19、外堀を埋められている?
ヒルダ様の「うちの息子の嫁へ!」発言に、エサイアス様も辺境伯様ことエルネスティ様もそれはいいと頷いている。私はいただいているお茶を吹き零さないように淑女の意地で耐え、そっと隣に座る祖父を見た。
「アマリアはやらんぞ!」
祖父の答えは予想通りだった。
「まあ、アードルフ様! 少しくらい考えてくださってもいいではありませんか。先日、隣国にお見合いに行かれたと聞いていますわよ」
「あんな軟弱な小僧など最初から却下じゃ!」
「うちの息子達は親のひいき目を抜いても、なかなかやりますわよ! それはアードルフ様も知っていらっしゃるでしょう?」
「む……」
「学園の長期休みには帰ってきますから、その時にでも会って話をすればいいですわ! うちにお嫁に来てもらうのだから、エドヴァルドがいいかしら。アマリアちゃんも面識があったわよね?」
「え、はい」
エドヴァルド様の名前に反応しないようにするので精一杯だ。それに決定事項のように進んでいるが、エドヴァルド様のご意見も聞いた方がいいのでは?
「ヒルダ、落ち着きなさい。アマリア嬢が驚いているだろう」
「あら、ごめんなさいねアマリアちゃん」
「いえ、私はいいのですがご子息の都合もあるのでは……」
考えたくはないけど学園に恋人や好きな人がいらっしゃるかもしれない。同年代の綺麗な女性があの方の隣に並んでいるのを想像してしまい勝手に落ち込む。
「大丈夫よ。あの剣にしか興味のない男に恋人なんていないわ」
気づけばお見合いをする事は決定しており、エドヴァルド様がお帰りになるまでこちらに滞在する事に決まっていた。
ヒルダ様はウキウキと上機嫌で私を着せ替え人形にしている。お見合いをする事が決まった次の日には、母と王妃殿下からドレスが送られてきた。母はわかるがなにゆえに王妃殿下からと思っていれば、ヒルダ様と王妃殿下は従姉妹同士だそうだ。
「キルッカ家に報告をしたから王家にも話が届いてしまったのね。王妃殿下とは娘が欲しかったと二人でよく話していたのよ」
王家も王子しかいないので王妃殿下は私達三姉妹を自分の娘のように可愛がってくださる。キルッカ家は王家に何かがあった場合、血を絶やさぬための『もうひとつの王家』と呼ばれている。この平和な時代に何かが起こるなどとは思っていないが、王家の血を繋いでいくのはキルッカ家の役目でもある。
「うん、これがいいわね!」
ヒルダ様が選んだのは、ブルーラベンダーのシンプルなドレス。淡い青紫色というのだろうか。そこに濃い青紫色の腰にあるリボンがアクセントになっている。胸元にある花の刺繍が華やかさを演出しているが、この色は明らかに意識しているものではないだろうか。
「あの、この色は……」
「うんうん、いいのよ。これくらいしないとあの子は気づかないわ!」
「何に気づくのでしょうか?」
「あらやだ、アマリアちゃんはエドヴァルドの事が気になっているのでしょう? 見ていたらすぐにわかったわ!」
好きな方の母親に知られているとは恥ずかしすぎる!どうすべき?「この泥棒猫が!」とか言われてしまうの!?
顔が熱くなったかと思えば不安な気持ちが大きくなって一瞬で引いていく。今の私はすごい顔になっているのではないだろうか。
「アマリアちゃん、どうしたのかしら?」
「いえ、その……気づいて、おられて……」
「大丈夫よ。うちの男達は気づいていないから安心してね。そんな事よりラッキーって思っちゃったわ!」
気づいたのはヒルダ様だけのようだ。ここでも男性陣はそういった事に疎いらしい。ヒルダ様も乗り気でいてくださるので安心した。
「後はこのリボンとネックレスにしましょうね。さて、お疲れ様」
「ヒルダ様、ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
メーリやこちらの侍女の方達に手伝ってもらってドレスを片付けてもらい、私達は用意されたお茶をいただきながら今後の予定をお話しする。
「明後日は薬草採取に行くのよね」
「はい。庭師さんに教えていただいた薬草を何種か採りに行く予定です」
「護衛達がついているから大丈夫だと思うけど、この地には魔獣が出るから気をつけて行ってきてね」
「はい」
その後も、家族の事や庭の話などで盛り上がり、くるくると変わる話題を楽しんだ。
薬草採取の当日は良く晴れており、遠くに『天山』が見えている。頂上は見えないが、あの場所からドラゴンが飛来したのだったかと昨年の事件を思い出す。
本日行く場所はここから近い小さな山で、護衛にはフェルンの騎士団の方がついてくださる。メーリと私の専属護衛騎士であるイーロとユッカ。そして――。
「いい天気になったのう!」
「はっはっはっ! 魔獣狩り日和ではないか!!」
祖父アードルフとエサイアス様の最強コンビ。このお二人がいれば魔獣も逃げ出すのではないだろうか。現に騎士団の方達がそう言っているし、イーロもユッカも頷いている。
魔獣が出てこないなら安心だが、私は守ってもらう事しかできないので大人しく薬草採取をしていよう。




