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公爵令嬢の幸せな夢  作者: IROHANI
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20、再会は図書館で

 薬草採取は無事に終わった。祖父とエサイアス様のおかげなのか魔獣に遭遇する事もなく順調に作業をする事ができたのだが、魔獣どころか鳥も動物の気配も感じなかったのは気のせいだと思いたい。お二人は物足りなさそうで、明日には別の山で魔獣狩りをするそうだ。

 何種類もある薬草をひとつひとつ手に取り、どういった薬になるのかを考えながらじっくりと見ていれば時間はあっという間に過ぎていく。ようやく持ち帰った薬草の仕分けが終わり身体をぐっと伸ばしていると、メーリがお茶を淹れているのが視界に入った。


「お疲れさまでしたお嬢様。お茶の準備が整いましたので、こちらでどうぞ」

「ありがとうメーリ。あなたも一緒に山について来てくれたから疲れたでしょう?」


 いつも行くキルッカ領の森や山ではなく知らない土地だ。彼女は私の薬草採取に必ずついて来てくれる。幼少期からずっとそばにいてくれて、私にとっては姉のような存在だ。

 いつもありがとうとお礼を言えば嬉しそうに微笑んでくれた。




 エドヴァルド様が帰ってこられるまであと三日。日に日に緊張が高まっていき落ち着かない。メーリに少し落ち着いてくださいと窘められるが無理だ。そんな私を見てヒルダ様は楽しそうに笑っておられる。

 このままではいけないと思い持ってきた本でも読もうと取り出したのだが、手にしたのはあの恋愛小説だった。


「よ、よりにもよってこれとは……封印しておいたはずなのに!」

「申し訳ありません。私が入れてしまいました」


 メーリが私の暇つぶし用にと、うっかり持って来てしまったようだ。今のこんな状態でこの小説を読めるはずもないので許可をいただいている図書館へ行く事にした。

 我が家の図書館とは違った雰囲気の中、どんな本があるのかざっと確認をすれば『天山』や『魔の森』ついての本やこの地の歴史などがまとめられている本が見られる。あとは兵法書や魔法などの本に自叙伝や自伝など。小説コーナーのところには恋愛小説まであった。

 何冊か手に取り、興味をひいた本をメーリが運んでくれる。他にも無いかと探していれば上の方に植物の本を見つけた。私の背では届かないので誰かを呼べばいいのだが、メーリは先程ソファーの方に本を持って行ってもらったからいない。今いる本棚は彼女からは見えにくいところなので自分で取ればいいだろう。近くにある梯子を使って登れば見たかった本に手が届く。本に手をかければ意外と重くて、体勢を崩しそうになるが何とか立て直せた。


「はぁ、危なかった」


 ほっと息を吐けば、誰もいないと思っていた後ろから急に声をかけられて驚く。


「アマリア嬢?」

「え、あ……フェルン様?」


 後ろを確認すればフェルン様が立っておられて、あちらも驚かれている。


「こちらにいらっしゃると聞いて挨拶をと思ったのですが、そのような梯子に登るなど危ないですよ」

「これくらいの高さなら大丈夫ですよ。えっと、今降りますわ!」


 はしたないと思われてしまったかしら?でもお帰りになるのは三日後とお聞きしていたのに、心の準備ができていない!顔は赤くなっていない?髪は乱れていない?おかしなところはなかったかしら……どうしよう!?

 何度も「落ち着くのよ」と心の中で唱えながら、ゆっくりと梯子を降りる。そっと後ろから支えてくださった手にびくりと反応してしまったせいで、床に着く際に体勢を崩してしまうが受け止めてくださった。


「あ、ありがとうございます」

「いえ、足を痛めたりなどはしていませんか?」

「大丈夫ですわ」


 私の返答にほっとされて、微笑んでくださる。

 あぁ、この目だわ。鋭い青紫の目元が緩んだあの瞬間に、私は恋に落ちたのだった。この目が映すのが私だけならいいのに……そんな事を思ってしまう。

 自然な動作で私から本を取り上げて、そっと手を引いてエスコートしてくださる。触れた手はあたたかくてゴツゴツしている剣を持つ人の手で、大きな男の人の手だった。私の小さな手とは違うそれに心臓がバクバクとうるさい。

 赤くなる顔を隠すように俯いて黙ってついて行けば、メーリが待つソファーにそっと座らせてくれた。テーブルに積み上げた本を見て可笑しそうに笑っておられる。


「たくさんの本を読まれるのですね。失礼。改めて、フェルンへようこそ。母がずいぶん振り回してしまったようで、申し訳ありません」

「お邪魔しておりますわ。ヒルダ様にはよくしていただいて……エサイアス様やエルネスティ様にもお世話になっております」

「ここには何もなくて退屈でしょう?」

「そんな事はありません! 騎士団の方々の訓練も見せていただけましたし、ヒルダ様のかわいいお庭でお茶会もしました。それに、図鑑でしか見た事のなかった植物をこの目で見る事ができましたわ!」


 私が勢いよく言いきった事に驚かれたのか目をぱちぱちと瞬かせてから、また可笑しそうに笑っておられる。


「それならば良かったです」

「は、はい。そういえばフェルン様のお帰りは三日後とお聞きしておりましたが……」

「ええ、アマリア嬢がフェルンに来ておられると聞き、予定を早めて戻って来ました」

「そ、そうなのですね」


 それは、私のために早く帰ってきたと聞こえるのですが気のせいですね。赤くなる頬を片手でおさえて隠し、何をしゃべればいいのだろうと考える。自然と会話が出てくればいいのに、どうすればいいのだろう。フェルン様の顔が見られなくて俯けば、横に流れた髪をすっと耳にかけられて――。

 触れた指に耳が熱くなり、きっと顔どころか全身が真っ赤なのではないだろうか。すでに私は限界突破しそうな勢いなのだが、それがまた可笑しかったのだろう。


「す、すまない。髪が、乱れていたから、つい……」

「謝るか笑うかどちらかにしてくださいませ……」

「ふ、はっ」


 静かだった図書館にはフェルン様の楽しそうな笑い声が響いていた。



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