35、残った<ヒョウイシャ>
夏の長期休暇に入り私はキルッカ領とフェルン領を行き来し、たまに王都へ戻って来たりと充実した毎日を過ごしていた。
「見てくださいエドヴァルド様! 薬草が増えましたわ」
「アマリアが指導してくれたから、小さいながらも薬草畑ができたよ。ありがとう」
いずれ嫁いでくる私のためにフェルン家のみな様は小さな温室と薬草畑を作ってくださった。こちらに滞在できるのは長期休暇の間だけなので、私がいない間は通いだった庭師の方を住み込みで雇って管理をしてもらっている。そのため、今は小さな温室と畑だが庭師の方もやりがいがあると楽しそうにしておられたから良かった。
エドヴァルド様とはこうやって二人の時間が合えば一緒に植物に触れ合っている。
「そろそろ休憩にしようか」
「そうですね」
近くにある大きな平たい石にハンカチを敷いてくださり、そこに座るように誘導される。今日はフェルンでは珍しく暑いので汗で髪が貼りついてしまう。ハンカチで拭っていると髪をそっと耳にかけてくれた。
「エドヴァルド様!」
「髪が邪魔になるだろう?」
「もう! いきなりは禁止です!」
「あぁ、すまん」
謝っているが悪いとは思っていないのだろう。とても楽しそうな顔をされている。こうやって私の反応を見て楽しんでいるのだから、私が反応しなければいいのだけどそれは無理な事で、いつまで経っても胸がときめいて顔に熱が集まってしまう。
お互いに会えなかった時の話をして、ゆったりと流れていくこの時間が大好きだ。あの学園での事件が昔の事に感じてしまうくらい、ここはあの場所から遠い。クルーク様もリッリ様と同様に隔離されて過ごされている。もしかしたら二度と会う事はないのかもしれないが、本来のお二人には会って見たかった。
長期休暇も終わり学園へと通う毎日が始まる。あのお二人がいなくなって平和を取り戻したかのように見えるが、まだまだ問題児は残っていた。
「はぁ……妖精王様の息吹を感じますわ」
頬を染めて温室に咲いているバラに向かって何か囁いているのが自称『妖精王の愛し子』さん。
「あれ? 俺、また何かやっちゃいましたか?」
特に何もしていないのにそう聞いて来る、自称『チート主人公』さん。
「ふーん、君の魔力ってそんなものなんだ? 大した事ないね」
ほぼ魔力ゼロと言ってもいい程しか持っていないのに上から目線で馬鹿にしてくる自称『大魔法使いの末裔』さん。
「いやぁ、僕はただの男爵子息さ」
王族の血などひいていないのにわざとらしく隠している風を装う自称『亡国の王子』さん。
「フッ……いずれ世界のすべては俺のものに」
格好つけてひとりで決めポーズをとっている自称『ラスボス』さん。
「うふふっ。『ヒロイン』と『悪役令嬢』が一緒にいるわ。こっそり後をつけて傍観しなくちゃね。あくまで目立たないようにまわりに埋もれて……」
こっそりとは……と、聞きたくなるような行動をしている自称『モブ令嬢』さん。
今日も王家専用特別室ではため息が大量に聞こえている。あの二人に比べれば被害が出ていないだけまだいいのだろうか。でも最近は『モブ令嬢』さんが視界によく入ってくるようになった。それでも視界の端にちらちらと映るくらいなので、みなが関わらないように放っている。
何事もなく一年を終えて、姉達も無事に卒業していった。私達は二年生になり新入生も入学してきたが、一年生の特別クラスも大人しい方達ばかりだった。クラウス兄様とセシリア様の結婚式も終わり、サマーパーティーも今年は最後まで参加する事ができた。望んでいた穏やかな学園生活をおくれて三年生のクレメッティ兄様も卒業された翌年度、私達が最終学年になった時にあの方が動き出す。




