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公爵令嬢の幸せな夢  作者: IROHANI
38/48

34、自称悪役令嬢

 夏の長期休暇前に学園ではサマーパーティーがおこなわれる。学園の中庭が飾り付けられ、生徒は着飾ってそれに参加する。とはいえ、豪奢なドレスなどではなくシンプルなものとなり、学園からも貸し出をしており制服での参加も許可されている。エスコートなどは必要ないので、みなが気軽に参加できるようになっていた。

 <ヒョウイシャ>の方達も参加が許可されているが監視はされる。端の目立たない所にアンノさんがいるのが見えたが、近くにマリタもいるし静かに過ごしているみたいなので安心だ。

 リッリ様が退学してからは特にこれといった事件は起きていなかった。自称『悪役令嬢』さんもリッリ様がいなくなった途端に大人しくなったのだ。他の方はそれまでと同じでご自分の世界に入り浸っている。

 だから油断していたのかもしれない。ようやく穏やかな学園生活がおくれるとみんなで話していたのに、大人しくなっていた自称『悪役令嬢』さんが動きだしたのだ。


「ごきげんよう」


 私達が楽しく話をしている輪の中に、ぐいぐいと割り込んで進んで来たのが彼女だった。後ろには二人のお付きの監視役が無表情で立っている。楽しんでいた空気は霧散し、そこは静寂に包まれた。

 彼女は誰に話しかけているのかわからないが、みなに注目されながら突き進んで来たのは私の前だった。背の低い私を上から見下ろし、フンッっと鼻で笑っている。これ、以前にもカトリーナ様にされた事がありましたね。


「あなたに話しかけているのよ? そう、高貴なワタクシがあなたのような下賤な女にね」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて高圧的に話しかけているのは、どうやら私にみたいだ。まわりの空気が彼女の言葉で張り詰め、レベッカ様やソフィア様が私の前に出ようとされたのを止めて一歩前に進む。

 扇子を広げて口元を隠しながら目の前の彼女を無言で見上げて返事は返さない。


「あら、何も言えないのかしら? まぁ! その扇子、あなたみたいな下賤な女がどうやって手に入れたのかしら? まさか殿方におねだりでもされたのかしら……あぁ、違いますわね。そんな安物の扇子もドレスも高貴な方が贈るわけありませんわ」


 高笑いしながら私を見下しているが、まわりの空気を読んで欲しい。後ろの監視役のお二人もさすがに険しい顔をしているし、ざわざわと騒がしく広がっていく彼らの言葉にも耳を傾ければこの状況がわかるのではないだろうか。

 彼女が安物と見下している扇子もドレスも王家御用達の店でオーダーメイドで作られた物だ。一番許せないのは、このドレスはエドヴァルド様から贈られた私のためだけに作られたドレスだという事。それを安物だと馬鹿にされた。たとえ、安物であったとしても彼から贈られる物はすべて宝物なので私は気にしないが、エドヴァルド様の事を馬鹿にされたみたいで許せない。

 苛立つ心を静めてじっと彼女を見つめていれば、あちらもさすがに焦れてきたのか目を吊り上げて叫ぶように声を荒げる


「ちょっと、ワタクシの話を聞いていまして? 下賤のピンク女が!! ワタクシを誰だと……」

「まぁ、今まで私に話しかけておられたのですか? えぇっと……どこのお家の方だったかしら?」


 わざとらしく首を傾げて尋ねればどこかでクスクスと笑い声が聞こえ、それが聞こえたのか怒りで瞬間的に顔を真っ赤に染めている。お気をつけて。血圧が急上昇してしまいますわよ。


「なっ! あなた! ですからワタクシを誰だと思って……」

「えぇ、どこのどなたですの? 私はどなたからもあなたの事を紹介されていませんので、存じ上げておりませんの」

「ワタクシはクルーク侯爵家のオネルヴァでしてよ! あの煩いピンク女がいなくなったと思えば、どこに隠れていたのか!! 見た目的にあんたの方が『ヒロイン』じゃないの! ピンクの髪に青い目、小柄で庇護欲をそそるその見た目! 奇跡の力を持った平民出身の主人公なんて吐いて捨てるほど小説で見てきたわよ! でも、ざ~んねん。真の主人公は『悪役令嬢』であるアタシなの! あんたはパーティーでざまぁされる『ヒドイン』なのよ! あははははははっ!! げほっ」


 一気に捲し立て高笑いをしているが途中で咽ている。大丈夫なのだろうか。それに、新しいワードである『ヒドイン』なるものも出てきた。


「まぁ、長々と自己紹介をありがとう御座います。クルーク侯爵様のご息女様でしたか……私は長女の方しか存じ上げておりませんでしたので、あの方の妹君でしたのね。クルーク侯爵様も姉君も素晴らしい方であるのはみな様が知っていますわ」

「はぁ? あんな地味姉のどこが……」

「あら、ごめんなさい。私ったら、自分が名乗るのを忘れていましたわ。改めまして、キルッカ家の三女アマリア・キルッカと申します」

「きるっか?」


 姉ユリアナの笑顔を真似て挨拶をしてみたが、彼女はキルッカ家の事を知らないみたいだ。不思議そうな顔をして私を見ている。


「まぁ。あの方、キルッカ家の事を知らないみたいですわよ」

「そんなまさか。小さな子供でも知っている事でしてよ」

「でも、ほら……先程からあのように言ってアマリア様の事も知らなかったみたいですし……」


 こそこそと内緒話をされているようだが、みな様聞こえていますよ。目の前のクルーク様が自分の事を馬鹿にされたと思ってか、そちらを睨みつけている。


「な、なによキルッカ家? どこの田舎貴族かしら。ワタクシは存じませんわぁ」

「そうなのですか。それは残念ですわ……」


 本当に知らなかったとは思わなかった。自分で言うのもなんだが王家に連なるキルッカ公爵家の事は国民なら誰でも知っている。最低限、貴族について学んでいたらわかる事でもあるのに。


「本当に残念だ。キルッカ公爵家は『もうひとつの王家』とも呼ばれているのにね」

「クレメッティ殿下!」


 クレメッティ兄様が現れた途端にクルーク様は嬉しそうにそちらへ駆け寄るが、当たり前だがすぐに護衛騎士に止められている。


「クレメッティ殿下、ワタクシのために来てくださったのですね! さぁ、はやくこの無礼な田舎娘を捕まえてください! 侯爵令嬢であるワタクシに対してあまりにも無礼で……」

「衛兵、この女を連れて行ってくれ」

「何を! 間違っていますわよ!? 捕まるのもざまぁされるのもその『ヒドイン』じゃないの!!」

「無礼なのはどちらなのか……はぁ。アマリアはユスティーナ王妹殿下の娘で公爵家の末姫だよ。私の大切な従兄妹でもある」


 納得いかないのか暴れて護衛騎士の方達に押さえつけられているが、それでも力ずくで抜け出そうとしている。あの細腕のどこにそのような力があるのだろうか。


「そんな、ありえない! そんなのアタシが望む『悪役令嬢』のポジションじゃない! 何であんたがそこにおさまってんのよ! そこはアタシのいる場所よ! 王子に愛されるのも結婚すんのもアタシなのよ!!」

「君を愛する? 寝言なら寝て言って欲しいね。冗談なら笑い飛ばしてあげよう。でも、本気で言っているのならありえない。私にはすでに愛するレベッカがいる」


 レベッカ様の肩を抱いてクルーク様に見せつけるように言われたが、あの方は理解できなかったのか暴れていたのを止めて不思議そうにきょとんとしている。ちなみにレベッカ様は恥ずかしそうに照れていてかわいい。


「レベッカ? いや、誰よそのおんなぁぁ!!?」


 最後にそう言い残し、クルーク様は連行されて行った。




 みな様に場を乱してしまった事を謝罪して、王家専用の特別室に移動した。みな様、気にしていないようで「災難でしたね」と逆に私が慰められてしまった。

 特別室にて姉に抱きしめられて、よしよしと幼子のように撫でられる。


「本当に災難でしたわね。せっかくのサマーパーティーが台無しになるところでしたわ」

「本当ですわね。あの方、クルーク家の次女でしたっけ?」

「そう名乗っていましたわね。侯爵様も姉君もとても素晴らしい方ですわ。なのに……」


 クルーク様は姉君を地味と言っていたが、実際は清楚で美しい方だ。お優しいだけではなく芯もあり、姉のユリアナも懇意にしていた。まさか妹君があのような方だったなんてと思ったが、あれはもうひとつの魂の方なのでしょう。


「本来の妹君は穏やかで控えめだとおっしゃられていたわ。アレは憑依した魂の人格なのでしょうね」


 姉が悲しそうに言ったのはそのように聞いていたからなのと、グロリアの事もあるからだろう。アンノさんは今は大人しいが、いつリッリ様やクルーク様のように行動に出てしまうかもしれない。


「それにしても、ユリアナはよく我慢していたね? いつ、毒舌を吐くのかと冷や冷やとして見ていたよ」

「ふふっ。私も割り込もうかと思いましたが、アマリアが珍しく挑発していたのが面白くて」

「お、お姉様!?」


 たしかに、私はこういう事が得意ではないがやる時はやる。


「そのドレス、エドヴァルド様が贈ってくださったのよね」

「まぁ! だからドレスを馬鹿にされた時に、とても怒っていらしたのね」

「ふふふっ、アマリア様ったらお熱いですわ!」


 エレオノーラ様に指摘されて顔が熱くなる。つい、あの時は苛立ちを抑えるのを優先していたが、きっと表情に出ていたのだろう。まだまだ淑女の仮面をかぶり切れない私は未熟だった。


「はぁ……今日の事件も報告されるだろうし、また兄上達が何を言い出すかわからないよ。特に今回はアマリアが標的にされたから、義姉上達も参戦するのだろうな」

「事を大きくしてしまいましたでしょうか? 申し訳ありません」

「アマリアのせいではないし、わざと泳がしている事もあったから気にしなくてもいいよ」

「クルーク家には……」

「大丈夫、報告は行くけどお咎めはないから心配しないで」

「よかった」


 それを聞けて安心した。ただでさえ<ヒョウイシャ>の事で悩まされているのに、追い打ちになるような事にならなくてよかった。




 こうして特別クラスからひとり、また生徒が消えた。




 後日、クルーク家の親子が謝罪に訪れられた。以前も、リッリ様のご家族が謝罪に来られたが<ヒョウイシャ>の事は我が家も他人事ではない。謝罪は受け取り、このご縁により今後は三家での交流も増える事となる。



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