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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
黄昏の宅配便(トワイライトデリバリー)編

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第三話「ハイウェイ・スター・ダスト」1

第一章 ミッドナイト・チェイス


 丑三つ時。皇国首都・東帝都を東西に貫く大動脈、ドラゴンライン。 上空を覆う分厚い雲から降り注ぐ酸性雨が、都市のネオンを滲ませ、濡れたアスファルトを極彩色に輝く「光の川」へと変えていた。深夜の静寂など、ここにはない。 あるのは、タイヤが水を弾く音と、風を切り裂く轟音だけ。


 その光の川を、一筋の黒い雷が疾走していた。


「ヒャッハァー! 振り落とされんじゃねえぞ、キリコ!」


 ジン(夜刃迅)が、風圧に負けない大声で叫んだ。 彼が跨っているのは、スクラップ置き場の部品で違法改造された大型バイク『黒狐号』。 剥き出しのエンジンが悲鳴のような駆動音を上げ、マフラーからは青白いアフターファイアが噴き出している。ジンは黒いライダースジャケットに身を包み、前傾姿勢で車体と一体化し、スロットルを限界まで回していた。 メーターの針は、とうにレッドゾーンを超え、時速200キロという狂気的な領域を指している。


「うるさいわね! ……舌噛むから黙って運転して!」


 タンデムシートにしがみついているのは、キリコ(九十九霧狐)だ。 銀髪を風になびかせ、パーカーのフードから覗く白い狐耳をピコピコと忙しなく動かしながら、彼女はゴーグル越しに前方を解析している。 その表情は冷静だが、爪がジンのジャケットに食い込むほど強く握られているのが、速度への本能的な恐怖を物語っていた。


「距離、800メートル! ……捕捉したわ、あのデカブツよ!」


 キリコが指差す先。 雨のカーテンの向こうに、無骨な装甲に覆われた大型トレーラーのテールランプが、不吉な赤い眼光のように浮かび上がった。車線変更を繰り返し、一般車両を容赦なく蹴散らしながら暴走する黒い影。 それは単なる輸送車両ではない。公道を走る要塞だ。


 今回の依頼は、このトレーラーの「積荷」の奪取、および指定場所への配送。 依頼主は不明。ダークウェブの深層、通称「奈落掲示板(アビス・スレッド)」経由で舞い込んだ、出所不明の高額案件だ。


「積荷のデータ照合完了。……コードネーム『キャッツアイ』。成分分析の結果、かつてこの街を狂わせた『青い涙(ブル・ティアーズ)』の劣化コピーと判明」


 キリコがインカム越しに伝える声には、明らかな嫌悪感が滲んでいた。『白紙の審判(ホワイトデイ)』で消滅したはずの負の遺産。 あの悲劇の記憶を弄ぶかのように、何者かがその技術を再現し、裏ルートで流通させようとしているのだ。


「劣化コピーだァ? ……気に食わねえな」


 ジンがさらにアクセルを回す。 エンジンが咆哮し、バイクが弾丸のように加速する。強烈なGが、二人の体をシートに押し付ける。


「10年前の悪夢を、安っぽい模造品で再現しようなんて……。偽物の分際で、俺たちの街を汚すんじゃねえ!」


 ジンの瞳に、ドス黒い怒りの炎が宿る。 彼は知っている。あの「青い涙」が、どれほどの悲劇を生み、どれほどの命を狂わせたか。それを商売道具にする輩を、彼は生理的に許せなかった。


 トレーラーとの距離が一気に縮まる。 テールランプの赤が、視界いっぱいに広がる。


 その時。 トレーラーの後部ハッチが、ガコンという重い金属音と共に開いた。中から現れたのは、積荷の段ボールではない。 暗闇の奥で鈍く光る、無数の銃口だった。


「排除シマス。……排除シマス」


 合成音声の警告。 搭載されていたのは、自動照準のガトリングガンと、全身を機械化した薬物強化兵士(サイボーグ)たち。 彼らの眼球は取り払われ、ターゲットを捕捉するための赤いセンサーが埋め込まれている。


「撃てッ!!」


 無機質な命令と共に、マズルフラッシュが夜闇を焦がす。


 ダダダダダダダダッ!!


「チッ、歓迎が派手だな!」


 弾幕が豪雨のように降り注ぐ。 普通なら蜂の巣にされる状況。 だが、ジンの操縦は神業の領域にあった。


 彼は車体を極限まで傾け、アスファルトに膝を擦り火花を散らしながら、弾丸の雨を紙一重ですり抜けていく。右へ、左へ。 予測不能なジグザグ走行。 サイドミラーが弾け飛び、カウルが削り取られるが、心臓部であるエンジンと搭乗者には掠りもしない。


「右よ、ジン! 30度!」


「あいよ!」


 キリコが、両手でキツネの形を作り、その窓から戦況を覗き込む。『千里眼(狐の窓)』。 彼女の視界には、弾道の軌跡、敵の照準予測、そして風の流れまでもが、光のラインとなって可視化されている。彼女が導き出した「生存ルート」を、ジンが反射神経だけでトレースする。 完璧なコンビネーション。 二人は一発の被弾も許さず、死の雨をかいくぐり、トレーラーの側面――射角の死角へと滑り込んだ。


 並走状態。巨大なタイヤが泥水を跳ね上げ、バイクを押しつぶそうと幅寄せしてくる。


「キリコ! 運転代われ!」


「えぇっ!? ここで!? 無茶言わないでよ!」


「やるんだよ! ……俺が道を開ける!」


 ジンは、走行中のバイクのステップに立ち上がった。時速200キロの風圧が、彼の体を後方へと引き剥がそうとする。だが、彼は体幹だけでバランスを保ち、頭上のトレーラーの屋根を見上げた。


「……飛ぶぞ」


 ジンは、バイクのタンクを蹴って跳躍した。反動で揺れる車体を、キリコが慌ててハンドルを握りしめて制御する。


「もうっ! ……後で追加料金請求してやるんだから!」


 空中へ躍り出たジン。 雨粒がスローモーションのように見える世界で、彼は背中の筋肉を隆起させた。着ていたライダースジャケットが、内側からの圧力で裂ける。


 バサァッ!!


 漆黒の翼が展開された。それは鳥の羽ばたきではない。 無数の鋼鉄の刃が重なり合い、擦れ合う、冷たく鋭利な金属音。 かつて天使であった一族が、地上に堕ちる際に変質した、罪と罰の翼。


「重力なんて……クソ食らえだ!」


 ジンは空中で回転し、翼を巨大なブレードに変えて落下した。 全身を回転ノコギリのように変える、必殺の特攻。


『堕天の斬撃(フォールン・エッジ)』。


 ズバンッ!!


 一閃。トレーラーの屋根に設置されていた砲台が、豆腐のように切断された。銃身が滑り落ち、内部回路が誘爆を起こす。爆炎と破片の中を、黒き堕天使が舞い降りる。


 ダンッ!


 ジンは、燃え盛るトレーラーのコンテナの上に着地した。鉤爪のように変形させたブーツを鉄板に突き立て、身体を固定する。 雨と炎に照らされたその姿は、夜の街に現れた死神そのものだった。


「さて……。中身を拝ませてもらおうか」


 ジンは、翼を畳み、コンテナの天井装甲に手をかけた。 ここから先は、さらに危険な領域。 だが、彼の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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