マネージャー募集 【不動大地視点】
●不動大地
「ええっと、三振は『K』なのか?……なんで『K』なんだ?英語では『K』になるのか?」
「英語でもStrike Outだから『S』なんだよね。確か、Kを使うのは3画だからとか、SだとStealとか他の用語と被って紛らわしいから使わないとかって話を聞いたことあるけど……、どうなんだろ?」
辰海の疑問に乃生が答えとるが、何を言っちょるか、ようわからんのう。
「諸説あるらしくて、はっきりとした理由はわかってないそうよ。昔からの慣習ね」
チワワが補足してくれるが、やっぱりわからんのぅ。
「スコアブックって書くの結構面倒なんだな」
辰海が大きくタメ息をつく。辰海でも厳しいんか。ワシには無理そうじゃ。
「ワシまで覚えんといかんのかのう」
「1年は一応全員覚えるようにって、キャプテンの指示だからさ。まあ、大地はなんとなく覚える程度でいいよ」
スコアブックのつけ方ちゅうのを、1年で唯一知っている乃生が、ワシと辰海に教えちょるけどのう。覚えられる気がせんのう。
「試合中のスコアブックは、私がつけることになるだろうけど、やっぱり、みんな知識があったほうがいいからね。がんばって覚えましょう!」
「千々和先生はスコアブック書けるんですか?」
辰海がチワワに尋ねる。
「もちろん、書けるわよ。先生、趣味が野球観戦だからね!たまにスコアを付けながら中継を見たりしてるし」
「……そげなことして楽しいんか?」
「……楽しいわね」
わからんのう。
「千々和先生に記録員の仕事までお願いすることになってしまって、申し訳ないです」
「何言ってるの。そのくらい喜んでやらせてもらいます。気にしないで」
キャプテンが近寄ってきてチワワに頭を下げると、チワワが困った顔で笑顔を作る。
「千々和先生に頼まなくても、控えのボクが書けばいいと思うのですが?」
乃生はすでに控えになる気なんか。
「乃生ぇ、うちに決まった控えはいないからな。この人数だ。全員を試合に出すつもりだし、控えになったとしても、いつ交代になるかわからない。いつでも試合ができるように準備万端で待機していてもらいたいんだ。スコアを付けていると、気持ちが薄れがちになるからさ」
「そうですよね。……考えが足りませんでした」
乃生がキャプテンの言葉にうなずく。
よーわからんが、スコアを書くのは面倒そうじゃけえ、やらんですむならええけどのう。
「監督としてもコーチとしても役に立ってないんだもの。そのくらい任せて」
「充分すぎるほど貢献してくれてますよ。何もしなくていいとお願いしたのに、申し訳ないくらい」
チワワの言葉にキャプテンが慌てて否定しちょる。
「そうだよなぁ。千々和先生、準備から片づけまで手伝ってくれてるし」
「トスバッティングに付き合ってくれたり、フォームチェックもしてくれてるもんなぁ。ここまでしてくれて役に立ってないなんて誰も思ってないですよ」
「感謝しかないです。ほんと」
みんながチワワに感謝の言葉を述べとる。ワシもさりげなく言葉を添えとこうかのぅ。
「ほうじゃのぅ。あとは勉強するよう言わなければ完璧じゃの」
「……大地くん、どさくさ紛れに無茶な要求を言っても無駄よ。私は野球部顧問であると同時に、教師でもあるんだから」
教師ということ忘れとらんのか。チワワは手強いのぅ。
「マネージャーがいればなぁ。先生の負担も少しは減るんだけど」
「マネージャーかぁ。欲しいよなぁ。大会が始まったら、さらに忙しくなるし、人手はいくらあっても足りないものなぁ」
乃生とキャプテンがタメ息を吐く。
「静真兄ちゃん、モテんのに、何でマネージャー捕まえられなかったかなぁ」
辰海が兄ちゃんの名前を出すと、マウンドでピッチング練習をしている兄ちゃんに視線が集まる。
「静真目当てでマネージャーになりたいって言ってきた女子は、複数いたんだけどなぁ。静真が断っちまったんだよ」
「ええ?!なんで?!」
キャプテンが兄ちゃんをからかうように声を張り上げると、兄ちゃんがこっちを向いた。
「オレに付いて回って、まともにマネージャーの仕事をしてくれなかったんじゃ」
「あ~、そういう感じかぁ」
兄ちゃんが困った顔になっちょる。
「うちのような少人数の野球部で、遊び半分のマネージャーがいると面倒が増えるだけじゃけえのぅ」
「静真を見て、きゃあきゃあ騒ぐだけで、正直邪魔でしかなかったからなぁ」
目を細めてキャプテンが、遠くを見ちょる。
わからんでもないの。兄ちゃん人気になりすぎて、うちにまでそういう女子が来たことあったけえ。
ワシの悪評が知れ渡ってからは平和になっちょったんじゃけどのう。高校までは評判が広まっとらんようじゃのう。
「マネージャーは裏方の仕事が多いから、具体的な仕事の内容が知られていないのよね。だから、マネージャー希望の子も誤解しがちなのよねぇ」
チワワがタメ息をつく。
「なあ、1年。真面目にマネージャーの仕事してくれそうな同級生に心当たりないか?」
「そう言われても、なあ」
キャプテンに尋ねられ、1年同士で顔を見合わせるが、誰も心当たりはなさそうじゃのう。
「声をかけるだけはしてみてくれよ」
キャプテン、軽い言い方しちょるが目は笑ってないの。
ワシはそういうの苦手じゃけえ、2人に任せるとしようかの。




