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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

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投手のつぶし方    【不動静真視点】【千々和乙葉視点】

●不動静真



北仙丈・帯那連合 1-0 淵沢工業高等学校

5回裏、淵沢工の攻撃

打者4番 カウント 2ストライク

あと一つストライクを取れば、ワンアウト。

バッターが構えを変える。

……何かやる気じゃのぉ。警戒してストライクゾーンギリギリを狙うか。

外角高めに!


「ファウル」


あの打ち方……

……次は、内角に!


「ファウル」


やはり、間違いない。カット打法だ。

ボールを引き付けてから腰を回さずに打つカット打法は、故意にファウルを狙う時に使う打ち方だ。

2ストライク以降は、ファウルはカウントされんからのぉ。ファウルを打ち続ければ投手に球数を多く投げさせることができる。投手を疲弊させ、甘い球やフォアボールを誘う戦略で使われるのが、カット打法じゃ。

オレをつぶしに来たか。

オレをつぶせば、代わりの投手は、鞍掛キャプテンになる。鞍掛キャプテンの球なら打てるとでも思ったのだろう。


「どうするか」


ファウルで粘れる打者を打ち取るのは至難の業じゃ。

カット打法はそう簡単にできるものではない。当てることに自信のある者にしかできない。

つまり、淵沢工の打者は、どんな球でもバットに当てる自信があるということ。

ヒットにつながるような打球は打てなくても、ストライクゾーンに来る球なら、ファウルに持っていくことができる。

なんとも厄介な技術を有する4番じゃのう。

バットに当たらんように、スピードを上げるか……


「ストライク!」


よし!ストライク・スリーでワンアウト。

速度を上げれば打ち取れそうじゃのぅ。

次のバッターが、バッターボックスに入ってくる。

ツー・ストライク。

ここまでは順調。


「ファウル」


また、カット打法。5番もカット打法ができるんか。

球速を上げてみるか。


「ファウル」


打つのか。この程度の速球には対応できるわけか。

付け焼刃で出来る打法ではない。間違いなく、淵沢工は選手たちにカット打法を教えている。打者のほぼ全員が出来ると思ったほうがええじゃろうのぉ。

……どうするか。さらに球速を上げるか?いや、それこそ相手の思うツボになる。カット打法を打ち破るほどの速球で投げれば、コントロールが乱れる。フォアボールを取られやすくなる。

球速以外に、カット打法を確実に打ち取る方法を見つけださんと。

この先、同じような戦法を取るチームが出てくることも考えられる。

カット打法を打ち破る方法を、この試合で見つけ出さんと上にはいけんっちゅうことじゃ。


「厄介じゃのう」


……バッターが打てない球を投げるより、打たせて捕ることを考えたほうがええかもしれん。

前の試合の経験が、早速、役に立ちそうじゃのぅ。

バッターの思い通りにならない方向に。ファウルにならないボールを投げる。

前に飛べば、ただのゴロじゃけえのぉ。

それには回転を工夫する必要がある。

……煙浦の投球が参考になるかもしれん。

煙浦の球は、バットに当たっても、飛距離が出ず凡打になっていた。

打球の飛んでいく方向を狂わせるナックル。あれなら、なんとかなるかもしれん。


「野球ちゅうのは面白いもんじゃのぅ」


オレたちを苦しめた魔球が、ヒントになる。

予測不可能じゃ。相手チームだけじゃない。自分も筋書きにないことをやらんといけん。

こんなスリルを味わえることは、世の中にそうそうないのぅ。




●千々和乙葉



「また、ファウル!」


思わず大きな声を出してしまった。でも、これは仕方ないと思う!


「投手を疲れさせる作戦ですね。エグいことするなぁ」


乃生くんも同じ気持ちみたいで、声が低くなってる。


「正々堂々、勝負しろっていうの!」


千秋ちゃんがスコアブックを握りしめ淵沢工のベンチを睨み付ける。

バントと捉えられないよう叩くように打つカット打法は、鋭い打球となってファウルゾーンへと飛んでいくため捕ることもできない。


「うちは部員が少ないし、効果的な戦略とはいえるけど……」


10人しかいないチームの投手を一人つぶしてしまえば、勝ちは決まったようなもの。

選手層の厚さというのは、大きな武器だ。特に投手の数は重要だ。疲弊を抑えられるだけでなく、何人もの投手を入れ替えることで、打者の目を慣れさせないこともできる。

人数の少ない野球部には、それができない。


「淵沢工にとって、イレギュラーなのは静真先輩だけでしょうから、排除しようとしますよね」


乃生くんが冷笑するように口の端を上げる。

静真くんのような投手がうちの野球部にいるのが、そもそも奇跡というか、おかしいというか。彼なら強豪校でもエースになれる実力があるのに。

そんなイレギュラーな存在が、ほかにも存在するとは誰も思わないわよね。たとえ、名将だってそんなこと考えないでしょう。

だから静真くんにあんな無茶をしてまでつぶそうとしている。


「どうしたものかしら」


もう一人のイレギュラーは、うちの野球部にとってもイレギュラーなのよね。

経験豊富な鞍掛くんのほうが、安定感がある。

静真くんをどの段階で、ポジションを変えるべきなのか。

それとも、静真くんを信じて、このまま……


「参ったわね」


私には、決断できない。


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