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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
黄昏の宅配便(トワイライトデリバリー)編

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第三話「ハイウェイ・スター・ダスト」3

第三章 流星の斬撃


 深夜のドラゴンラインは、三つの異なるベクトルが交錯する混沌の戦場と化していた。 制御を失い、蛇行しながら暴走する巨大トレーラー。 それを上空から包囲し、無機質な殺意を降り注ぐアークステイツの特務部隊。 そして、その死の弾幕を縫うようにして飛翔する、一羽の黒い鳥。


「キリコ! 奴らの死角を教えろ!」


 ジン(夜刃迅)の叫びが、雨音を引き裂く。彼は空中機動でプラズマ弾を回避しながら、決定的な一撃を叩き込む好機(タイミング)を計っていた。だが、敵の防御は堅い。 六機のパワードスーツが織りなす連携は、システムによって統率された完璧な要塞だ。


「了解! ……リンクするわ、ジン!」


 並走するバイクの上から、キリコ(九十九霧狐)の声がジンの脳髄に直接響いた。彼女の『千里眼(狐の窓)』が捉えた視覚情報が、妖術によって共有される。


 ジンの視界に、光のグリッドが走った。 雨粒の向こう側。 装甲の厚み、エネルギーの流れ、敵兵の視線誘導、そして風のゆらぎ。 すべてが数値化され、一本の「線」となって浮かび上がる。


「……3時の方向、装甲の継ぎ目! そこが動力源(リアクター)の冷却孔よ!」


「見えたッ!」


 ジンは、バイクのシートを蹴り砕く勢いで飛翔した。雨粒を弾き飛ばし、音速に迫る加速。黒い翼が、大気を切り裂く鋭利な音を奏でる。


「Target Lock(目標ロック)。……撃て!」


 アークステイツの隊長機が反応する。 全機が一斉に銃口をジンに向け、青い閃光が夜のハイウェイを埋め尽くす。 逃げ場のない光の檻。 だが、今のジンには「視えて」いた。


 キリコの目が捉えた、弾幕のわずかな綻び。0.1秒後に開く、針の穴のような死角。


「堕ちろォッ!!」


 ジンは翼を畳み、螺旋回転しながら光の網をすり抜けた。固有能力『堕天の斬撃(フォールン・エッジ)』。 回転の遠心力と、翼の硬度、そして落下の運動エネルギーを一点に収束させる、必殺の特攻。


 夜空に、黒い三日月が描かれた。


 狙いは、敵兵ではない。 この暴走を止めるための、唯一の急所。 トレーラーのヘッドとコンテナを繋ぐ、連結器(カプラー)。


 ガギィィィン!!


 金属音が絶叫に変わる。 火花が花火のように散った。 特殊合金で鋳造された鋼鉄の連結器が、バターのように滑らかに切断されたのだ。


「Separation confirmed(分離確認)。……馬鹿な」


 隊長機の驚愕の声。ヘッド部分だけが加速し、切り離されたコンテナ部分は慣性の法則に従って滑り始める。制御を失った巨大な鉄の箱は、バランスを崩し、スローモーションのように傾いていく。


 ズザザザザザザッ!!


 コンテナが横転した。 アスファルトを削り取り、激しい火花を散らしながら、ガードレールに激突する。その衝撃に巻き込まれ、低空を飛行していたアークステイツの二機がバランスを崩し、クラッシュした。


「Damage report(被害報告)! ……くっ、回収不能か」


 隊長機が、横転し炎上するコンテナを冷徹に見下ろした。 積荷は衝撃で破損し、路上に散乱している。これ以上の戦闘は、機密保持の観点からリスクが高い。


「Mission Abort(任務中止)。……撤退する」


 アークステイツの部隊は、即座にスモークを焚き、夜闇へと溶けるように離脱していった。 深追いはしない。彼らにとって、これは数ある任務の一つに過ぎないからだ。 だが、彼らは刻み込まれたはずだ。 この極東の島国には、彼らの理屈が通じない「守護者」がいることを。


 静寂が戻ったハイウェイ。 横転したコンテナの周囲には、異様な光景が広がっていた。


 衝撃でハッチがひしゃげ、中から積荷が雪崩のように放り出されていた。割れたジュラルミンケース。 そこから溢れ出したのは、数千個の青く発光するカプセルだった。 「キャッツアイ」。 雨に濡れた路面で、それらは星屑のように、あるいは深海の如く妖しく輝いている。美しい。だが、その輝きは、人の魂を蝕む毒の光だ。


 ジンは、翼を収めながらその中心に着地した。 カツン、というブーツの音。


「……気持ち悪ぃ光だ」


 彼は足元のカプセルを一つ、拾い上げることもなく踏みつけた。


 プチッ。


 嫌な音がして、カプセルが潰れる。 中から、青い粉末ではなく、ドロリとした「黒い泥」が溢れ出した。 それは生き物のようにアスファルトの上を這い、ジンの靴底を侵食しようとする。 魔界の残滓。 この世界に対する、悪意ある侵略者。


 だが。


 ジュッ……。


 泥は、アスファルトに触れた瞬間、白い煙を上げて蒸発した。 この世界(こちら側)の物理法則下では、核となるケースを失った魔界の物質は、存在を維持できないのだ。 泥は苦悶するように泡立ち、そして消滅した。


「……へっ。勿体ねえ」


 ジンは、雨に濡れた髪をかき上げながら、次々とカプセルを踏み潰していった。 プチッ、プチッ、ジュッ。 リズミカルな破壊音と共に、青い光が消え、黒い泥が蒸発していく。


「全部売り捌けば、バイクの修理費くらい出たのにな」


 軽口を叩くジンの横に、キリコがバイクを停めた。彼女はヘルメットを脱ぎ、雨に打たれるまま、その光景を見つめた。


「馬鹿ね。……こんな危ないもの、換金できるわけないでしょ」


「わかってるよ。……冗談だ」


 ジンは最後の一つを踏み潰し、大きく息を吐いた。 数億円の価値があるドラッグの山が、ただの染みとなって消えた。


「……終わってないのね」


 キリコが、夜空を見上げて呟く。


「10年前に消えたはずの『負の遺産』。……それがまだ、世界の裏側で燻っている」


「ああ。……掃除しがいがあるってもんだ」


 雨が上がった。分厚い雲の切れ間から、月が顔を出す。 月光に照らされたハイウェイは、先ほどまでの戦場が嘘のように静まり返っていた。 砕けたカプセルの破片だけが、星屑の残骸のようにキラキラと輝いている。


 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。 表の世界の秩序が、遅れてやってくる。


「帰るわよ、ジン。……警察が来るわ」


「へいへい。……腹減ったな。今夜は焼肉だな」


「大盛りでね。……領収書は切れないけど」


 銀狐と黒翼。 二人はバイクに跨り、エンジンを吹かした。サイレンの赤い光が近づいてくる中、二人はハイウェイを逆走し、ビルの谷間の闇へと消えていった。


 その背中は、かつてこの街を駆け抜け、誰にも知られずに世界を救った伝説の魔女たちに、少しだけ似ていた。新しい世代の運び屋たちの夜は、まだ始まったばかりだ。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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