打球の行方 【鞍掛秀俊視点】
●鞍掛秀俊
芦崎の打球が一二塁間を抜けて行く。
「いったぁ!」
「行け!行け!行けぇ!」
余裕で1塁セーフ。
「芦崎くん、打率・出塁率ともに8割超えてるのよね。驚異的だわ」
「三振が一つもないんですよね。1打席目からガンガン打ってくれるから頼もしい」
千々和先生とマネージャーが、スコアブックを見ながらはしゃいでいる。
1,2回戦はピッチャーが俺レベルだったから、まあ、打てたのは驚くほどでもないかもしれないが。3回戦は、申し分ない実力のあるピッチャーだった。それでも、芦崎は打ってたからなぁ。
「辰海は当てるのうまいんじゃ。兄ちゃんの球も当てよる」
大地が得意気だ。
静真と大地の球を打てるなら、確かに、どんな球でも打てるよなぁ。
「辰海は目がええだけじゃなく、反射神経もええからのぅ」
静真も嬉しそうだ。
「後ろが打てないと、無駄になっちまうけどなぁ」
バットを持って出ていく凌が、緊張した面持ちでネクスト・バッターズ・サークルに向かう。
責任重大だもんな。3番は。
「ほうじゃのう。久慈と副将と佃煮が打たんことにはのぅ」
「大地ぃ、オレの苗字に『に』はついてねえからなぁ」
「ほうじゃったかのう?」
まったくぅと小さくつぶやく佃の顔には、笑みが浮かんでいる。
リラックスできているな。
「ファウル」
久慈の鋭い打球が、ファウルラインを超えてフェンスに突き刺さる。
「逸れたか。いい感じだったのにな」
「でも、今までより、いい当たりになってる」
「アドバイスが効いたようだな」
久慈は打者としての実力なら佃に引けを取らない。ただ、本番に弱いというか、ここぞという時に、打てなくなってしまう。経験が不足してるせいかもなぁ。練習試合をたくさんしていれば、もっと……
「久慈くんの実力なら打てる!次は絶対に打つ!」
千々和先生の力強い言葉に、全員うなづく。
「久慈ー!落ち着いていこー!」
みんなで声援を送る。
久慈は、実力はあるんだ。打てる!
「打ったぁ!」
鋭い打球が外野まで飛んでいく。
久慈が打って、1塁、2塁。ノーアウト
いける、いける。
「副将!リラックス!」
「凌、見せてやれー」
凌だって、バッティングは相当なもんだ。佃や静真組がおかしいんであって、一般高で凌くらい打てる奴はそうそういない。しかも静真に鍛えられて、急激にうまくなったからな。
淵沢工のピッチャー煙浦が、投げる。
「ボール」
外れた。よし、よし。4球全部外してもいいぞぉ。
煙浦が構える。脱力しているようにも見える 独特のファームはナックルボーラーだからなのだろう。
飛んできた球を、凌が打つ。1,2塁間、セカンドの正面。2塁にベースカバーに入ったショートに送球。久慈は残念ながら、アウト。
ショートが1塁に送球!……和泉もアウト。
あ~あ、当たりはよかったのになぁ、運が悪かった。
でも、芦崎はセーフ。芦崎が3塁まで進んだ。ツーアウト、3塁。
「還ってこい!芦崎!」
まだまだ、チャンスだ。みんないい当たりを出してる。
次の打者は、佃。
「佃が打ってくれたら、芦崎を還せる」
「大丈夫です!佃先輩ならこのチャンスを絶対に活かしてくれます!」
断言する桧山に、みんなの視線が佃に集中する。
佃ならやってくれる。信じてるぞ。佃!
「佃ー!頼りにしてるぞー!」
バッターボックスに立つ姿は、頼もしい。弱い俺たちを2年間、引っ張ってきたのは佃だ。
このチャンス、きっと活かしてくれる。
煙浦が投げる。
ガキーンといい音が鳴る。
「抜けた!」
芦崎が走り出す。
三遊間を抜けたが、レフトがすぐに打球に追いつく。レフトが捕って、バックホーム。
芦崎がホームに滑り込む。
球審の両腕を左右に大きく広がる。
「セーフ!」
「よっしゃああぁぁぁ、1点んんーー!!」
1点先取!
やってくれた!!




