マウンド 【桜宮八尋視点】
●桜宮八尋
全校応援に駆り出された生徒たちが、教師たちに追いやられながら、決勝が行われる球場に入っていく。
ちらほらと、不平不満の声が聞こえてくる。
野球に興味ない生徒には、応援はだるいだけだろうからな。夏休みだしなぁ。
「前に行こうぜ!」
瓜生がだらついている生徒たちを掻き分け、スタンドを駆け降りる。
試合がよく見える最前列に座って、球場を見渡す。富士山がスコアボードの後ろにドーンと見える球場。見慣れている富士だけど、球場から見る富士は迫力が違う。球場があることは知ってはいたけど、野球に興味ないから入ったことなかった。結構立派じゃん。
ここで大地たちが戦うのか。
「おお、なんか緊張してくるな」
棗が落ち着きなく、何度も座りなおしている。
「野球なんて大地と知り合うまで興味なかったけど。知ってる奴が出てるとなると、なんか、こうソワソワして落ち着かねえ」
「大地が遊びに来るんで、野球部とも顔見知りみたいになったしな」
棗と同じく、自分も野球に興味を持ったことはなかった。プロ野球もメジャーの試合もまともに見たことがないくらい興味がない。今でも野球に興味があるか聞かれたら、正直あるとはいいがたい。
大地と知り合ってなかったら、今日の全校応援もバックレてた。
それが試合がよく見える位置を探して陣取るくらい、これから始まる試合に胸躍らせている。
「相手校は甲子園常連の南海大常永かぁ」
立ち上がった瓜生が、フェンス越しに対戦チームを眺める。オレと棗も同じようにフェンスの前に行く。
見慣れたうちの野球部と全く知らない対戦校の選手。
「常永って強いのか?」
高校野球に詳しくなくても、耳にしたことがある校名だから、強いことはわかっているけど。
どのくらいの強さなのだろう?大地たちが勝てる可能性はあるんだろうか?
「強い。プロ野球選手を何人も輩出している山梨最強の学校だよ。敵側の応援席にユニフォームを着た奴らいるだろ?あいつら全員野球部員なんだよ。部員数だけでも、100人近くいて、そいつらのほとんどが野球エリート。そこからレギュラー入りした奴らがでてくるわけだからな。弱いわけねえ」
瓜生は元々野球が好きだったこともあって、どうやら、いろいろ調べてきてるようだ。
「うちは、確か……」
「……10人って言ってたよな」
「一桁違うのかよ」
そこまで戦力差があるのか。つーか、うちの野球部、部員少なくね?
練習してる人数、少ないとは思ってたけど、連合になればもっと増えるもんだと思ってた。帯那の部員も含めて、あの人数だったのか。
「大丈夫なのかなぁ。大地。サボってた印象しかねえけど」
棗の目が、大地を追う。
整列した2校の選手たちを比べると、体つきが全然違う。常永の選手たちはみんな背も高めでがっしりしている。
でも、まあ、大地は常永の選手と比べても、遜色ないどころか飛びぬけてはいるけどな。久慈も負けてない。あと、帯那の3年も。それに大地の兄ちゃんも飛び抜けて……
ん?あれって、静真だよな?
「なんで大地の兄ちゃんが、キャッチャーの格好してんだ?」
大地の兄ちゃんは、投手じゃなかったか?
じゃあ、誰が投手を……
「あれ?大地がマウンドに行く?」




