外にいてそこから操作するんだよ。まぁ、ガルムの後ろとかね。もちろん離れてだよ」
「なるほど。この世界がとても危険ってことがなんとなく分かった……」
泣きたくなるようなことだが泣いてもどうにもならないので、受け入れていくしかない正成である。
「あまり離れすぎると操作しにくいから、便利なコンソールを用意してるよ」
「本当に便利だな」
「私にできることは補佐することだけだからこれくらいはしてあげないとね」
「そうなのか? エイルならいろいろ出来そうだが」
「ん? 例えばどんなことだと思う?」
「肉弾せ……」
言い終わる前にエイルの顔が鬼のようになっていることに気づき最後まで言えなかった。実際に後ろに鬼が見える気がしてしまうのだからこれは魔力せいだと正成は信じたい。
「よく聞こえなかったからもう一度言ってくれる?」
「ごめんなさい!」
直角九十度で礼をして謝るが……、
「も・う・い・ち・ど・言ってくれる?」
許してはくれないらしい。
正成は恐る恐る顔を上げて、
「本当に勘弁してください……」
様子を伺いながら言う。
「はぁ……、まぁ今回はこれで許してあげる。話を戻すけど、コンソールの出し方は『コンソール、リンク!』って言って右手か左手を横一線したら出るからやってみて」
ホッとしたのも束の間、また発動するのに言葉がいることに恥ずかしいなと思いつつ正成は言われた通りするしかなかった。
「コ、コンソール、リンク……」
恥ずかしさで声が小さく身振りもぎこちない。
だが、コンソールは出る。大きさは5インチで携帯ゲーム機くらいのサイズ。
「もう! ちゃんとやってよ!」
「や、やってるって……これが今の精一杯だから許して」
「そのうち慣れてくると思うから今はいいか。コンソールの画面サイズはそれくらいでやりやすそう?」
「うーん……どうだろう? 試してみなきゃまだ分からないかな」
目の前にあるコンソールの画面を眺めてキャラの動かし方がまだ分からないし何事も試してみなくてはしやすいかどうか分からないと判断した。
「じゃ、実際にやっていってみようか」
「おう!」
「まずは、画面の説明ね。一番両端上にキャラの顔と名前。横のバーがHPで真ん中が時間制限だけどだいたい無限と思ってていいよ」
「いや、そこは説明しなくても分かるから大丈夫……」
基本すぎて苦笑いの顔で頬をかく。
「そうだよね、ごめん。じゃ、HP下のゲージも分かるよね」
「ガードゲージか?」
「そうそう、流石だね! これが無くなると一時的にガード不能になって、さらに攻撃力が少し下がるんだよ。攻撃力が高い人の防御が一番気を付けないと減りが激しいよ」
「了解。一番下がスラーライトゲージって言ってたっけ?」
「うん。バーのゲージが溜まると数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲ、MAXで表示されるんだよ。今はトレーニングだから常にMAXの状態だから撃ち放題!」
「お、おう……。じゃ、動かして言っていいか?」
「オッケーだよ!」
「とりあえず、基本動作からだな」
コンソール画面の左側にいるガルムを見ながら十字キーの右、左を押して少し動かして、下でしゃがんで上でジャンプさせる。次にガードsのボタンを押しながら左を一緒に入力して魔力ガードを試してみる。ガルムの前に薄い緑色の半円が守るように出現する。
「本当にゲーム感覚で出来るから負けても大丈夫な気がするから危ないな」
「その感覚は無くしていったほうがいいよ。負けたらほぼ死ぬからね」
「だよね……。画面って大きくしたり小さくしたりって出来るの?」
「出来るよ。画面を両指で触れて広げる感じでスライドしてもらえば大きくなるし、逆に縮める感じでスライドしたら小さくなるよ」
実際にやってみると大きくなったり小さくなったりする。
「おぉ! すごいな!」
「でしょ! 伸縮自由自在!」
「これ元のサイズに戻すことももしかして出来るの?」
言ってみると本当に出来るので驚きの顔を隠せない。
「もちろんだよ! 元のサイズに戻すときは『ツリュックレーゲン』って言えば戻るからね」
「へ、へぇ……ツ、ツリュックレーゲン……」
ボソボソと言うとコンソール画面は元のサイズに戻る。
「はい、元通り! それと、もっと元気良くね!」
「本当にすごいな。声はまぁ……出来るだけ頑張るよ。次は、攻撃だな」
画面のフリッグを見ると攻撃しようにも怖くて攻撃できなくて、どうしようか迷っている。
「何してるの? とりあえず、攻撃のボタン押してみて。こうやって、えい!」
正成の隣にエイルが来て、コントローラーのツヴァイボタンを勝手に押す。
「あっ、おい!」
ガルムは蹴りを繰り出し、ギリギリでフリッグに当たりバシッと音がするとともにフリッグのライフゲージが少し減りすぐ回復する。
「こうやるんだよ! なんなら鬱憤を晴らすような感じでやるとやりやすいかもよ」
「鬱憤って……」
「例えば、姉御って言うなぁぁぁぁぁぁ――――――!」
叫びながらフリッグにガルムを近寄らせて、アインス、ツヴァイ、ドライ、とボタンを押すと弱、中、強、のコンボが繋がる。
フリッグは連続でダメージを受けると、一番左真ん中上にコンボ数とダメージ数が表示される。今の攻撃はダメージ数は少ない。
「そこ気にしてるんだな……」
「そうだよ! もう、何回言っても聞きやしないんだよ。呼ぶならもっと可愛い呼び方の方が嬉しいのに」
「例えば?」
とても気になるので恐る恐る訊いてみる。
「うーん……そうだねぇ……。じゃ、ソマにゃんとか!」
エイル・ソマリアのソマリアからとってソマにゃんなのだろう。
「…………」
何て返事をしていいのか考えた結果が無言になってしまう。
フリッグがその呼び方をしていたらギャップがすごいし、驚きの後にドン引きしてしまいそうだ。
「何で無言なの!?」
「いや、フリッグがそう呼んだときを想像したら言葉も出なくなるよ……」
「そう? 可愛いと思うんだけどな」
フリッグにはそのまま姉御と呼び続けて欲しいと正成は心の底から思う。
「でもまぁ、俺にはそういう鬱憤は特にないし」
「そうなの? 結構ビビらされてたから、ありそうだなって」
「ビビってたけどないよ。まぁ、トレーニングの続きをしようか……」
「だね」
と言ったものの正成はどうしようか迷う。横目でエイルを見ると目を輝かせながらニコニコしながら正成を見ている。目を瞑って思い切ってアインス、ツヴァイ、ドライボタンを押す。
「えい!」
目を開けてみると、最初のアインスボタンが当たっていなかったらしく何も起きていなかった。
「目を瞑ったらダメ!」
「お、おぅ……すまん」
「次は目を開けて、フリッグに攻撃!」
意を決して今度はフリッグに近づきアインス、ツヴァイ、ドライボタンでコンボを入れる。その手はブルブルと震えている。
「やれば出来るじゃないか! でも、ちょっと手が震えすぎてるのが難点だよ……」
「さすがに恐怖だよ……」
「その調子でフリッグを殴り続ければ時期に慣れて、本人の前でも堂々と出来るようになるよ!」
「言い方ひどいな!? いやいや、本人の前はちょっと……」
「人は慣れていくものだよ。だからちょっとずつフリッグにコンボ攻撃して必殺技でガツンとやっちゃって」
両手を腰の後ろに回してウインクをする。
可愛いので正成は目を逸らし照れる。
「頑張るよ。次は本格的にやっていくよ」
照れ隠しで口調がちょっと早くなり、トレーニングに戻る。
コンボ、必殺技などの練習を一通りトレーニングして日が暮れ、トレーニング終了となる。
「つ、疲れた……」
「いい感じだったよ。早めにフィーアボタンの攻撃どうするか決めてね」
「そのこと何だけど、決めてるのがあるんだ」
「おっ、なになに?」
正成が説明をする。
それを、真剣に聴くエイル。
「っていうのだけど出来る?」
「おうよ! 了解したよ。次トレーニングするときに設定しておくね」
「えっ? 勝手になるんじゃないの?」
「いや、ここだけ私が設定するよ。一度設定したらほぼ変えることが出来ないけど、ここだけだから設定自体は簡単だよ。」
「ならいいが」
「さっ、帰ってご飯にしよう!」
「そうだな」
正成のアルムヘイムに来て一日目が終わる。
慌ただしい一日でどうすれば元の世界に帰れるのか考える暇もなく正成はエイルの言うことをきいているしかなかった。




