第四話 総合評価上昇
洋食屋では、食後に連絡先を交換した。
彼女が会社へ戻り、僕は家に帰った。その日のうちに、今日はありがとうございました、とメールを送った。またご一緒しましょう、と返事が来た。
それ以上のやり取りはしなかった。
土日を挟んで月曜日になると、定食屋はいつものように営業していた。僕はからあげ定食を頼み、食後のコーヒーを飲んだが、彼女は来なかった。
毎日来ていたわけではない。仕事の都合で昼休みがずれたのかもしれないし、別の店で食べたかったのかもしれない。
ただ、あの日から、僕のレビューを読む時間は十分にあっただろう。
洋食屋では、楽しく話せたと思っている。彼女もよく笑っていた。それでも、元妻の文章を読んだあとでは、印象が変わることもあるだろう。
またご一緒しましょう、という返事も、レビューを読む前と読んだあとでは意味が違う。
メールを読み返したが、どちらなのかはわからなかった。
そんなことを考えていたところに、友人から飲み会の誘いが来た。女性も何人か来るので、よかったらどうかという話だった。
家にいても仕事と余計な考え事をするだけなので、参加することにした。
当日は、駅前の居酒屋に男女三人ずつが集まった。
友人以外は初対面だったが、仕事や住んでいる場所の話をしているうちに、会話に入りやすくなった。女性たちも気さくで、僕の話にも耳を傾けてくれた。
酒が進んだころ、友人が僕の離婚について話した。
「こいつ、離婚したばっかなんだよ」
隠し通すつもりはなかったが、いつ話すかくらいは自分で決めたかった。
いつ結婚したのか、どれくらい一緒にいたのかと聞かれ、学生時代から八年つきあい、結婚生活は二年だったと答えた。
そのあいだに、友人は僕のレビューを開いていた。
女性の一人にスマートフォンを渡すと、そこから順番に回っていった。元妻の投稿だけでなく、僕の返信まで読まれている。
僕は隣で料理を取り分けながら、自分についての感想が出るのを待つことになった。
「でも、八年つきあって結婚したんでしょ。ちゃんとしてると思うけどな」
最初に画面を見た女性が言った。
ほかの二人も、長くつきあった相手と結婚したことには好意的だった。返信の内容が理屈っぽいとは言われたが、僕の説明にうなずく人もいた。
元妻の不満がわかるという意見もあった。それでも、あのレビューだけで僕を嫌う人はいないようだった。
ようやく、落ち着いて酒を飲めるようになった。
すると友人が、
「だから返信はやめろって言ったんだよ」
と、呆れたように言った。さらに、言い返したい気持ちは抑え、まずは相手を傷つけたことについて謝るべきだったと付け加えた。
自分で僕のレビューを広めておきながら、ずいぶん親切な助言だった。
「確かに、お前に聞くべきだったな。元カノに謝って、星を三つにしてもらったことがあるもんな」
調子よく酒を飲んでいた友人の手が止まった。
女性たちが事情を聞きたがったので、僕は説明した。
友人は以前、浮気がばれて星一つをつけられている。本文にも、浮気がばれるまでの経緯が詳しく書かれていた。その後、彼は相手の女性に何度も謝り、頼み込み、なんとか本文を消してもらった。星も三つに変わったので、今のページを見ても何があったのかはわからない。
友人は、ずいぶん前のことだと弁明した。
僕も離婚したのは今日ではないと答えた。
そこでようやく、互いの過去を話すのはやめようということになった。
それからは、旅行や食べ物の話をした。
隣に座っていた女性とは、好きな店の話が合った。僕のレビューを最初に読んで、長くつきあったのは誠実だと言ってくれた人だった。
彼女とは二軒目でも隣になった。
話していると時間を忘れ、どちらも終電を逃した。店を出たところで、僕から、もう少し一緒にいましょうかと誘った。彼女も、それに応じた。
その夜は、二人で過ごした。
翌朝、駅で別れるときには、また会いたいと思っていた。彼女も笑顔で手を振ってくれたので、悪い印象ではなかったと感じた。
久しぶりに、いい夜だった。
帰宅してから、昨日はありがとう、とメールを送った。こちらこそ、と返事が来て、そのあとに、新しいレビューがついていることに気づいた。
星は三つだった。
匿名希望|交際期間:なし
【誠実で丁寧な方でした。】
★★★☆☆
お話ししやすく、こちらにも気を遣ってくれる方です。落ち着いて過ごせました。帰りも駅まで送っていただき、ありがとうございました。
短い文章を、何度か読んだ。
悪いことは書かれていなかった。気を遣ったことも伝わっているし、落ち着いて過ごせたのなら、よかったのだろう。
ただ、楽しかったとは書かれていなかった。
また会いたいとも、書かれていなかった。
もちろん、レビューにすべてを書く必要はない。文章にないことを理由に、相手の気持ちを決めつけるべきではなかった。
まだ一晩しか一緒に過ごしていないので、慎重につけた評価なのかもしれない。
おかげで、元妻の星一つと合わせて、僕の総合評価は二つになっていた。
数字は上がった。
悪いことも書かれていない。
それでも、四つくらいはあってもよかったのではないかと思った。
楽しかった気分は、そこでなくなった。




