校内放送 【桜宮八尋視点】
●桜宮八尋
『 我が校の野球部が地方大会準決勝で勝利しました。決勝進出です! 』
1学期終業日に、いきなり流れてきた校内放送に、周囲がざわめく。
聞き間違いじゃないよな?
今、野球部って言ったよな?大地たちの野球部が、準決勝で勝った?次は決勝?
……決勝ってことは、それに勝ったら甲子園ってことだよな?
あの野球部が……。マジかぁ。
✼••✼••✼
終業日の衝撃から一夜経った。
なんか落ち着かねえ。
何とはなしに音研部の部室がある元尾白中に行くと、待ち合わせたわけでもないのに、瓜生と棗と鉢合わせになった。
お互いに苦笑する。
「なんか、人が多いな」
「野球部を見に来た野次馬だろうな。肝心の野球部はいないようだけど」
空っぽの校庭を見つめる有象無象の人たち。生徒だけでなく暇な大人たちも集まってきているようだ。
まあ、オレたちも似たようなもんだけど……
見物客を横目に校舎に入ると、いつもと違って複数の話し声が聞こえてきた。
「野球部、中にいるのか」
元職員室を野球部が部室兼トレーニングルームとして使っているから、雨の日に利用してることはあるけど。こんな天気のいい日に珍しいな。
こう、人が多いと、練習もしづらいのかもな。
音研部の部室にいても、いつもと違う外の喧騒が気になってしまうくらいだしなぁ。
「コーヒー淹れるか」
「あ、カレーパン持って来たから、みんなで食おうぜ」
棗が紙袋からカレーパンを取り出すと、辺りにカレーのスパイシーな香りが漂う。棗んちのカレーパンは美味いんだよなぁ。具がたっぷり入っていて、いつも売り切れるから余ることがない。そんな貴重なカレーパンをここに持ってきたということは……。大地に持ってきたんだろうな。
残念ながら、野球部は忙しいだろうから、大地も……
「ワシはお茶にしとこうかのう」
ガラリと扉が開いて大地が入ってくる。
「大地……」
いつものように、食べようとするタイミングで、大地が現れる。
まあ今日は近いところに居たから不思議でもない……か?
カレーパンと冷たい緑茶を渡すと、空いている椅子に座り食べだした。
……こんなところでくつろいでいていいのか?
「大地ぃ、何で、教えないんだよ!」
瓜生が大地に絡んでいく。
「何をじゃ?」
とぼけているわけでなく、本当にわかってなさそうだな。
「決勝まで進んだんだろ?!地区予選!」
「ほうじゃ、次が決勝じゃ」
「準決勝に進んだ時に、教えろよ」
そうしたら終業式なんてサボって応援に行ってやったのに。
「まだ、地方予選じゃけえ」
「……まだって」
大地の奴、まさかこの快挙が、わかってないのか?そんなわけないよな?
うちのような普通の県立高校が、地方大会の決勝まで残るというのは奇跡的なことだ。創立から1度だって決勝に行ったことなんてない。1回戦か2回戦で負けるのが常だったのに。と、教師が熱く語っていた。
教員らも今回の快挙に浮き立って、早々に全校応援を決めたくらいだ。
「決勝戦、全校応援になったから、オレらも応援に行くからな」
「ほうなんか?みんな暇なんじゃの」
「暇じゃねえよ!もっと、ありがたがれ!」
もう夏休みに入ってるから暇どころかやりたいことが山ほどあるんだよ。
まあ、決勝は地元の球場でやるみたいだから、全校応援じゃなくても行くやつがほとんどだろうけどな。
「大地たち、強かったんだな」
「兄ちゃんおるけえ、負けたりせん」
不動兄、そんなに凄いのか。
優秀だって噂は耳タコなほど聞いてはいたけど。野球でもなのか。
「勝ったら、お祝いしてやるよ」
「おごってくれるんか?楽しみじゃのう」
満面の笑みを浮かべる大地に、嫌とは言い難い。
「うっ!……大地の食欲は懐に痛いけど、……しゃあない。おごってやるよ!」
「野球部のみんなに声かけとくのぅ」
野球部のみんな?
「え?待っ!野球部全員?」
3人で顔を見合わせるが、二人ともすでにあきらめた表情になってやがる。仕方ねえか。
まあ、勝ったらって話だしな。さすがに、決勝だろ?そうそう勝てない……
いや、でも、ここまできたら、勝ってほしいよなぁ。
……大地たちが勝ったら、この夏はバイトするかぁ。




