萎縮 【不動静真視点】
●不動静真
北仙丈・帯那連合 0-0 淵沢工業高等学校
「膠着状態だな」
隣に座った佃先輩が、汗を拭う。今日は、快晴で日差しが強く、突き刺すような暑さだ。
立っているだけでも体力が削がれていく。
「淵沢工業の打線は、どんな感じなんだ?」
「選球眼のあるバッターが多いですね。長打を狙っているのは3、4番くらいで、あとのバッターは、出塁率重視といった感じです」
「そりゃあ、面倒くせえな」
出塁率重視。長打を狙わず、手堅く塁に出ることを重視した戦略じゃけえ、気が抜けない。
「まあ、静真の悪癖さえでなければ、守りは大丈夫だろうけど」
和泉副将、意外に根に持つタイプじゃの。
今日は打たせて取るピッチングはしていない。
淵沢工業のような出塁率重視のチームは、塁に出すと厄介そうじゃけえのぉ。打撃も走塁も守備の隙をつくつもりじゃろ。ランナーを還す術を知っとるチームじゃけえ、経験不足のオレたちでは、手玉に取られかねん。
……できるなら、走者を刺す経験を積みたいところではあるけどのぅ。こちらの点が入らんことには、冒険はできん。
「点を取らなけりゃあ勝てないんだよなぁ。あのピッチャーから」
佃先輩のボヤキが耳に届く。
「ナックルかぁ。どうすればいいんだろ?」
辰海は近づく打順にふぅっと息を吐く。
全打席、打っている辰海にホームベースを踏ませてやりたいが……
「静真は敬遠されちまうからなぁ。俺たちが打たねえと」
佃先輩も打ってはいるが、打球の飛んでいく方向が悪く、守備に阻まれ塁を踏むことができていない。
オレは全打席、申告敬遠で歩かされてしまっとるからのぉ。
この調子だと、満塁でもないかぎり、まともに勝負はしてくれん気がする。そこまで警戒せんでものぉ。
「未完成とはいえ、ナックルなんて打ち方わかんねえのにどうしたら」
久慈が天を仰ぐような仕草をしちょる。
「……そんな弱気にならんでも。桧山のように打てばええんじゃ」
「え?オレ?」
「そうじゃ。桧山が手本を見せてくれた。思い切り振ればヒットになる。変化が少ないならナックルと思わずに、思いっきり振ったらええんじゃ」
空振りになってもええ。
「久慈も佃先輩も辰海も見すぎなんじゃ。ナックルの亡霊に惑わされて振り切れとらん。芯から外れようが思いっきり振り切ったらええんじゃ。あれはナックルボールじゃない。チェンジアップじゃ」
うちの上位打線が苦戦して、下位打線がいい当たりを出しているのには理由がある。
ナックルボールを見極める目を持っているかどうかだ。
辰海、久慈、佃先輩は目がいい。軌道を読む目を持ち、バットコントロールにも長けている。それがアダになっとるんじゃ。ナックルボールに対応しようとして、いつものようなバッティングができていない。
皮肉なことに、微妙な変化に気づかん桧山たちは、チェンジアップを打つ感覚でバットを振る。芯で捉えられんでも、当たりさえすれば、どうにかなる。
それが、煙浦の攻略法。変化が少ないなら、ナックルと思わなければええんじゃ。
「あー、耳が痛え。芯をとらえることに躍起になって、縮こまってたよなぁ」
「ン~、言われてみれば、そんな気がする」
「うまく打とうとしすぎってことか。打ち上げようが、ゴロになろうが打てばいいんだよな。打てばチャンスはある!よっしゃ!次はホームラン打つ気で振ってやる!」
久慈も佃先輩もパワーあるけえ、多少、芯から外れようが強引に振り切れば、簡単に捕られるような打球にはならん。辰海はすでに打つことができとる。バットの感覚に戸惑っとるだけじゃ。
経験不足のオレたちには、未完成とはいえナックルボールを確実に打つのは厳しいが、見慣れているチェンジアップなら打てる。
じゃけえ、チェンジアップだと思って打てばええ。あとは運任せ。
「今日の相手は力でねじ伏せる。そういう気概が必要じゃ」
煙浦は、強豪校キラーの投手といえるじゃろうのう。バッターが優秀であればあるほど惑わされる。
そういう相手には、気合と根性。それでええ。
「ワシは三人と違おて、振り切っとる」
大地が得意気じゃの。
「大地はまずバットにボールを当てないとなぁ」
大地の軽口に久慈が意趣返ししとる。
「久慈もろくに当てとらんじゃろ」
……大地にやり返されとる。久慈に相当ダメージが入ったのう。




