第十六話「朱き鳥のわがままと東への帰還」3
第三章 七人の運び屋
魔都・虹海の港湾地区。 極彩色のネオンが海面に揺らめき、油の浮いた黒い波が岸壁を叩く音だけが響く深夜の埠頭。 そこに、異様な集団が並び立っていた。
海風が吹き抜けるたび、彼らの纏う空気が触れ合い、火花のようなプレッシャーを散らす。 それは、常人が近づけば肌が粟立ち、本能的に回れ右をするほどの「濃度」を持っていた。
ジン(夜刃迅)は、腕組みをしてその面々を見渡した。 呆れと、そして隠しきれない頼もしさが入り混じった苦笑が漏れる。
「……とんでもねぇメンツになったな」
まず、このチームの要。 九十九 霧狐。二つ名「銀狐」。 あらゆる隠し事を見通す『千里眼』を持ち、冷静沈着な判断で最短ルートを導き出す、チームの頭脳にしてナビゲーター。
そして、自分。夜刃 迅。二つ名「黒翼」。 堕ちた天使の翼を刃に変え、物理的な障害を両断する主力アタッカー兼ポーター。
チャーリー・S(玄武)。 大陸を守護する四神の一角。水を操り、絶対零度の氷壁を展開する鉄壁の守護神。
ルカ・ノクス。 慈愛神アウレリアの血を引く少女。その光はあらゆる呪いを解き、傷を癒やす究極のヒーラー。同時に、世界を蝕む『黒胎』を鎮める唯一の制御役。
エミル・ノスフェラトゥ。 吸血鬼の宗主にして、ノクタルニアの吸血鬼王。空間支配と結界術に長けた魔術のエキスパートであり、次元を超える鍵『鏡の核』の管理者。
沈 黒燼。 元・黒冠の特級道士。「黒き処刑人」と恐れられた、術式無効化と空間切断の能力を持つジョーカー。
そして最後に、李 小蓮。 四神・朱雀の業火を継承した少女。空を制し、広範囲を焼き払う圧倒的な殲滅火力。
「銀狐と黒翼、吸血鬼の王、神獣、神の末裔、最強の道士、そして不死鳥の少女か……」
ジンは頭を掻きむしった。無茶苦茶だ。 バランスもへったくれもない、過剰戦力の幕の内弁当。 だが、これほど心強い布陣はない。
かつて世界を救った伝説のチーム『リコリス・バロック』。久遠灯、辰巳響、白雪美流愛、鉄鏡花、天羽祈、そして双子たち。あの7人が持っていた「デタラメな強さ」と「危ういバランス」に、今の自分たちは引けを取らないのではないか。 そんな予感が、ジンの胸を熱くさせる。
「ええ。……これなら、どんな壁だってぶち破れるわ」
キリコが、夜風に銀髪をなびかせながら不敵に笑った。その瞳は、既に海の向こう側――東帝都を見据えている。
「行くわよ。……私たちの『配送』は、ここからが本番だわ」
「おーい! 船が来たぞー!」
岸壁の先端で、シャオが手を振った。 闇の向こうから、低いエンジン音と共に一隻の船が姿を現した。
それは、通常の客船でも貨物船でもない。 軍用の強襲揚陸艇を改造し、民間の偽装を施した高速ステルス船だった。チェン爺が裏ルートを駆使し、全財産を叩いて手配した「最速の足」だ。 船体はマットブラックに塗装され、レーダー波を吸収する特殊コーティングが施されている。
「……じっちゃん、奮発したな」
チャーリーが口笛を吹く。この船なら、黒冠の海上封鎖網さえも、速度と隠密性で強引に突破できるだろう。
「乗り込むよ! ……モタモタしてると置いてくよ!」
シャオが、真紅のチャイナ服を翻して先頭を切って甲板に飛び乗った。 彼女の背中には、興奮で実体化しかけている炎の翼が揺らめいている。空を飛んでいくこともできる彼女があえて船に乗るのは、仲間と共に在ることを選んだからだ。
続いて、シェンが煙草を海に投げ捨て、軽い身のこなしで飛び乗る。 エミルがルカの手を取ってエスコートし、チャーリーがドスンと重い音を立てて着地する。 ジンは『鏡の核』が入ったケースを担ぎ、キリコと共にタラップを駆け上がった。
ボオォォォォォン……!!
重厚なエンジン音が唸りを上げ、スクリューが水を噛む。 船が岸壁を離れ始めた。
「……達者でな」
見送りの列にいた陳 幽寂(チェン爺)が、短く呟いた。 その隣には、青いドレスの王 麗琳が立っている。二人の四神は、これ以上彼らについていくことはできない。 虹海を守り、大陸の均衡を保つという、彼らにしかできない役割があるからだ。
「シャオ! ……無理するんじゃないわよ!」
リーリンが叫んだ。風に乗ったその声は、はっきりとシャオの耳に届いた。
「わかってる! ……行ってきます、リーリンお姉ちゃん! じっちゃん!」
シャオが甲板から大きく手を振り返す。 その笑顔は、太陽のように明るく、そして以前よりもずっと大人びて見えた。 巣立ちの時。老いた虎と青き龍は、遠ざかる船影を、夜霧に消えるまで見守り続けていた。
船は、外洋へと出た。 速度を上げ、波を切り裂いて進む。 周囲は完全な闇。 だが、彼らの行く手には、確かな道筋が見えていた。
甲板の最前列。 冷たい潮風を受けながら、キリコは懐を探った。 指先に触れる、二つの感触。 天帝・昊天から託された『漆塗りの小箱』。そして、ノクタルニアの地下から持ち出した『次元の鏡の核』。
全てのピースは揃いつつある。 過去の遺産。神の加護。そして、それを運ぶ最強の仲間たち。あとは、これらを繋ぎ合わせ、機能させるための「方法」を見つけるだけだ。
「待ってろよ、常盤大統領」
ジンが、隣で不敵に笑う。
「……そして、灯さんたち」
キリコが呟く。彼女の脳裏には、精神世界で見た、平和な日常を送る灯たちの姿が焼き付いている。 あそこに辿り着くために。 そして、伝えるために。『ありがとう』と、そして『さようなら』あるいは『おかえり』を。
「……飛ばすわよ」
キリコが船長室へ合図を送る。リミッターが解除され、船がさらなる加速を見せた。水しぶきが翼のように広がる。
東へ。太陽が昇る場所へ。物語は、再び始まりの地――東帝都へと戻っていく。
夜明け前の海を、黒い矢となって船は突き進む。その航跡は、二つの世界を繋ぐ架け橋のように、白く長く伸びていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




