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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
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第二段 幸せな時 流れて

ナミカは四歳になり、ナギトは二歳になっていた。


「ママ!」


ナギトがそう呼ぶと、


「はい、ママですよ〜」


アヤネは微笑みながら答えた。

アヤネはナギトを実の子のように育てており、

自分のことを「ママ」と呼ぶことを許していた。

それは、まるで本当の母親のような接し方だった。


アヤネはよく、

ターマハラに伝わる伝統歌――

「ターマハラの唄」を歌い、

ナギトを寝かしつけていた。


ナギトを抱きしめ、その匂いを胸いっぱいに吸い込むと、

アヤネの心は自然と落ち着くのだった。


(いずれ、この子は私のもとを去る……

それまでは、精一杯愛して育てたい)


それが、アヤネの変わらぬ思いだった。

彼女は、ナギトが七歳になるまで、

共に暮らすことを心に決めていた。


(あと五年間の、親子の時間……)


そう思うと、

アヤネの胸には、かすかな寂しさが静かに広がるのだった。



季節は春。

空は晴れ渡り、新緑が目にまぶしい頃だった。


この日、アヤネはカガセオと外出する予定で、

夕方まで家を空けることになっていた。


「ナギちゃん、今日はママと少しお散歩に行こうか?」


「うん!」


ナギトは元気よくうなずいた。


「それじゃあ……近くの神社まで歩いて行ってみようね?」


「うん!」


さらに声を弾ませて答える。


風は少し冷たかったが、

どこか心地よさを感じさせる、春の風だった。


アヤネは支度を終えると、


「ナギちゃーん、出かけるよー」


と声をかけた。


「はーい!」


そう返事をして、

ナギトは玄関までバタバタと走ってきた。


アヤネはナギトに靴を履かせてやり、


「じゃあ、行こうか」


と声をかけ、

二人は並んで玄関を出て、神社へと向かった。


神社へ向かう道中、二人は手をつないで歩いていた。


「疲れたら、いつでも言ってね。

ママがおんぶしてあげるから」


「うん!」


ナギトは張り切った様子で答える。


しばらく歩いたところで、アヤネはふと思い立ったように、


「ねぇねぇ、ナギちゃん。

ナギちゃんは、お姉ちゃんのこと、大好きかな?」


と尋ねた。


「うん! だいしゅき!」


ナギトは迷いなく、元気よく答える。


アヤネは、その返事に微笑んだ。


「それじゃあ……ママのことは好きかな〜?」


「うん! だいしゅき!」


「う〜ん。じゃあ、カガセオさんのことはどうかな?」


「うん! だいしゅき!」


「ふふ。みんな、好きなんだね〜」


そう言うと、ナギトは少し誇らしげに、


「うん! みんなだいしゅきだよ」


と、また元気よく答えた。


道中、数人のアヤネの知り合いに声をかけられた。


「奥様、おはようございます。お出かけですか?」

と、大人の女性が話しかけてきた。


「おはようございます。近くの神社まで、息子と行こうと思っております」


「今日は天気がよろしいですからね。お気をつけくださいませ」


「ありがとうございます」


アヤネは、このようなやり取りをとても微笑ましいものだと感じていた。

ナギトが健康で、明るく、感情豊かに育っていることを、改めて実感する。


人間は、人間によって育てられるべき――それがアヤネの考えだった。


一部を除き、人間が人間を育てなくなってから、すでに千年以上が経っている。

現代において、人が人として子どもを育てることは、極めて稀なことだった。


アヤネはナギトの将来について、ふと考え事をしていたが、

その間もナギトは、しっかりとアヤネの手を握って歩いていた。


やがて、神社の参道の入口に着いた。

参道の両脇には、木々が生い茂っている。

風が吹き、木々のざわめきが耳に届く。

実に平和なひとときだった。


少し進むと、五十段ほどの石段が現れた。


「階段は危ないからね。ママと手をつないで、ゆっくり登ろうか」


二人は慎重に階段を登り切り、

古びた大きな鳥居をくぐって、本殿の前にたどり着いた。


本殿の近くに一本の大きな木が堂々と立っていた。


「この大きな木はね。ママが小さい頃に植えたものなんだよ」


「こうして見ると、ずいぶん大きく育ったわねぇ〜」


「ママが小さいとき?」


「そうよ。ママにも、ナギちゃんみたいに小さい頃があったのよ」


「ママが……小さいとき?」


ナギトは、まだよく分かっていない様子だった。


「こっちに行こうか、ナギちゃん」


「大きい建物だね〜?」


「ナギちゃんが、まだもっと小さい頃にも来たことがあるんだよ。覚えてないでしょ」


「うん!」


「神社にはね、神様が祀られているんだよ」


「カミちゃま?」


「そう。神様はね、ナギちゃんのことを見守ってくれているんだよ」


「??」


「ごめんね。まだよく分からないよね」


少し間を置いて、アヤネは静かに続けた。


「でもね、ナギちゃん。

ママも、ナギちゃんのことをずっと見守っているからね」


「ナギちゃんがママのことを忘れても、

ママはナギちゃんのことを忘れないから」



帰り道、ナギトはアヤネに抱かれたまま、すっかり眠っていた。

その穏やかな寝顔を見つめながら、アヤネは静かに歩き続けた。


だが、この日の記憶は、ナギトの中には残らなかった……。


――そして……

さらに二年の歳月が流れていった。

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