第十六話「朱き鳥のわがままと東への帰還」2
第二章 朱雀の家出
「空路も陸路も塞がれている。……どうやって脱出する?」
リーリンの問いに、重苦しい沈黙が流れた。 東シナ海は、凰華共和国海軍と、黒冠の監視網によって鉄壁の封鎖が敷かれている。 密輸船の手配どころか、漁船一隻出すことすら難しい状況だ。ここまで来て、袋小路か。 ジン(夜刃迅)が焦燥に駆られてテーブルを拳で叩こうとした、その時だった。
「……なら、私が運んであげる!」
突然、元気な声が沈黙を破った。 李 小蓮が、勢いよく立ち上がったのだ。 彼女はテーブルをバンと叩き、身を乗り出してキリコ(九十九霧狐)たちを見つめた。 その瞳は、ルビーのように真っ赤に燃えている。
「朱雀の炎なら、黒冠の船なんてイチコロだよ! ……私が護衛して、海を越えさせてあげる!」
「シャオ……?」
リーリンが驚いて目を見張る。
「ならん」
陳 幽寂(チェン爺)が、即座に首を振った。その声には、保護者としての厳しさと、大陸の守護者としての冷静さがあった。
「お前は四神の一角、朱雀じゃ。虹海を空けるわけにはいかん。……それに、お前の力はまだ完全ではない。暴走すれば、海を火の海に変えかねん」
「やだ! ……私だって行きたいもん!」
シャオが駄々をこね始める。 普段の大人びた振る舞いはどこへやら、年相応の少女のように頬を膨らませ、地団駄を踏む。
「新しい世界線の響お姉ちゃんたちに会いたい! ……10年前、助けてもらったお礼も、まだちゃんと言えてないのに!」
シャオの脳裏に、10年前の光景が蘇る。「雷帝」として暴走させられ、心を失いかけていた自分を、命がけで止めてくれた辰巳響。 「友達だ」と言って笑ってくれた、あの大好きな笑顔。 彼女にとって、響は憧れのお姉ちゃんであり、永遠のヒーローだ。その響が生きているかもしれない世界へ行く旅に、自分だけ置いてけぼりは我慢ならなかった。
「私だけお留守番なんて嫌だ! ……連れてってくれなきゃ、この屋台燃やしちゃうから!」
ボオォォォッ!!
シャオの感情に呼応して、全身から真紅の炎が噴き出した。 店内の温度が一気に上昇し、客たちが悲鳴を上げて逃げ出す。蒸籠の湯気が一瞬で蒸発するほどの熱量。
「……やれやれ。これだから反抗期は困る」
チェン爺が頭を抱え、溜息をつく。孫娘の想いの強さは、誰よりも彼が知っている。 かつて兵器として育てられた彼女が、これほど強く「自分の意志」を主張するようになったこと自体は、喜ばしいことなのだが。
「……行かせてあげなさいな、じっちゃん」
リーリンが、助け舟を出した。 彼女は立ち上がり、燃え盛るシャオの頭を優しく撫でた。風の結界が、炎の熱を和らげる。
「今の虹海は安定しているわ。私とじっちゃんがいれば十分よ」
リーリンは、チェン爺に目配せをし、そして真剣な眼差しでキリコとジンを見た。
「それに……彼女たちの旅は、これからもっと過酷になる。……アヴァベル級の敵が出てくるかもしれないわ」
彼女たちは、10年前の戦いで「世界を滅ぼす力」を目の当たりにしている。 次元を超えるということは、そのレベルの脅威に再び直面する可能性があるということだ。
「キリコ、ジン。……貴方たちの実力は認めるわ。でも、神話級の戦いになれば、どうしても手数が足りない」
リーリンの言葉は的確だった。 キリコの千里眼とジンの斬撃は強力だが、広範囲殲滅や航空戦力としては決定打に欠ける。
「朱雀の火力が必要になる時が、必ず来るわ。……彼女を、連れて行ってあげて」
「リーリンお姉ちゃん……!」
シャオが、瞳を潤ませてリーリンを見上げる。
「フン。……好きにせい」
チェン爺が、折れたようにキセルを置いた。彼はシャオに向き直り、その小さな肩に大きくゴツゴツした手を置いた。
「ただし、約束じゃ」
チェン爺の目が、厳しく、そして温かく光る。
「必ず生きて帰ってこい。……お前は、ワシの自慢の孫娘じゃからな」
「……うん! ……行ってきます、じっちゃん!」
シャオの顔が、太陽のように輝いた。 彼女は涙を拭い、満面の笑みでガッツポーズをした。
「任せて! ……悪い奴らは全員、私が丸焼きにしてあげるから!」
新たな戦力が加わった。 それも、最強クラスの航空火力。 これで、海を越える準備は整った。
「……へっ。頼もしいこった」
ジンがニヤリと笑う。
「よろしくな、チビ助。……いや、朱雀」
「チビじゃないもん! ……よろしくね、黒翼のお兄ちゃん!」
シャオがジンの手を握る。 その手は小さかったが、火傷しそうなほどの熱い情熱が脈打っていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




