↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

第四話 総合評価上昇

 洋食屋では、食後に連絡先を交換した。


 彼女が会社へ戻り、僕は家に帰った。その日のうちに、今日はありがとうございました、とメールを送った。またご一緒しましょう、と返事が来た。


 それ以上のやり取りはしなかった。


 土日を挟んで月曜日になると、定食屋はいつものように営業していた。僕はからあげ定食を頼み、食後のコーヒーを飲んだが、彼女は来なかった。


 毎日来ていたわけではない。仕事の都合で昼休みがずれたのかもしれないし、別の店で食べたかったのかもしれない。


 ただ、あの日から、僕のレビューを読む時間は十分にあっただろう。


 洋食屋では、楽しく話せたと思っている。彼女もよく笑っていた。それでも、元妻の文章を読んだあとでは、印象が変わることもあるだろう。


 またご一緒しましょう、という返事も、レビューを読む前と読んだあとでは意味が違う。


 メールを読み返したが、どちらなのかはわからなかった。


 そんなことを考えていたところに、友人から飲み会の誘いが来た。女性も何人か来るので、よかったらどうかという話だった。


 家にいても仕事と余計な考え事をするだけなので、参加することにした。


 当日は、駅前の居酒屋に男女三人ずつが集まった。


 友人以外は初対面だったが、仕事や住んでいる場所の話をしているうちに、会話に入りやすくなった。女性たちも気さくで、僕の話にも耳を傾けてくれた。


 酒が進んだころ、友人が僕の離婚について話した。


「こいつ、離婚したばっかなんだよ」


 隠し通すつもりはなかったが、いつ話すかくらいは自分で決めたかった。


 いつ結婚したのか、どれくらい一緒にいたのかと聞かれ、学生時代から八年つきあい、結婚生活は二年だったと答えた。


 そのあいだに、友人は僕のレビューを開いていた。


 女性の一人にスマートフォンを渡すと、そこから順番に回っていった。元妻の投稿だけでなく、僕の返信まで読まれている。


 僕は隣で料理を取り分けながら、自分についての感想が出るのを待つことになった。


「でも、八年つきあって結婚したんでしょ。ちゃんとしてると思うけどな」


 最初に画面を見た女性が言った。


 ほかの二人も、長くつきあった相手と結婚したことには好意的だった。返信の内容が理屈っぽいとは言われたが、僕の説明にうなずく人もいた。


 元妻の不満がわかるという意見もあった。それでも、あのレビューだけで僕を嫌う人はいないようだった。


 ようやく、落ち着いて酒を飲めるようになった。


 すると友人が、


「だから返信はやめろって言ったんだよ」


 と、呆れたように言った。さらに、言い返したい気持ちは抑え、まずは相手を傷つけたことについて謝るべきだったと付け加えた。


 自分で僕のレビューを広めておきながら、ずいぶん親切な助言だった。


「確かに、お前に聞くべきだったな。元カノに謝って、星を三つにしてもらったことがあるもんな」


 調子よく酒を飲んでいた友人の手が止まった。


 女性たちが事情を聞きたがったので、僕は説明した。


 友人は以前、浮気がばれて星一つをつけられている。本文にも、浮気がばれるまでの経緯が詳しく書かれていた。その後、彼は相手の女性に何度も謝り、頼み込み、なんとか本文を消してもらった。星も三つに変わったので、今のページを見ても何があったのかはわからない。


 友人は、ずいぶん前のことだと弁明した。


 僕も離婚したのは今日ではないと答えた。


 そこでようやく、互いの過去を話すのはやめようということになった。


 それからは、旅行や食べ物の話をした。


 隣に座っていた女性とは、好きな店の話が合った。僕のレビューを最初に読んで、長くつきあったのは誠実だと言ってくれた人だった。


 彼女とは二軒目でも隣になった。


 話していると時間を忘れ、どちらも終電を逃した。店を出たところで、僕から、もう少し一緒にいましょうかと誘った。彼女も、それに応じた。


 その夜は、二人で過ごした。


 翌朝、駅で別れるときには、また会いたいと思っていた。彼女も笑顔で手を振ってくれたので、悪い印象ではなかったと感じた。


 久しぶりに、いい夜だった。


 帰宅してから、昨日はありがとう、とメールを送った。こちらこそ、と返事が来て、そのあとに、新しいレビューがついていることに気づいた。


 星は三つだった。


 

匿名希望|交際期間:なし

【誠実で丁寧な方でした。】

★★★☆☆


 お話ししやすく、こちらにも気を遣ってくれる方です。落ち着いて過ごせました。帰りも駅まで送っていただき、ありがとうございました。


 

 短い文章を、何度か読んだ。


 悪いことは書かれていなかった。気を遣ったことも伝わっているし、落ち着いて過ごせたのなら、よかったのだろう。


 ただ、楽しかったとは書かれていなかった。


 また会いたいとも、書かれていなかった。


 もちろん、レビューにすべてを書く必要はない。文章にないことを理由に、相手の気持ちを決めつけるべきではなかった。


 まだ一晩しか一緒に過ごしていないので、慎重につけた評価なのかもしれない。


 おかげで、元妻の星一つと合わせて、僕の総合評価は二つになっていた。


 数字は上がった。


 悪いことも書かれていない。


 それでも、四つくらいはあってもよかったのではないかと思った。


 楽しかった気分は、そこでなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。