思っていたより 【酒盛千秋視点】
●酒盛千秋
放課後、大地くんたち3人と野球部の練習場所に行くことになった。
ボクが野球部のマネージャーかぁ。
考えてみたこともなかったけど、悪くないかもしれない。大地くんたちもいるし。
大地くんたち、いつも楽しそうでうらやましかったんだよねぇ。運動音痴の自分には、野球部なんて別世界で縁がないと思ってたけど、マネージャーなら自分でも務まると思うし。
「ここが我が野球部専用の練習場。ちょっと歩くけど、旧校舎も使えるし結構快適なんだ」
旧尾白中学校。芦崎くんが自慢するだけあって、部の練習場としては申し分ないかもしれない。
野球のユニフォームを着た先輩が校舎から出てきた。校舎の一室が、野球部の部室になっているのか。
芦崎くんがその先輩にボクのことを紹介すると、驚いた表情に。
「マネージャー希望?」
「は、はい!酒盛千秋です!よろしくお願いします!」
野球部の2年の先輩に紹介され、緊張なんてもんじゃない!
「こちらこそ、よろしく。すぐに部員集めてくるから、ちょっと待っていてくれるかな」
2年の先輩が優しく微笑みかけてくれる。グラウンドに散っている部員たちを集めに行くその背中に目が離せない。
なんてまぶしい笑顔!心臓がドキドキしちゃった!しかも!
「大地くんに似た男前!どういうこと?!」
「兄ちゃんじゃ」
大地くんの衝撃発言!
「大地くんのお兄さん?!」
どうりで!背が高くて足が長くて筋肉がのってて、きりりとした落ち着いた男前で、色気のある声なのね。
ワイルド系の大地くん、クール系のお兄さま。兄弟そろったら、凶悪なほど完璧!
白いユニフォームが輝いて見える!
お兄さまに呼ばれた先輩たちが、目の前に一列に並んでボクを見ている。き、緊張するぅ。
「紹介します。野球部のマネージャーをしてくれることになった……」
「1年の酒盛千秋です!よろしくお願いします!」
大丈夫かな?変なとこないかな?
「「「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」」」
一斉に挨拶してくれた先輩たちの顔には笑顔が浮かんでる。歓迎してもらえてるみたい!
「うちは人数が揃わなくて北仙丈と帯那の連合チームなんだ。帯那高校から2人」
先輩たちが順に自己紹介していってくれる。3年生が3人。2年生が4人か。1年が3人だから。全員で10人。部員ギリギリなんだ。
「とうとう、マネージャーが」
「うちの野球部には、マネージャーなんて大それたもの存在しなかったからなぁ」
「なんか部としての格が上がった気がする」
先輩たちが大げさなほど、喜んでくれている。ここまで必要とされてるなら頑張んなくちゃ。
「先輩たちが誤解しないよう伝えときますね。酒盛は男です」
「「「「えええっ?!」」」」
どよめきが起こる。
芦崎くん、余計なこと言わなくていいのにぃ。
「ま、男でも女でも、マネージャーになってくれるなら感謝しかないよ」
「千々和先生にすごい負担をかけちまってるからなぁ。よろしく頼むな。俺達もなるべく自分たちでやるようにはするからさ」
先輩たち、優しいな。運動部って怖いイメージがあったけど、そんなことないんだぁ。
これならやっていけそう。大地くんたちもいるし。
「千々和先生が来るまで、見学していてくれるかな。仕事内容は千々和先生に聞いてもらうとして。ざっくりとでいいから、練習している時の、動きや使う道具を把握してくれるかな。わからないことがあったら気軽に聞いてくれていいから」
「はい、了解です」
見学かぁ。こんな近くで練習見ることないから、ちょっとドキドキしちゃうな。
先ずはウォーミングアップからか。音楽を流してる?割とゆるい部なんだ。
ダイナミックストレッチ……。みんな、身体柔らかいなぁ。
「マネージャーもいっしょにやるか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
スタートの合図と同時に、左右のマーカーコーンに振れるようにジグザグに走っていく。
思った以上にきつい。ダメだ。ウォーミングアップでギブアップ……
みんな、楽しそうにウォーミングアップしてるから、もっと楽だと思ったぁ。
次は、各々分かれて練習か。
キャプテンは投球練習。キャプテンがピッチャーなんだぁ。
うはぁ速い。
他の人たちは、二人一組になって、……バッティング練習かな?
野手?が投げたボールを打者が打って、その飛んできた打球を野手がキャッチ。そしてまた投げる。
バッティング練習と守備、両方とも練習ができるわけか。なるほどぉ。
ペッパーバッティングっていうのか、なるほどぉ。
大地くんのお兄さまはピッチングマシンを使ってのバッティング練習。
ここまではわかる。
「大地くん、何してるの?」
「兄ちゃん、見とる」
それは見ればわかるんだけどぉ。
「なんで、そんなうらやましいことしてるの?」
「ん?マネージャーも見たいんか?仕方ないのぅ。ここ来て見たらええ」
「いいの?!じゃあ、お言葉に甘えて!」
大地くんの隣に並んで、お兄さまのバッティング練習を見守る。
防球のためのグリーンネット越しだけど、お兄さまのバッティング姿を近くで見ることができて眼福♡眼福♡
「俺も静真のバッティング見とこうかな」
「じゃあ、オレも」
ペッパーバッティングをしていた帯那の3年生の佃さんと芦崎くんも、同じように見学をはじめる。
練習しなくていいのかな?
「静真はほんと器用だよなぁ。長打狙いのフルスイングでも、確実に芯をとらえてる」
「腕の振りから何から何まで軌道がきれいなんだよね。静真兄ちゃんは」
「無駄な力が入ってないんだよ。静真のバッティングを脳に焼き付けてイメトレすると、スムーズに振れる」
二人が語りだしたけど……
「……?スイングが速すぎて見えないんだけど。みんな見えてるの?」
お兄さまが構えたなって思うと、ボールが飛んで行ってしまって、静真お兄さまの動きが全く追いきれない。
「まあ、一応な。先ず見るのは肩や腰や足。フォロースルーの姿とかな。部分部分を見て全体を見るを繰り返していくと、段々腕やバットの動きも見えてくる」
3年の佃先輩がアドバイスをくれるけど……
腕はほぼ見えないから、背中と、足と太ももと……。つい、いけないところを見てしまいそうになる。
「……う~ん、筋肉の躍動は感じ取れるんだけどなぁ」
「お?有望だぞ。マネージャー」
「え?そうですか?じゃあ、もっとじっくり……」
「そうそう、つま先から頭の動きまで、じっくり見ていくんだ」
……じっくり。背が高くて足長いから絵になるなぁ。しかも筋肉がしっかりついていて。
素敵すぎて、まぶしい。
「やりづらいのぉ」
4人の視線を一身に受けている静真お兄さまが、居心地悪そうにバットをおろす。
ピッチングマシンが止まる。
「大地、高めの打ち方は、こんな感じじゃ。わかったじゃろ」
そそくさと打席から離れたお兄さまが、大地くんにバットを渡す。
「高めは苦手じゃ」
大地くんが、お兄さまと変わって打席に立つ。
ピッチングマシンからボールが放たれ、大地くんがバットを振った!
「スイングの音、すごっ!」
ビュゥンじゃなくてカシュンみたいな風切り音がした。
「大地は振りが速いけえ、素振りの音も違うんじゃ。プロでもああした音はそうそうだせん」
ふふ、お兄さま、弟自慢してる。
広島弁しゃべると大地くんとそっくり。かわいい!
「当たってねえけどな」
佃先輩が、遠くを見る目つきになってる。
「素振りだけなら、メジャー級なのになぁ。当たんねえんだよなぁ」
芦崎くんも同じ目つきになってる。
「もっと引き付けてから打つんじゃ」
「引き付けてから……」
お兄さまのアドバイスに大地くんがうなづく。
大地くんのバットがうなる。
……今度は振り遅れ。
「大地は自分のスイングの速さがわかってねえんだよな」
佃さんがふうっとタメ息をつく。
速すぎるスイングがタイミングを取りづらくしてるってことかな?
「がんばって!大地くん」
大地くんなら、打てる!
ピッチングマシンが音を立てると、白いボールが飛んできた。
ガキンとものすごい音が鳴って、ボールがバックネットに突き刺さる。
「おお!当たった!」
「今の感じで、忘れないうちに続けて打ちまくれ!」
「その調子じゃ。大地」
すごい!すごい!今のバックネットがなかったらホームランだった。
ピッチングマシンからボールが飛んでくる。
カシュンと豪快な風切り音が……
「当たらんのぅ」
大地くぅん……
「ダメかぁ」
3人が肩を落とす。
「兄ちゃんみたいにはいかん。辰海も佃煮もできんじゃろ」
「俺は高め得意だけどな」
「オレもー」
佃先輩と芦崎くんが挑発するような返しをすると、不貞腐れた大地くんが、バットを振る。
ガコーンと豪快な音が鳴る。
「おおー?飛んだ」
「いいぞぉ。その調子!」
大地くんが打ったボールは、バックネットを超えて校庭の外まで飛んでいった。
当たるとすごいなー。大地くんをみんなが褒めている。
仲いいなぁ。みんな。先輩も後輩も関係なく。
思ったより野球部って、自由な部なんだ。運動部ってもっと上下関係が厳しいと思ってたけど、全くそんなことないし、練習中に音楽をかけたり、雑談したりして、みんな楽しそう。大会で勝つことより、楽しむ系の部なのかな?そういうのもいいよねぇ。
みんな思ってたよりずっとうまいし、不動兄弟は飛び抜けて身体能力高いから、ちょっともったいない気もするけど。
この野球部なら3年間マネージャーするのも楽しそうだしいいかな。




