36、モブ令嬢の物語
はじめまして、ワタシは『モブ令嬢』。え?それが名前なのかって?違いますよ。ワタシにだって一応は名前があります。でも物語のモブに名前なんて必要ないでしょう?だからまぁ、ワタシの事は『モブ令嬢』とでも呼んでくださいな。
ワタシは、とある異世界恋愛小説の主人公に転生した。あら?これじゃあモブにならないわね。でも違うのよ!この小説の主人公が『モブ令嬢』なの。物語の始まりは卒業パーティーの断罪劇から始まる。王子の婚約者である『悪役令嬢』が王子を誑かした『ヒドイン』にざまぁされるのをモブ視点で見ているの。でも逆に王子が『悪役令嬢』にざまぁされるんだけど『ヒドイン』は脅されて王子に従っていただけだったという真実が明らかに!
断罪劇を見て「どうなるんだろう……でも、自分には関係ないし」などと考えながらパーティーの美味しそうなご馳走を食べていれば、まわりが騒めきだす。
ここで王太子様と隣国の王子様が登場!弟王子は廃嫡が決まってそのままフェードアウト。そして『ヒドイン』と『悪役令嬢』に二人がプロポーズして、めでたしめでたし……にはならないんだなぁこれが。
『ヒドイン』と『悪役令嬢』は転生者で、実は前世からの親友同士。お互いに推しキャラと結婚したいから弟王子を嵌めて今回の断罪劇を起こした。その事をここでばらされて転生者二人は自分達の推しキャラによって断罪される。両手をついて打ち震える二人をよそに、なぜか主人公の方に近づく王子二人。ようやく事態に気づいた主人公にプロポーズする。実は二人とも主人公の事が好きだったのだ。主人公の手を片手ずつ持って両手に花状態に焦る主人公。「これから私どうなっちゃうのー!?」というセリフで締められていた短編だった。続きはみな様のお好きにって事かしら?なら王子二人に取り合われて、なんか他にも攻略対象のキャラが出てきて逆ハーとか?ラスボスな魔王に浚われて溺愛もいいわね。
うふふ。こんな世界に転生できたんだから、ワタシってばラッキー!学園入学一年前に気づけて良かったわ。前世の記憶が戻る前のワタシ自身の記憶がないのがやばいけど、この一年間は予習復習よ。あ、ちなみにワタシは子爵令嬢なの。でも、本当の主人公になるまでは『モブ令嬢』って呼んでね。
学園に入学したら特別クラスとかいう所に案内された。物語は卒業パーティーの場面しかなかったから、主人公がどんな学園生活をおくっていたのかわからない。でもクラス内には『ヒドイン』と『悪役令嬢』みたいな人がいる。他にもいるけどまだよくわからないし、これはこっそり観察するしかないわね。それにしても『ヒドイン』がうるさすぎるんだよね。なんか想像していたよりも濃いピンクの髪だし、ひとりで騒いでいる。明日からもこいつと一緒とか疲れそうね。
次の日には『悪役令嬢』までうるさくなっていた。二人で言い合いをしているけど、これって実は打ち合わせされていてわざとまわりに対立しているように見せているだけなのかしら?隠れながら観察していたら、なんか本物の『ヒロイン』と『悪役令嬢』っぽい子達もいるみたい。あっちは仲が良さそうだし、第三王子の婚約者だって。やだ、こっちが本物だったって事?なら、同じクラスにいるあっちの二人は何なのだろう。
「とりあえず、こっそり観察しなきゃ……ワタシは目立たない『モブ令嬢』だもの」
うちのクラスにはワタシとあの二人を除いて六人いるんだけど、この『メカクレ令嬢』って、めっちゃ不憫なのよね。大人しいから無害だとは思うんだけど、あの『ヒドイン』と『悪役令嬢』の争いに巻き込まれて突き飛ばされそうになったり、二人に密かに嫌がらせみたいな事をされていたり。侍女の人がこっそりと助けているみたいだから大丈夫そうだけど、見ているだけで泣けてくるわ。この子、あの『ヒロイン』ぽかった子と姉妹なんだよね。あ、もしかして姉妹格差?『ドアマットヒロイン』じゃん!ワタシ、苦手だからよく知らないんだよね。そのポジションに転生しなくて良かった。『メカクレ令嬢』マジ、どんまい!
あの『ヒドイン』がソッコーで退場している件!いきなり退学になってるんだけど、なんで?情報を集めてみたら第三王子を怒らせたらしいじゃん。うるさいのがいなくなって『悪役令嬢』も大人しくなったし、まぁいいかな。
そう思っていたら、今度は『悪役令嬢』が事件を起こしてる!あの『ヒロイン』ぽい子、実は愛され系?なんか第三王子にも本物の『悪役令嬢』にも大切にされてるっぽいし、まわりにはとりまきやイケメンもいるし。卒業パーティーでこの子達を出し抜かなきゃいけないんだよね。
「ワタシにできるかな……」
ま、なんとかなるでしょ。この物語の真の主人公は『モブ令嬢』のワタシだもん。待っててね、王太子様と隣国の王子様!
「あ、これも美味しいわ! 次はあっちのを食べようっと」
はぁ……この三年間の観察生活も今日で終わりだわ。あれからも観察は続けていたのだが誰にもばれていないだなんて、ワタシには隠密スキルとか付いているのかもしれない。おかげでこっそりと見る事ができたからラッキーだよね。
あの『ヒロイン』ぽい子ってばピンクブロンドに空色の目、それに回復系の魔法が使えるらしいのよね。これはまさに小説に出てくる『ヒドイン』の設定に合っている。婚約者もいるみたいだけど、この場合はどうなるんだろう?第三王子の婚約者は『悪役令嬢』でしょ?二人が断罪されるから、もしかしてこの婚約者達にプロポーズされるのかしら?
「王太子様と隣国の王子様も捨てがたいけど……」
「お嬢様?」
「なんでもないよ」
「……そうでございますか。はい、メイクも完成しました。どうでしょうか?」
鏡に映る自分を確かめてみると、そこには美少女が!なんてね。その正体はワタシです。まぁ、モブのワタシではあの二人には負けちゃうよね。
「ありがとう」
「いえ、では卒業パーティーをお楽しみください」
「うん」
卒業の式典が終わって一度タウンハウスに戻ってドレスを着て、そしてまたこれから学園に行くのは面倒なのだけど……。
「ようやく物語が始まるんだから、楽しまなきゃ!」
ワタシの、ワタシのためだけの物語が今夜始まる。




