山梨大会決勝 【不動静真視点】
●不動静真
全国高等学校野球選手権 山梨大会 決勝
北仙丈・帯那連合 VS 南海大付属常永高等学校
グラウンドに足を踏み入れる。目の前に広がる光景に目が奪われる。
「圧巻じゃのぅ」
スコアボードの背後から顔を出しちょる富士山に思わず見とれてしまう。
「前の時は雲に隠れてたからなぁ」
久慈も同じように見惚れとる。
グラウンドから、こんなにきれいに見えるとはのぅ。球場から見る富士は、いつもより大きく見える。
「今日の富士は、前掛雲でおしゃれしてくれてるのね。ふふ、決勝だとわかってくれてるのかもね」
千々和先生はさすが学校の先生じゃ。洒落た言い回ししよる。
富士の首元にかかっとる笠雲が、前掛けに見えるけえ前掛雲と呼ばれとるけど。今日は前掛けいうより、洒落たスカーフに見えるのぅ。
「富士が顔を出してくれてるし、頑張らねえとな」
「ここまで来たんだもんな。みっともないところは見せられないよな」
緊張した面持ちでキャプテンが、富士を見上げる。続くように副主将も富士を見る。
みんなも同じような顔しとる。若干名そうでもないのもおるようじゃけどのぅ……
ウォーミングアップを終え、全員がベンチに戻っていく。もうすぐ、試合が始まる。
いつもと違い部員たちの口数が少ない。緊張しとるようじゃのぅ。
無理もない。この試合に勝てば、甲子園に行くことができる。今までは夢物語だったことが、手が届く一歩手前まで来ている。試合相手は、練習試合で負けた南海大常永。プレッシャーを感じずにいられるもんは、そうはいない。
試合慣れしとらんからのぅ。うちは。
「それじゃあ、千々和先生、一言お願いします」
鞍掛キャプテンの言葉に、千々和先生が頷く。
「今日も暑くなりそうなので、水分をよく取って、ベンチに戻ってきたら身体を冷やすことを心がけてね。怪我や体調が悪くなったら、隠さずにすぐにいうこと」
いつもと変わらない千々和先生の注意事項。部員のほとんどが緊張で耳に入ってなさそうだ。
プレッシャーを全く感じてなさそうな大地が、口を開く。
「チワワは学校の先生みたいなことしか言わんの」
「学校の先生なんだけど……」
大地の余計な一言で、剣呑な空気になったところで、キャプテンが前に出てくる。
「まあまあ、それじゃあ、みんな集まって」
ベンチ前のグラウンドに出ると、全員で輪になる。いつもと違いみんなに表情がない。
緊張しとるのぉ。こういう時の声掛けは重要じゃ。
鞍掛キャプテンと目が合う。軽く頷くと、キャプテンも頷いてくれた。
ここは鞍掛キャプテンの腕の見せどころじゃ。みんなの緊張をほぐしてください。
「静真監督、掛け声をお願いします」
……鞍掛キャプテン。オレに押し付けるんか。
「なんか、いつの間にか監督にされとるけど。じゃあ、とりあえず、大地以外は緊張しとるようなので。富士山を見ながら、腹式呼吸。大地は胸式呼吸を」
みんな大人しく深呼吸をはじめる。
決勝だ。緊張するなというほうが無理だろう。この場にいる全員、こんな状況に慣れていない。オレだって慣れてない。だからこそ、ペップトーク、激励は重要だ。緊張をほぐし、プレイに集中できる精神状態に持っていく必要がある。
膝に手を置き腰を落とす。円陣の掛け声は、興奮させすぎず、緊張をほぐすように。意識を高め、集中できるように。
「ここまで来れたのは、奇跡や運ではなく、実力だと、オレは思っとります。鞍掛キャプテン、和泉副キャプテン、佃先輩、桧山、久慈、古二田、乃生、辰海、大地。自分を信じ、お互いを信じて、気負わず、いつも通りにプレイすれば、必ず勝てます。オレたちは強いですから」
全員が頷く。大丈夫そうだな。緊張はしているが、のまれてはいない。
キャプテンの背を叩いて、合図を送る。
「キャプテン、決めてください」
やはり、最後の一押しはキャプテンにやってもらわんと。
「お、おう、……みんな!いいな?俺たちは勝つ!俺たちは強い!」
「「「オレたちは勝つ!オレたちは強い!!!」」」




