第二十話「境界を越える翼」1
第一章 暴走する数式
「これが……チャンスかもしれない」
キリコ(九十九霧狐)の呟きは、轟音にかき消されることなく、その場にいる全員の鼓膜に届いた。彼女は、懐から天帝・昊天から託された『漆塗りの小箱』を取り出す。 同時に、エミル・ノスフェラトゥも意図を察し、懐に抱いた『次元の鏡の核』を掲げた。
「……賭けるってのか、キリコ」
「ええ。この暴走エネルギー……利用しない手はないわ!」
崩壊する世界。開かれた次元の穴。 それは、世界を飲み込む傷跡であると同時に、膨大なエネルギーの噴出孔でもあった。通常なら制御不可能なその濁流に、確かな「道標」と「座標」を打ち込めば――。
カァァァァッ!!
二つの遺物が、暴走するエネルギーの奔流に呼応した。小箱の蓋がひとりでに開き、中から透き通るような純白の光が溢れ出す。 『白彼岸花』。 並行世界への道標となるアンカーが、加速器の生み出す無秩序なエネルギーの渦と共鳴し、その濁流を一つの「道」へと編み上げていく。
黒い亀裂が、白く輝く円環へと安定していく。 その中心に、景色が映った。
「……繋がった」
キリコが『千里眼(狐の窓)』を作り、光の渦の向こう側を捉える。そこに見えるのは、懐かしくも遠い、あの平和な「東京」の空。 街の匂いさえ、時空を超えて漂ってくるようだった。
「馬鹿な……! 暴走係数を逆算して、ゲートを固定したというのか!?」
コンソールに張り付いていた醍醐 京一が、驚愕の声を上げた。 モニターの数値は、物理法則の限界を遥かに超えているが、奇跡的なバランスで均衡を保っている。
「ゲートが開いたぞ! ……だが、持っても数分だ! エネルギー供給が途切れれば、即座に霧散する!」
ダイゴが叫ぶ。装置は限界だ。パイプからは蒸気が噴き出し、魔術回路が焼き切れる寸前でスパークしている。 今、この瞬間しかチャンスはない。
「行くぞ、キリコ!」
ジン(夜刃迅)が、回収したばかりの『黒胎』の封印ケースを背負い直し、漆黒の翼を広げた。その瞳は、既に向こう側の世界を見据えている。
「待ってください!」
エミルが叫び、前に出ようとする。彼の瞳には、焦燥と、そして灯たちへの思慕が揺れていた。 彼もまた、行きたいのだ。10年前に自分を変えてくれた恩人たちに、もう一度会うために。
だが、ダイゴがそれを制した。
「全員では行けん! ……ゲートを安定させるには、外部から莫大なエネルギーを供給し続けなければならない!」
ダイゴは、操作盤を叩きながら告げた。加速器は暴走状態にある。 誰かがこちら側に残り、装置の人柱となって魔力を注ぎ込み続けなければ、ゲートは瞬時に消滅し、飛び込んだ者は次元の狭間で永遠に彷徨うことになる。
「……僕が、残ります」
エミルが、足を止めた。彼は、握りしめた拳を開き、そして寂しげに、けれど王としての誇りを持って微笑んだ。
「エミル……?」
「君の空間支配能力で、ゲートの縁を固定してくれ。……君にしかできない」
ダイゴの言葉に、エミルは深く頷いた。
「……わかりました。父様の遺産を、無駄にはしません」
彼は悔しげに唇を噛んだが、すぐに覚悟を決めて祭壇に立った。 全身から魔力を放出し、揺らぐ次元の穴を縫い止める。
「俺たちもやる」
チャーリー・Sが、ボロボロのアロハシャツを脱ぎ捨てた。その背中の刺青が、青白く輝く。
「水浸しにして、冷却してやるよ。……熱くなりすぎだぜ、この機械は」
隣には、炎を纏った李 小蓮と、聖なる光を湛えたルカ・ノクスが並ぶ。神獣と、神の末裔。 彼らの魔力ならば、この暴走装置をねじ伏せられる。
「私も手伝うよ! ……お姉ちゃんたちによろしくね!」
「私も……祈ります。道が、閉ざされぬように」
シャオが炎でエネルギーを循環させ、ルカが光で装置の崩壊を食い止める。 全員が、文字通り「命を削って」道を作っている。
「行けるのは……三人だけだ」
ダイゴの視線が、残された三人の影に向けられる。
ジン、キリコ 、そして、沈 黒燼。
「行ってこい、若いの! ……俺たちの分まで、挨拶してきな!」
チャーリーが叫び、水流の柱を立てて崩落する天井を支えた。
「任せなさい!」
シェンが不敵に笑い、腰の直刀の柄に手をかける。彼女は、くわえていた煙草を指先で弾き飛ばした。
「退屈しのぎには、ちょうどいい遠足ね」
ジンとキリコは頷き合い、光の渦の前に立った。 背後には、命を懸けて道を支える仲間たちがいる。 前には、10年間追い求めた英雄たちがいる。
「……行ってきます!」
三人は地面を蹴り、まばゆい光の中――次元の裂け目へと飛び込んだ。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




