なんか妙 【芦崎辰海視点】
●芦崎辰海
2打席目。内野ゴロ。
行けると思ったんだけどなぁ。バットの芯には当たらず、ずるりとズレた。
なんだろう?な~んか変なんだよなぁ。
「どっちも0点か」
「1点が重い試合になってきたな」
3回終わって、どちらも点はなし。
うちの強打者、2番久慈ちゃん、3番和泉副将、4番佃先輩の当たりがイマイチ。静真兄ちゃんは、また敬遠。大地が空振り三振で、チェンジ。
やっぱり変だ。
「な、向こうの投手の球、なんか妙じゃね?」
横にいる大地に同意を求めてみたけど、大地はピンとこないのか、首をかしげるだけだ。
「2年の煙浦投手。静真のような速球は持っていないが、コントロールの良さと、豊富な変化球で打ち取っていくスタイルの投手……以外のことは書かれてないな。どういう風に妙なんだ?」
資料を手にした和泉副キャプテンが、興味深そうにオレに尋ねてくる。
どう説明したらいいかなぁ。
「なんていうかぁ。バットには当たるんだけど……、飛ばないっていうか。変なとこに飛んでいっちまうっていうか。野手の目の前とか」
スピードはないから、当てることはできるんだ。でも、なんかなぁ。
「俺も思った。打ちにくいというか……。なんだろうな?」
佃先輩も同じ風に思ってたみたいだ。つまり、オレの気のせいってことはない。
「静真兄ちゃんは、どう思う?」
「オレは近くで見とらんからのう」
静真兄ちゃんは、申告敬遠されちゃってるんだった。
静真兄ちゃんならあの球の正体がわかると思ったのになぁ。
「もしかしてナックルなんじゃないか?」
和泉副キャプテンに視線が集まる。
「なんじゃ、それは?」
大地はナックルが何かわからないみたいだ。オレも詳しくは知らないけど聞いたことはある。
「魔球と呼ばれてる不規則に変化しながら落ちる変化球のことだよ。投手でさえどんな変化をするかわからないそうだ」
「不規則にのぅ」
「ナックルボールは、ほとんどボールが回転しないから打撃感覚も違ってくるらしい」
不規則に変化しながら落ちる魔球……
「ん~~、確かにちょっとだけど揺れてたような気もする。……あ!そういえば、縫い目が良く見えた!あれって回転してないからなのか?」
なんか変だと思ったんだけど、そういうことかな?じゃあ、アレがナックルボール……
「縫い目?見えてるのか?!」
乃生が驚いた顔で、オレを見てくる。
「あの投手の球、そんな速くないからな。大地や静真兄ちゃんの球は全然見えないけど」
「……そうなんだぁ」
縫い目が見えるような球は打ちやすいんだけど、あの投手の球はなんか違ってたんだよな。回転が少なかったんだなぁ。
「そういや、軌道が読みにくかったんだよな。スピードはそこそこあったからナックルとは思わなかったけど」
険しい顔つきになった佃先輩が、マウンドにいる淵沢工の投手を睨みつける。
ここから見ても、ナックルボールなのかはわからない。
「未完成のナックルボールということかのぅ。揺れるような変化は緩やかだが回転がほぼない球といったところか?」
静真兄ちゃんが言うような球だとしたら、今までと感覚が違ってくるだろうなぁ。
「なんじゃ、出来損ないっちゅうことか」
「そうとも言えん。確かにナックルとは呼べんが、充分、武器になっとる。誰も見たことも打ったこともない球種じゃけえ、試合中に打てるようになるのは厳しいからのう」
大地の侮る言葉に、静真兄ちゃんが訂正を返す。
まともに打てないんだから、充分、脅威だよなぁ。静真兄ちゃんなら1回見たら打てるようになりそうだけど……
点も入ってない一巡目から静真兄ちゃんを申告敬遠するなんて、ちょっと慎重すぎだと思ったけど、静真兄ちゃんにあの球を見破らせないためだったのかな?
「変化球の中に混ぜて投げられたら、そう簡単には」
「打ったあぁぁ」
おお!桧山先輩が打ったぁ!いい当たり!
「桧山ぁ、行け、行けぇ」
打球は二遊間を抜けて、1塁セーフ。
打てないと話してた時に、桧山先輩が打つんだもんな。驚いたぁ。
「よっしゃあぁ!よくやったぁ!桧山」
佃先輩が身を乗り出し、喜びの声を上げる。よっぽどうれしかったんだろうな。帯那高唯一の後輩の活躍だもんなぁ。
佃先輩の声援に照れくさそうに桧山先輩が、ヘルメットのつばを下げる。
「なるほどのぅ」
静真兄ちゃんが感心してる。なにがなるほどなんだろ?
次の打順は古二ちゃん。次が、オレの打順だから、急いでオンデッキサークルに向かう。
古二ちゃん、ねばったけど……
残念ながら古二ちゃんが、アウトでこの回も点にはならなかった。




