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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

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山梨大会決勝    【不動静真視点】

●不動静真



全国高等学校野球選手権 山梨大会 決勝

北仙丈・帯那連合 VS 南海大付属常永高等学校



グラウンドに足を踏み入れる。目の前に広がる光景に目が奪われる。


「圧巻じゃのぅ」


スコアボードの背後から顔を出しちょる富士山に思わず見とれてしまう。


「前の時は雲に隠れてたからなぁ」


久慈も同じように見惚れとる。

グラウンドから、こんなにきれいに見えるとはのぅ。球場から見る富士は、いつもより大きく見える。


「今日の富士は、前掛雲でおしゃれしてくれてるのね。ふふ、決勝だとわかってくれてるのかもね」


千々和先生はさすが学校の先生じゃ。洒落た言い回ししよる。

富士の首元にかかっとる笠雲が、前掛けに見えるけえ前掛雲と呼ばれとるけど。今日は前掛けいうより、洒落たスカーフに見えるのぅ。


「富士が顔を出してくれてるし、頑張らねえとな」

「ここまで来たんだもんな。みっともないところは見せられないよな」


緊張した面持ちでキャプテンが、富士を見上げる。続くように副主将も富士を見る。

みんなも同じような顔しとる。若干名そうでもないのもおるようじゃけどのぅ……



ウォーミングアップを終え、全員がベンチに戻っていく。もうすぐ、試合が始まる。

いつもと違い部員たちの口数が少ない。緊張しとるようじゃのぅ。

無理もない。この試合に勝てば、甲子園に行くことができる。今までは夢物語だったことが、手が届く一歩手前まで来ている。試合相手は、練習試合で負けた南海大常永。プレッシャーを感じずにいられるもんは、そうはいない。

試合慣れしとらんからのぅ。うちは。



「それじゃあ、千々和先生、一言お願いします」


鞍掛キャプテンの言葉に、千々和先生が頷く。


「今日も暑くなりそうなので、水分をよく取って、ベンチに戻ってきたら身体を冷やすことを心がけてね。怪我や体調が悪くなったら、隠さずにすぐにいうこと」


いつもと変わらない千々和先生の注意事項。部員のほとんどが緊張で耳に入ってなさそうだ。

プレッシャーを全く感じてなさそうな大地が、口を開く。


「チワワは学校の先生みたいなことしか言わんの」

「学校の先生なんだけど……」


大地の余計な一言で、剣呑な空気になったところで、キャプテンが前に出てくる。


「まあまあ、それじゃあ、みんな集まって」


ベンチ前のグラウンドに出ると、全員で輪になる。いつもと違いみんなに表情がない。

緊張しとるのぉ。こういう時の声掛けは重要じゃ。

鞍掛キャプテンと目が合う。軽く頷くと、キャプテンも頷いてくれた。

ここは鞍掛キャプテンの腕の見せどころじゃ。みんなの緊張をほぐしてください。


「静真監督、掛け声をお願いします」


……鞍掛キャプテン。オレに押し付けるんか。


「なんか、いつの間にか監督にされとるけど。じゃあ、とりあえず、大地以外は緊張しとるようなので。富士山を見ながら、腹式呼吸。大地は胸式呼吸を」


みんな大人しく深呼吸をはじめる。

決勝だ。緊張するなというほうが無理だろう。この場にいる全員、こんな状況に慣れていない。オレだって慣れてない。だからこそ、ペップトーク、激励は重要だ。緊張をほぐし、プレイに集中できる精神状態に持っていく必要がある。

膝に手を置き腰を落とす。円陣の掛け声は、興奮させすぎず、緊張をほぐすように。意識を高め、集中できるように。


「ここまで来れたのは、奇跡や運ではなく、実力だと、オレは思っとります。鞍掛キャプテン、和泉副キャプテン、佃先輩、桧山、久慈、古二田、乃生、辰海、大地。自分を信じ、お互いを信じて、気負わず、いつも通りにプレイすれば、必ず勝てます。オレたちは強いですから」


全員が頷く。大丈夫そうだな。緊張はしているが、のまれてはいない。

キャプテンの背を叩いて、合図を送る。


「キャプテン、決めてください」


やはり、最後の一押しはキャプテンにやってもらわんと。


「お、おう、……みんな!いいな?俺たちは勝つ!俺たちは強い!」

「「「オレたちは勝つ!オレたちは強い!!!」」」


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