2回戦 【鞍掛秀俊視点】
●鞍掛秀俊
2回戦の相手は、私立甘利高等学校。
甘利はシード校だけあって、侮れない。
「それじゃあ、頑張ってね。鞍掛くん」
千々和先生に背中を叩かれ激励される。
「え?どういうことですか?ピッチャーは静真……」
甲府の球場についてから、衝撃的な事実を知らされた。
今日の試合も、俺がピッチャーをやる?どういうことだ?
「今日の試合では、オレはキャッチャーを務めます。しっかり、リードしますんで、任せてください」
「いや、いや、いや、そういうことじゃなくてだな」
静真の笑顔に釣られて、つい頷きそうになったがおかしいだろう。
「もう、メンバー表はだしたから。今更、変えられないからな。覚悟決めろ」
「なんで、キャプテンの俺が知らないうちに、そんなことになってんだ?」
和泉、いっしょに今日の試合の打順や守備を決めただろう?あれはどうなったんだ?
佃がオレの肩に手を置く。
「甘利の主力が怪我で出られなくなったって聞いてさ」
それはオレも聞いてる。
「2回戦で静真が投げると、この先、大事な時に球数制限になっちまう可能性があるからさ。なるべく、温存したほうがいいんじゃないかって、和泉と話し合ってな」
佃が積極的に話し合いに参加してくれるのは、いいことだよ。
でもさ、キャプテンの俺も話し合いに入れろよ。
「2回戦で負けたら、次がないってことわかってるか?」
「1回戦での奮闘ぶりなら行けるだろう。静真も賛同してくれたし」
……佃、俺の賛同は?
「いや、だって、相手はシード校ぅ」
静真をなるだけ温存したいというのは、俺だって賛成だ。先のことを考えたら、1球でも投げる回数を減らしたい。
でも、俺が投げて負けたら、そこで終わりなんだけど!
甘利高は守備型の高川高とは比べ物にならないほど、OPS(出塁率+長打率)の高いチーム。そんなチーム相手に、オレの球が通用するわけないだろぉ。
和泉に訴えかけるが、笑顔を張り付けたまま表情を変えない。
「大丈夫。秋の大会で活躍したスラッガーが出場できないなら、甘利の攻撃力は駄々下がり。鞍掛でもいけるって」
「静真の負担を減らすには、この試合、鞍掛が投げるしかないんだよ」
佃と和泉が畳みかけるように言いくるめようとしてきやがる……
静真の名前を出すのは卑怯だろ。
「大丈夫です。オレを信じてください。打たれないリードをして見せます。それに、打たれても、後ろには7人の味方がおるんです。簡単に点はやりません」
静真の自信に満ちた目で見つめられると弱い。
静真のリード。後ろには7人の味方か。……確かに、俺だけの力なら無理でも、静真のリードがあれば……
打たれはしても、守備さえしっかりしてくれていれば、なんとか……
「……そうだな。一人でやるわけじゃないんだよな。打たれても、みんなが守ってくれる」
「おう、任せろよ。しっかり守るからさ」
佃が胸をトンと叩くと、後輩たちも同意を示してくれる。
頼もしくなったもんだなぁ。1年前とは違うんだよな。
「大地だってルール、しっかり覚えたものな。もう、守備も任せて安心だよな」
常永との練習試合の時は、ルールもわからなかった大地だけど、今は。
「ルール?なんのじゃ?」
大地が怪訝な顔で、俺を見てくる。
いや、なんのって……
「……静真ぁ?大地が……」
お兄ちゃん、大地は大丈夫なんだよな?ルールを教えたんだよな?
「打たれんよう投げればええんです」
ん?静真?
「静真ぁ、言ってること変わったよな?まさか、大地にまだルールを教えてな……」
「打たれんよう投げればええんです。さあ、投球確認しましょう」
静真が目を合わさない。
「まあ、ピンチになったら静真と交代していいからさ。頼んだぞ。キャプテン」
「目指せ!ノーヒットノーラン!」
グラウンドに出ていく部員たち全員、俺と目を合わさない。
さっきまでの頼もしさは、どこ行ったんだよ。
「ワシに任せればええ」
俺の肩を叩いて、颯爽とグランドに出ていく大地の背中は頼もしく見えるけど……
大地が唯一の不安なんだけどぉ。
全国高校野球選手権 山梨大会 2回戦
県立北仙丈・帯那連合 対 甘利高等学校
何とか、勝利。




