育て屋 【芦崎辰海視点】
●芦崎辰海
「しまっていこう」
ピッチャー、静真兄ちゃん。
頼もしく思えていた背番号1の背中が、今は……
「今日の試合、守備はやることないと思ってたのに」
キャプテンがピッチャーの時より気を抜くことができない。どの方向にも動けるように、体を揺らしながら打球を待っていなくちゃいけない。
汗が尋常じゃない量、流れ落ちていってる。汗でグローブの中がぬるついてきてるしぃ。
「落ち着いていこう!」
キャプテンの声が遠い。
センターの大地のところに飛んでいかないように打たせるってことは、内野が処理しなくちゃいけない打球が飛んでくるってことで。ショートのオレが大活躍しなくちゃいけないってことだ。
なんで、オレがショートなんだろ?いまさらながら、そんなことを思う。
カキンと音がする。
来た!ゴロなら、余裕っ……と。
ああ!?ボールがっ!なんでそっちに跳ねるんだよぉぉ!!イレギュラー?!
ダメだ!取れない!
グローブに当たった!弾かれたボールは……
よかった。
和泉副将がカバーしてくれてた。それでも、バッターは1塁セーフかぁ。
「芦崎!ナイスガッツ!」
和泉副将が褒めてくれる。捕れなかったけど、まあ、今のは仕方ないよな。
次のバッターが、バッターボックスに入る。
少し浮き上がった打球が、三遊間に。
サードの佃先輩が、ノーバウンドでダイビングキャッチ。崩した体勢のまま、近くにいたオレめがけてグラブトス。セカンドにいる和泉副将に送球。和泉副将がランナーにタッチ。ランナーがベースを踏む。ほぼ同時。
どっちだ?塁審が右の拳を突き上げる。
「ヒズ アウト!」
ダブルプレー!!
「っしゃー!!」
佃先輩とグラブタッチして称え合う。
はー、佃先輩のおかげで救われた。
「ナイスプレー!」
静真兄ちゃんがキラキラした目で、オレたちを見てる。
あの目。子供の頃から、見慣れている静真兄ちゃんのキラキラ目。大地のこと、よくあの目で見てたから、ブラコンの目かと思ってたけど違ったんだよなぁ。
あの目は、育て屋の目。
成長を見守る時に、ああなるんだ。
練習の時なら、あの目で見られるのは、うれしかったけどさ。
「本番で見せる目じゃないから!」
静真兄ちゃんが、ここまで育て屋だったなんて。




