第十八話「摩天楼の亡霊」1
第一章 監視社会の影
アークステイツ連邦、首都ニューアーク。 灰色の雲を突き抜けるように林立する超高層ビル群は、この国が誇る経済と技術の象徴であり、同時に冷徹な管理社会の墓標のようでもあった。 その谷間を縫うように、無数のエアカーと監視ドローンが、規則正しく、音もなく行き交っている。ここでは、魔法や霊力といった曖昧なものは徹底的に排除され、科学という名の「光」で全てが照らし出され、管理されていた。
その街の片隅。 郊外の廃棄された滑走路に、ステルス機能を解除した漆黒の輸送機が音もなく着陸した。 タラップから降り立ったのは、キリコ(九十九霧狐)たち一行、総勢7名。
彼らは目立つ武装を隠し、現地の風景に溶け込む偽装を行っていた。ルカ・ノクスとエミル・ノスフェラトゥは、仕立ての良いスーツを着た若きビジネスマン風に。 李 小蓮は、派手なブランド品を身につけた観光客を装い、サングラス越しに周囲を警戒している。そして、キリコ、ジン(夜刃迅)、沈 黒燼、チャーリー・Sの四人は、現地の裏社会に馴染むようなラフなストリートファッションに身を包んでいた。
「……息苦しい街ね。視線が痛い」
キリコが、サングラス越しに街頭の監視カメラを睨みつけた。彼女の『千里眼(狐の窓)』には、街全体が巨大なシステムの一部として機能している様子が見て取れた。 信号機、街灯、さらには通行人のスマートデバイスまでが、全て一つのネットワークに接続され、異分子を監視している。
「これじゃあ、うかつに動けないわね。……コンビニでおにぎり買うのも一苦労よ」
「文句言うな。……まずは情報の裏取りだ」
ジンがパーカーのフードを被り直す。彼らの目的は、地下深くに隠された機密施設『エリア666』の場所を特定することだ。だが、ネット上の地図や公的な記録には、そんな場所は存在しないことになっている。
「任せな。……水のある場所なら、俺の庭だ」
チャーリーが、ニカっと笑って指を鳴らした。 彼は一行から離れ、路地裏へと姿を消した。
チャーリーは、人気の少ない路地裏に入ると、足元のマンホールの蓋に手をかざした。 彼の背中にある玄武の刺青が、服の下で淡く発光する。
「さて……。この街の『血管』を診察してやるとするか」
彼は指先から魔力を流し込み、地下水道を流れる汚水とリンクした。 水は記憶媒体だ。 都市の地下を巡る膨大な水流は、その街の構造、エネルギーの流れ、そして「隠されている空間」の反響音を記憶している。
チャーリーの意識が拡張する。 ニューアークの地下深くに張り巡らされた配管図が、脳内に立体的に浮かび上がる。上水道、下水道、地下鉄のトンネル、共同溝。 それらのネットワークの中に、不自然に水流が途切れ、迂回している「空白地帯」があるはずだ。
「……見つけたぜ」
数十分後。 チャーリーは額の汗を拭い、ニヤリと笑った。通常の都市機能からは完全に隔離された、冷却水だけが大量に吸い込まれていく区画。 そこには、地図にはない巨大な空洞が存在している。
一方、別の場所では。 エミルとルカが、市立図書館の端末に向かっていた。
「……ありました、エミルさん。過去の都市計画データです」
ルカが小声で囁く。彼女がハッキング(物理的な魔術干渉によるロック解除)した端末には、50年前に破棄されたはずの地下シェルター建設計画の図面が表示されていた。
「なるほど。……表向きは中止になった計画を、裏で拡張して利用しているんですね」
エミルがデータを素早く解析し、記録媒体にコピーする。
「……行きましょう。長居は無用です」
二人は警備ドローンの巡回をやり過ごし、図書館を後にした。
数時間後。廃ビルのセーフハウス。 全員が集まり、持ち寄った情報を共有していた。 埃っぽい部屋の中、テーブル代わりの木箱に地図が広げられている。
「……ビンゴだ」
チャーリーが、地図の一点を赤ペンで塗りつぶした。ニューアークの中心部、広大なセントラル・パークの地下深層。表向きは地下鉄の廃線となっているエリアだが、そこだけ異常な熱源反応と、水脈が不自然に迂回している箇所がある。
「地下水がこの区画だけ避けて通ってやがる。……強力な結界か、あるいは物理的な装甲で遮断されてる証拠だ」
「都市伝説通りね」
シェンが、窓辺で紫煙を吐き出しながら口を挟む。
「『マンホールの下には政府の秘密基地がある』……。ベタだけど、隠すにはおあつらえ向きの場所よ」
「そこね」
キリコが両手で狐の窓を作った。 『千里眼』発動。彼女の視線が床を突き抜け、分厚いコンクリートと岩盤を透かし、地下数百メートルを覗き込む。 視界のノイズをかき分け、焦点が合う。
そこには、地図にはない巨大な空洞と、厳重なセキュリティゲート、そして蠢く黒い影が見えた。無数の研究員が行き交い、中央には不気味に脈動する巨大なリング状の装置が鎮座している。
『エリア666』。
世界中から集められたロストテクノロジーと、危険なアーティファクトが収容されている、アークステイツ最大の禁忌。 そして、その最奥部には、白衣を着た二人の科学者の姿があった。
「……いたわ」
キリコが狐の窓を解き、確信を込めて告げた。
「間違いないわ。……ドクター・ダイゴと、私たちの『届け先』はそこにいる」
「よし。……決まりだな」
ジンが、隠していたナイフを懐にしまい、立ち上がった。 その瞳には、かつてないほどの決意が宿っていた。敵の本拠地。 罠が待ち受けていることは百も承知だ。
「行くぞ。……コソコソするのは性に合わねえ。正面からノックしてやる」
「賛成! ……派手にいこ!」 シャオが拳を鳴らす。
深夜。 都市機能が眠りにつく時間帯を狙い、一行は地下鉄のメンテナンス用通路へと侵入した。 湿った風が吹き抜ける、広大な地下トンネル。足音を忍ばせ、最深部を目指す。
「……ここが、入り口か」
通路の突き当たり。 巨大な隔壁がそびえ立っていた。虹彩認証と生体スキャンで守られた、絶対的な拒絶の壁。
「鷹宮さんのハッキングツールを使えば、開けられるはず……」
ルカが端末を取り出そうとした、その時。
「……待て」
ジンが鋭い声で制止した。 彼の背中の翼が、ざわりと波打つ。
「……誰かいる」
空間が、陽炎のように揺らいだ。 何もないはずの虚空から、ノイズのような電子音が響く。
「Welcome back、運び屋」
光学迷彩が解除される。 現れたのは、マットブラックの強化外骨格に身を包んだ、因縁の亡霊たち。
国家秘密部局『ゴーストライン』。
中央に立つ隊長イーヴォ・ハーケン。 振動剣を構えるガブリエル・ストラド。 無数のドローンを展開するカイ・マーデン。 そして、彼らをバックアップする数十名の精鋭部隊が、完全武装で待ち構えていた。 彼らは、侵入者がここに来ることを予測し、万全の態勢で迎撃の網を張っていたのだ。
「ここが貴様らの墓場だ。……その荷物と命、置いていってもらう」
イーヴォが、冷徹に告げる。問答無用。総力戦の構え。 逃げ場のない地下通路で、殺意が飽和する。
「……上等だ」
ジンが前に出る。 背中の服が裂け、漆黒の翼が展開される。その翼は、以前戦った時よりも大きく、鋭く、そして禍々しく進化していた。
「墓穴なら、テメェらの分も掘ってやるよ!」
「総員、戦闘開始!」
キリコの号令と共に、7人の異能者と、最強の特殊部隊が激突した。地下の暗闇で、火花が散った。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




