「チュートリアル」
「……て、……きて」
うっすらと少年の意識が戻ってくる。
「起……きて、起きて、起きて」
やがてはっきりと聞こえるようになり、誰かから揺らされている感覚があり、ゆっくり目を開ける。
「あっ! 起きた!」
「う、うーん……」
ゆっくりと少年は上半身だけ起こす。
目の前には水色のセーラー服を着ている薄緑色ツインテール美少女。
辺りを見回すと、木造の建物で薪、鍋などの調理器具があり生きていく上で必要最低限なものばかり置いてある。
「ここは?」
ぼーっとしている頭で独り言のように呟く。
「私の住む世界だよ」
「は?」
答えを聞いた少年は訳が分からないといった表情をしている。
「だから、ここは私の住む世界で現在地はアルムヘイム」
「…………」
考え込んでいる少年に少女は少年の顔の前で手を振って反応を見る。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
いきなり大声を出されてビクッとなる。
「えっ? 何? 何?」
「思い出した! 俺は確かビルから転落させられたんだった!」
「そうだよ」
「そうだよって! じゃ、何か? ここは天国とでもいうのか?」
「だ・か・ら! さっきから私の住む世界でこの場所はアルムヘイムっていうところなの。もう、何回言ったら分かるの?」
「ってことは、生きてるってことか? どうやって?」
「質問は後でとりあえず、自己紹介しましょ」
「いやいや、先に状況整理させてくれよ!」
「私は、エイル。エイル・ソマリア。君は?」
「話聞いてねぇ……。まぁ、このままだと話進まなさそうだな。はぁ……俺は、新田正成」
溜め息をついて、しぶしぶ自己紹介する。
新田正成は高校一年で、黒髪ショートヘアでブレザーを着ている。
「正成ね。分かった!」
「いきなり呼び捨てかよ……」
「ダメ?」
「いやいいよ。じゃ、俺はエイルさんって呼ばせてもらう」
「さんはいいよ。エイルでいい!」
よほど気に入らなかったのか、眉を八の字にさせ、頬を膨らませる。
「分かったよ。エイル。これでいいか?」
「上出来だね!」
「話戻していい?」
「いいよ」
さっきと違いニコニコしながらエイルは返事をする。
「どこから質問しようか……。そうだな、さっきアルム……なんとかって言ってたが外国かどこか?」
「アルムヘイムだよ。違うよ。君たちの言う異世界……かな」
エイル自身この世界の住人なので、適当な語句なのか考えてあってるか分からなかったので不安そうに答える。
「異世界?」
正成は驚きで声が裏返る。恥ずかしかったのか顔が赤くなる。
「まぁ、私たちからしたら正成が異世界から来たことになるんだよ」
「信じられないが、とりあえず信じてみるしかないか」
「そうそう、信じるものは救われるだよ」
「使い方なんか違うくないか?」
「気にしない気にしない!」
「はぁ……」
ため息をついて右手で頭を抱える。
「あの状況からどうやって助かったんだ?」
「私がこの世界に連れてきたからだよ」
「……どうやって、ここまで連れてきたんだ?」
どうやったら伝わるか少し考えて、正成は質問を変える。
「企業秘密です」
「おい……」
「まぁ、そのうち分かると思うよ」
「そうかよ。じゃ、何で俺をここに連れてきたの?」
何を言ってもエイルは教えてくれそうになさそうなので正成は一番知りたいと思ったことを訊いてみる。
「おっ、いい質問だね!」
「そりゃ、気になるだろ」
「それはね。私のこの世界……」
両手を腰に当て自信満々にこう言った。
「アルムヘイムを救って欲しい」
「…………は?」
正成の時が一瞬止まった。
「もう! 正成は一回じゃ理解してくれない頭の持ち主なの?」
エイルは両手を勢いよく地面についてドンッと音をたてる。
「いやいやいやいやいやいや! はぁ?」
頭の整理が追いついていないのか返事になっていない。
「もう一度言うからね!」
前のめりになり正成に近づいて、
「私のこの世界、アルムヘイムを救ってほしいの!」
大きな声で言う。
「うるさっ! そんな大声で言わなくても聞こえるから……」
「ダメ。正成はこれくらいじゃないと絶対に聞こえないし理解してくれない!」
怒りを孕んだ強気な感じで言う。
「いきなり世界を救えって言われれば誰でもそうなると思うが……。それに、俺に世界を救えるほどの力なんてないぞ。言っただろいじめられてるって」
「大丈夫!」
「どっからその自身はくるんだよ……。まったく、ゲームの主人公じゃあるまいし……」
「そうだと思ってくれればいいよ」
「えっ? いや、俺ほらこんなだから主人公ってガラじゃないし、言うならモブ……は言い過ぎか、モブ以下の存在だと自負している!」
「胸張っていうことじゃないからね!」
「パシリでいじめれられてその上引きこもりの俺にはそれくらいがちょうどいいだろ」
「まぁ、もうそれは置いといて」
エイルは両手を右から左に動かし話題を変えようとする。
「正成は『格闘ゲーム』好きだよね?」
「いきなり何だ? まぁ大好きだが」
「得意だよね?」
「それなりに」
「そこは謙遜しなくていいの!」
「お、おぅ」
あまりの勢いに正成は少し後退りする。
「大得意だよね?」
笑顔で言っているのだが、怒りのオーラがすごく分かってしまい笑顔だが笑顔に見えずとても怖く見える。
「はい」
それ以外の答えは許される気がしなかったので、引き攣った顔で答えた。
「よろしい」
うんうん、と満足そうに頷く。
「で、『格ゲー』と何の関係が?」
「ん? あぁ、君自身が弱いってことは重々承知してるよ」
「お、おう……」
正成自身が言うのはいいが、他人に……しかも可愛い女の子に言われるのでは凹み方が半端ない。しかも質問の答えになっていない。
正成は心に大きなダメージを受ける。表には出さないが……。
「だから、正成自身には生身で戦ってもらうことはしないよ」
「どういうこと?」
訳が分からないので、首を傾ける。
「正成の分身に戦ってもらう」
「分身?」
「そう、分身。正成の世界ではキャラクターっていうのかな?」
「いや、言い方はそうでいいかもしれないが、俺の分身作っても相当弱いよな?」
「うん。だから、正成が想像する最強のキャラクターを思い浮かべてみて」
はっきりとエイルに頷かれ更なる心のダメージを受ける。
「最強ね……」
ワクワクしながらエイルは正成を見ている。
「ダメだ。いきなり言われても想像出来ない……。たくさんいるから一つに絞れないな」
「じゃ、一番使ってる好きなキャラは?」
「まぁ、それなら。でも、思い浮かべて何かなるの?」
「いいからやってみて。やってみたら分かるから。あっ、出来るだけ具体的にね」
「……了解」
納得いかなかったが、言われた通り目を閉じ思い浮かべてみる。
「………………」
「おぉ! これはいい感じだね!」
エイルの言葉を聞いて目を開ける。
「うお!」
正成は驚きの声を出す。
隣には、ツンツンした黒髪に紺色のスーツの上から毛皮付きフードコートを着ている青年が無表情で立っている。
両手にはガントレットをしていて見るからに強そうなイメージ。
「さっそく名前を決めないとね」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ビックリした。いきなり叫ばないでよ……」
「だって。だって! 自分の好きなキャラが隣にいるんだよ! これが、興奮せずにはいられないよ!」
「そ、そういうものなの?」
かなりエイルは引き気味に言う。
「そういうものなの!」
「ま、まぁ。これから正成はこのキャラを自分の分身として戦わせることになるからね」
「は?」
「えーっと……。あったあった」
エイルは背後からコントローラーを取り出す。
「どこから出した?」
「背中からだよ?」
「いや、もう突っ込まないでおこう。この世界ほとんど何でもありな気がしてきた」
「見慣れたやつだから使いやすいと思うよ」
シルバー色のコントローラーを正成に渡す。
「確かに。で、これどうすればいいの?」
「そうだね。試しに左側の十字の右を押してみて」
「こうか?」
言われた通りに正成が押すと、分身が前に進む。
「すげー! 動いた!」
「で、逆の左を押すと後ろに下がる。口で説明するより実際にやってみたほうが分かりやすいでしょ」
「まぁ、そうだな。言われても信じられない気がする」
「今は対戦ではないから3Dみたいな感じで動かせるけど、実際の対戦は2Dで行われるからね。対戦の時じゃないと分かりづらいから楽しみに。で、右のアインスボタン押すと弱攻撃、ツヴァイボタンが中攻撃、ドライボタンが強攻撃、フィーアボタンが特殊……キャラにあった技を出せる。ここだけは正成が考えたものが使えるようになるからよく考えて決めてね。一度決めた技は基本的に変えれないから本当によく考えて決めないと後々大変だよ」
「なるほど。この特殊は考えてないからボタン押しても反応しないのか」
「って、いきなりボタン押して試さないでよ!」
分身はパンチやキックをしていてとても危ない。特に、現在家の中だということを忘れてはいけない。
「新しいのはすぐ試したくなるんだよ。格ゲーだと特に。それにほら、口で説明するより実際にやってみ方が分かりやすいってさっき言ってたし」
「場合を考えなさいよ。進むくらいならいいけど攻撃したらどうなるか分かるでしょ! ああもう、次の説明するよ」
「ああ……すまん」
「今度は家の中で試さないでね。下手したら家が壊れるんだからね!」
「わ、分かりました」
エイルを本気で怒らせたら勝てる気がしないので絶対にしないようにする。
「いい? 上の右にf、左にsのボタンがあるはずよ」
「ああ、ちょうど人差し指で押せる位置にあるやつか」
「そう。それはね。fのボタンが投げ技で、sのボタンが魔力による防御」
「魔力?」
「簡単に言ってしまえば、ダメージを受けない防御。それに、この防御のいいところはダメージを受けないだけじゃないの。相手攻撃の時に、ちょうど当たるくらいのときに防御すると相手が一瞬だけど遅くなるのよ」
「一瞬って一秒以下ってこと?」
「正確には、1Fだよ」
「フレームかよ! おい、よくフレームって言葉知ってたな」
「もちろん。結構調べたからね」
胸を張っていう。
エイルは巨乳ってほどではないが、結構大きい方なので正成の視線がそこにいってしまう。すぐに視線を逸らすが、挙動不審に見えたのかエイルが、
「どうかしたの?」
困惑の表情をしている。
「いや、気にするな。それより話の続きな!」
急かすようにエイルに言う。バレたら怒って面倒なことになることは間違いない。
「で、フレームだったな。六十分の一秒遅くなるってほとんど意味がないような気がするが……」
「チッチッチ。確かにそれだと無理だね。だけど連続で遅くなれば相手にスキがすごく出来るのだよ」
人差し指を立てて左右に振って、満足そうな顔で言う。
「連続って経験と勘がないときついし、仮に出来たとしても反撃も慣れてないときつい」
「正成なら出来る!」
「根拠のない自信はどこからくるのか……」
「自信はないより、あったほうがいいでしょ」
「まぁ、そうだが俺に向けるものではないな」
「正成は自分に自信がなさすぎるの! もっと自信もたなきゃ」
「はいはい……」
すごく適当でやる気のない返事。
「後から厳しく躾けるとして……話戻すよ」
「躾けるって……すごく気になるんですが……」
恐る恐る独り言のように呟く。
「も・ど・す・よ?」
笑顔のエイル。
それが正成はとても怖かった。
「はい!」
元気よく返事するしかない。
「敵の動きが素早すぎて、いくら直前魔力ガードしても遅くなったように見えないのはいる。だから、ある程度、連続で直前魔力ガードが成功したとき魔力ブレイクをしてくれる。魔力ブレイクは相手を弾いてくれるの」
「へぇ、便利だな」
「ただ、これは四回以上の連続ガード必要よ。以上っていうのは相手によって変わるからよ」
「なるほど」
「至難の業だけに弾いてくれるのもあるけど、ゲージが溜まりやすくなるの」
「ゲージってよくある必殺技使えるってやつのこと?」
「そうよ。今、正成が持ってるシルバーのコントローラーはスターライトゲージって言うの」
「スターライト?」
「魔力ってのは大気中に少なからず散らばっているものなの。戦いになると魔力を使うから使った魔力が大気中に散らばるの。その散らばる魔力を星の光に見立ててスターライトって呼んでるの。魔力と魔力がぶつかる時に……うーん……そう! 火花を連想してくれたら分かりやすいかも、火花みたいに散って目には見えなくなるの」
真剣に正成は頷きながら聴く。
「でも、魔力使ってガードしてるならゲージは減っていくような気がするが?」
「うーん、魔力をそんなに使わないからかな。体力でいう歩いてるような感じだよ。ただ、直前ガード以外でずっと攻撃受けるとガード割られてスキが出来るし、無駄にずっとしてると攻撃力が下がるから気をつけてね」
「普通のガードは?」
「直前ガードはスターライトゲージが少し溜まるかな。あっ、ダメージは受けるよ」
「まぁ、実際今ゲージ出てないからよく分からないんだよな……」
「実戦するしかないね!」
「おぉ! 出来るの?」
「トレーニングしないとね。ちなみに、実戦でやられたら、ゲームみたいにコンテニューはないからね」
「ん? ないってどういうこと?」
目をパチパチさせながら訊く。
「死ぬってこと」
「マジで?」
「マジだよ」
正成は開いた口が塞がらない。
「ただし、負けても死なないイベントはあるよ。それを見極めるのは正成次第だね」
「イベントって……。死ぬ覚悟で見極めるって危なすぎるだろ。もし、間違った時点でゲームオーバーか……」
「じゃ、慣れてもらうためトレーニングしないとね。今からする?」
「ちょっと待ってくれ! いきなりかよ! 休ませてください。お願いします。頭の整理も必要だし」
頭を下げ真剣に言う。
「もう、仕方ないな。準備出来たら言ってね。トレーニングしながらまたいろいろ教えるからね」
ウインクをしてエイルは少し離れたところにある鍋でお湯を沸かそうと薪に火をつける。「カセットコンロ便利だったな」なんてことを言いながら。
「はぁ……。この先俺はどうなるんだろうな……」
ボソボソと正成が呟く。




