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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

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明日は   【芦崎辰海視点】

●芦崎辰海


決勝前日の練習は、疲れないように軽めだ。

ウオーミングアップとバッティング練習、ノック。あとはミーティング。

明日に備えて、練習は午前中に終わった。試合前なので自転車禁止でバスで帰らなくちゃいけないんで面倒だ。田舎のバスなんて1時間に1本あればいいほうだから自転車より疲れるっていうのになぁ。


「いよいよ、明日、決勝戦かぁ」


久慈ちゃんがふうっと息を吐き出し、富士山に視線を向ける。

富士の麓。決勝戦が行われる球場がある方向。


「決勝かぁ」


明日だと思うと、そわそわして落ち着かねえ。

決勝の相手は、あの南海大常永だし。1度負けてるし。なんか、もう、色々考えちまう。

試合中より、こういう前日のそわそわした感じのほうが、どうにもできなくて苦手なんだよなぁ。


「新発売のバーガーじゃ」


大地ののんきな声が頭の上を通りすぎていく。大地の視線の先には、夏季限定スパイシーバーガー、さっぱりレモンチキンバーガーの幟……。大地がたなびく幟に吸い寄せられていく。


「緊張感持つ気ねえなぁ」


大地は度胸があるとかそういう次元じゃなく、緊張感というものの存在を知らなそうだよな。


「辰海は食わんのか?」

「もちろん食う!」


ちょうど昼時。腹が空いてたところだ。うまそうな写真を見せられたら家まで持たない。


「買い食いもほどほどにしとけよぉ」

「久慈は食わんのじゃな。兄ちゃんはいくつ食う?」


久慈ちゃんの忠告をさらっと無視して、静真兄ちゃんに聞く。


「そうじゃのう。2つにしとこうかのう」


静真兄ちゃんも大地の後に続く。


「いや、俺も食べるよ!」


久慈ちゃんは真面目なんだけど、それが続いたためしがない。



△▲▲△



腹ごなしに、湖近くのバス停で降りて、湖のほとりを歩く。観光客が来ない場所まで移動しても、夏休みだからやっぱり騒がしい。


「今日は富士が、よう見えとる」


静真兄ちゃんがまぶしそうに目を細める。

長かった梅雨がやっと開けて、気が付いたら富士はすっかり夏仕様だ。

夏の富士は、茶褐色 と深緑。物心つく前から見てきた富士の山だけど、明日はどんな風に見えるだろう?


「ん?静真兄ちゃん、なにしてんの?」


静真兄ちゃんが富士山に向かって手を合わせてる。


「明日の決勝は、おひざ元でやるけえ。富士山によろしくしとこうかと」


静真兄ちゃんでも神頼みするのかぁ。それだけ、明日の決勝は厳しいってことか。

なにせ、決勝の相手は、あの南海大常永だもんなぁ。去年と選抜の山梨代表で、去年の練習試合より確実に強くなっているだろうからなぁ。

今大会の常永の試合結果なんてさぁ、コールドゲーム2回、どの試合も5点差以上で勝っているっていうんだもんなぁ。

こんなのないよなぁ。

強打者が揃った南海大常永は、今までの試合のようにはいかないだろうなぁ。


「じゃあ、俺も。……地元の俺らにいい風吹いてくれるように頼もうかな」


久慈ちゃんも富士山に手を合わせ拝み始める。


「オレも拝んどこうかな。打てるように」


二人の隣に並んで、いっしょに手を合わせる。

オレたち地元のもんに、少しだけ贔屓してください。気持ち分でいいんで。お願いします。


「ん?ほいじゃあ、ワシも美味いもんが食えるようにお願いするかのう……」

「大地、明日の決勝のことお願いしろよぉ」


明日決勝だっていうのに、大地は緊張感なさすぎる。


「野球のことなら、富士山に頼まんでも、兄ちゃんがおれば、なんとかしてくれる」


得意気に大地が胸を張る。

静真兄ちゃんがなんとかしてくれるって。……そういわれたらそうだな。

野球のことなら富士山より、静真兄ちゃんのほうがご利益ありそうだよな。


「……そうか、そうだよな。野球のことなら静真兄ちゃんだよな。じゃあ、静真兄ちゃんを拝んとこ」

「じゃあ、俺も」

「ワシも拝むかの」


3人で手を合わせて、静真兄ちゃんにお願いする。


「「明日勝たせてください」」「晩飯は肉料理がええのう」


横から邪念が聞こえた。


「拝まんでええ。大地のはただのリクエストじゃ」


静真兄ちゃんが呆れた目でオレたちを見る。


「3人が頑張れば、勝てるじゃろ。オレは10人のうちの1人でしかないんじゃ」


確かにそうなんだけど……。静真兄ちゃん一人で十人分の力があるんだもんなぁ。


「オレたちが頑張ればかぁ。まあ、そうなんだけどさ」


久慈ちゃんが苦笑いを浮かべる。


「ほうじゃ、久慈と辰海が頑張ればええんじゃ」

「……大地、なに、しれっと静真兄ちゃん側についてんだよ」


大地も頑張る側だろ。

まあ、大地もそれなりに頼りになるけどさ。不動兄弟ばかりに頼るのもなぁ。


「よし!頑張るために、富士山に明日天気にしてくださいって頼んどこ」

「俺は曇りのほうがいいから曇りに」

「ワシは笠雲が見たいのう」


久慈ちゃん、大地……。3人、願い事ばらばら……


「富士山も大変じゃのう」


静真兄ちゃんがねぎらうように富士山を仰ぎ見る。

雲に少しだけ隠れてしまったけど、まだ顔を出してる富士山は機嫌を損ねてはないはずだ。

明日も顔を出して、オレたちの勇士を見届けてほしい。


明日は決勝。

勝てば、甲子園。

勝ちたいなぁ。




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