緊張 【不動静真視点】
●不動静真
「大地、いつもと同じでええからな」
マウンドまで行き、大地にボールを渡す。
いつもと変わらずのんびりした空気を身にまとった大地が口の端を上げる。
「打たれんくらい速い球投げちゃる」
「……今日はコントロール重視じゃ。オレと同じようにスピードよりコントロール重視で投げるんじゃ」
それでも、大地なら充分スピードはでるからのう。
「つまらんの」
不貞腐れる大地は、状況がわかっとるんかのう。最終イニングなんじゃけどのう。
「打たれても、後ろに任せればええ。投げることにだけに集中すれば」
「兄ちゃん、緊張しすぎじゃ。兄ちゃんがリード間違えんかったら打たれんけえ。心配せんでええ」
大地は気楽すぎじゃ。
はじめて試合で投げるのに、いつもと変わらん。
これからキャッチボールするような気安さじゃ。
それが大地の強みではあるけどのう。
「そうじゃの。心配するようなことないのぅ」
……オレのほうが落ち着いとらん。
情けないのう。
大地を安心させる言葉をかけるつもりが、オレが諭されとる。
相手チームは大地のデータを持っていない。
持っていたところで、1イニングでどうにかできはしないだろう。
大地の言う通り。オレがリードをミスらなければ打たれん。
オレは淵沢工の打者のデータを充分仕入れた。そのデータを活用して、ここまで抑えてきた。
オレのリードは通用する。
大地の実力はオレが一番ようわかっとる。
大地の球は簡単には打てん。オレが打たせん。
まともには打てんとわかれば、オレの時と同様にカット打法を駆使してフォアボールを狙いに来るだろう。
カット打法を打ち破れるかで、勝敗が決まる。




