3年生 【帯那高 佃夏空視点】
●佃夏空 帯那高3年
3年の3人で総括会+祝勝会をやろうということになって、和泉の家に集まった。
試合後に全員でミーティングはしたけど、それだけでは細かい部分まで思い至らないこともあるからなぁ。3年の俺たちに厳しいことを言えるのは、同じ3年だけというのもある。
「1回戦突破かぁ」
鞍掛の顔が緩みっぱなしだ。
気持ちはわかるけどな。勝利投手だもんな。
「まだ、1回戦突破だろぉ」
「ただの勝利じゃないんだぞ。俺が!投げての勝利!なんだからなぁ。褒めろよ」
「偉い、偉い」
「よくやった」
「へへへ」
まあ、実際たいしたもんだったからな。
「では、総括会をはじめるとしようか。試合全体を振り返って、良かった点と修正すべき点。何かあるか?」
鞍掛がキャプテンの顔に戻り、仕切り始める。
「良かった点か。みんな、いつもの力が出せていたところだな」
「そうだな。久慈と乃生が多少緊張していた感じはあったけど、すぐに調子が戻ったし、次の試合では大丈夫だろう。まあ、気にかけとくけど」
「大地と芦崎は大会に出るのはじめてだっていうのに、いつも通りだったな」
大地は規格外すぎて比べようはないが。芦崎も何気に根性が据わっている。
「修正すべき点は、……そうだな。ミーティングでも話し合ったが、細かいミスが目立った点だろうな。試合慣れしてないというのもあるけど、集中力に欠けていたな。その辺は改善しないとな」
今日の試合相手は、そこまで強い相手ではなかったから、ミスが致命的な結果になることはなかった。
しかし、これからはそういうわけにはいかなくなるだろう。
野球はちょっとしたミスで、点が取られてしまう競技だ。
「オレはプレイ中以外のモタつきが気になったかな?段取りが悪いというか、何をどうするかその場で確認しながら右往左往していただろ?試合に集中できない環境だったように思う」
和泉の指摘に、思い当たるでき事が次々と思い浮かぶ。
荷物の置き場所、どこに何があるか、何をどのタイミングですべきか。
どれも些細なことではあるけど、スムーズに行えないことが積み重なるとストレスになってしまう。コンディションというのは、そういうちょっとしたイラつきで崩れてしまうこともある。
「マネージャーに頼りすぎだな。俺たちが一番知識があるわけだし、その辺は俺たちが率先して動かないといけなかったな」
「そうだな。試合のことばかり考えていて、その辺、おざなりにしていた」
マネージャーは野球の経験がないから、大会中に何をどうすればいいか、わからないことが出てくるのは当然だ。1年は大会に出るのは初めてだし、勝手がわからないことが多かっただろう。俺たち3年が細かく指示を出す必要があった。
「最上級生なんだもんな。俺たちが仕切らなけりゃいけないんだよな」
「1、2年の時、試合のことだけ考えてられたのは、先輩たちがそういう面倒を引き受けてくれてたからなんだよな。今さらだけど、気づいたよ」
面倒見のいい先輩が多かったからなぁ。学校が違っても、よく声をかけてもらった。
「マネージャーがいて、頼りになる後輩もいるもんだから、甘えちまってたよなぁ。俺たちの反省点だな」
鞍掛の言葉に、頷く。
「次の試合では、みんなが試合に集中できるよう、俺たち3年が率先して動く!指示を出す!それでいいか?」
「ああ」「おう!」
俺は気が利かねえから、意識して動くようにしねえとな。二人はなんだかんだ言って、そういうの出来てんだよなぁ。
「ふふっ」
「なんだよ。佃。急に笑い出して」
鞍掛がいぶかしそうにオレを見てくる。
「いやあ、1年の時、球場で迷子になってた二人が、頼もしくなったもんだと思ってさ」
鞍掛と和泉の1年当時と比べたら、芦崎と乃生は随分としっかりしてる。大地は、まあ、規格外で比べようもないが……
「オレはなってない。迷子になったのは秀俊だけだ」
「ええー!いっしょに迷ってたじゃんかー」
こういうとこは、1年の時から変わってないよなぁ。
1年の時は、俺はあまり野球部とは積極的に関わろうとしてなかったけど、夏の大会で1回戦敗退が思った以上に悔しくて、このチームで1度は勝ちたいと思ったんだよな。
2年生の時も、1回戦敗退で……
「……そうか、念願だったんだよな。1回戦勝利」
「ん?」
俺のつぶやきに、二人が俺に視線を向ける。
「いやぁさ。今年は目標が高くて、1回戦突破が、いつの間にか通過点になってたから」
意味がわかったらしく、二人がニヤリと笑う。
「そうだな。去年までは、1回でもいいから勝ちたいって思ってたんだよな」
「不動兄弟が揃って、負ける気しないもんだから忘れてた」
二人もオレと同じように、負けることが当たり前だった2年前を思い出したのだろう。懐かしむような、困ったような、そんな笑顔をうかべている。
「鞍掛が投げての勝利だもんな。3年の俺たちにとっては、大いに意義ある勝利だったわけだ」
後輩に頼ってばかりの勝利じゃない。
「よし!勝利を祝って、乾杯するか!」
「そうこないとな」
和泉が持ってきてくれたコップに炭酸水を注いで、掲げる。
「「「かんぱーい!」」」
カキンとガラスのコップがぶつかる小気味いい音が、部屋に響く。
俺は、きっとこの瞬間を忘れないだろうな。




