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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
白い彼岸花(ボーダーブレイク)編

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第十五話「古都の黒き処刑人」3

第三章 黒き処刑人の反逆


 夜。 鳳京(フォンジン)。凰華共和国の首都にして、世界最大の人口密度を誇るメガロポリス。 古き良き中華建築と、極彩色のサイバーパンクな超高層ビルが無秩序に融合したその街並みは、さながら巨大な龍の背骨のようだった。だが、その繁栄の裏側には、徹底した管理と監視の目が張り巡らされている。


 キリコ(九十九霧狐)たち一行は、変装し、鳳京行きの列車の貨物に紛れて駅へと潜入していた。だが、ホームに降り立った瞬間から、肌を刺すような視線を感じていた。


「……息が詰まりそうね」


 キリコが、フードを目深に被りながら呟く。 彼女の『千里眼(狐の窓)』には、街全体が巨大な「檻」に見えていた。無数の監視カメラ。 霊的検閲システム。 そして、市民の影に潜む無数の式神たち。 それら全てが、一つの巨大な意志によって統率され、異分子を排除しようと目を光らせている。


 目的の「天龍穴」があるのは、国家治安局『黒冠(ヘイグアン)』の総本部ビルの地下深層。 正面突破は不可能だ。 一行は、都市の地下に広がる複雑な下水道網を使って接近を試みることにした。


 暗く、湿った地下水路。 悪臭と汚水の中を、無言で進む。


「……ここなら、監視の目も届かないはず」


 先頭を行くジン(夜刃迅)が、角を曲がろうとしたその時。


「やはり来ましたか、鼠ども」


 闇の奥から、陰湿な声が響いた。水路の水面が揺らぎ、そこから黒い霧が立ち昇る。霧は瞬く間に人の形を成し、道を塞いだ。


 黒い人民服を着た、細目の男。 黎 雲閻(リィ・ユンイェン)。


「私の庭へようこそ。……お待ちしておりましたよ」


 雲閻が指を鳴らすと、水路の壁や天井から、無数の黒い影が染み出してきた。 黒冠の武装道士たち。 完全な包囲網。


「……待ち伏せかよ」


 ジンが舌打ちをし、黒い翼を展開する。 チャーリー・Sも水流を操り、ルカ・ノクスが結界を張る。 だが、敵の数は圧倒的だった。 狭い地下道での乱戦は、数で勝る方が有利だ。


「無駄ですよ。……貴方たちは、ここで朽ち果てるのです」


 雲閻が、懐から呪符を取り出した。 固有能力《黒魘(ヘイエン)》。 精神を蝕む悪夢の霧が、五人を包み込もうとする。


「くっ……! 頭が……!」


 エミルが頭を抱えてうずくまる。ルカの光が、黒い霧に侵食され、弱まっていく。『鏡の核』の劣化も限界に近い。 このままでは、全滅する。


「詰みですね。……大人しくその『核』を渡せば、楽に殺してあげますよ」


 雲閻が、勝利を確信して嗤った。


 絶体絶命の瞬間。


「……うるさいわね」


 頭上から、気だるげな、しかしよく通る女性の声が降ってきた。 その声色は低く、ハスキーで、どこか懐かしさを感じさせるものだった。


「昼寝の邪魔よ」


 ドスッ!!


 天井の配管が外れ、一人の女性が飛び降りてきた。彼女は、雲閻とキリコたちの間に、音もなく着地した。


 黒い道士服をルーズに着崩し、長い黒髪を無造作に束ねた、退廃的な美女。 彼女は、くしゃくしゃになった紙巻きたばこを口にくわえ、マッチで火をつけた。 紫煙が、地下道の淀んだ空気に揺らめく。


 その立ち姿。背中を丸め、ポケットに手を突っ込んだ無防備な様。 ジンとキリコは、思わず息を呑んだ。 彼女の背中に、自分たちの恩人――久遠灯(くおん あかり)の面影が重なって見えたからだ。


 沈 黒燼(シェン・ヘイジン)。


「なっ……シェン!? 貴様、なぜここに!」


 雲閻が狼狽し、後退る。 彼女は、かつて黒冠最強と謳われた特級道士。 だが今は、組織を裏切り、S級指名手配犯として追われている「黒き処刑人」。


「なぜって……」


 シェンは、煙草の煙をふぅーっと吐き出し、怯えるルカを一瞥した。


「あの子(ルカ)の顔が、昔の私に似てたからよ」


 彼女が組織を抜けた理由。それは、かつて組織が「危険因子」として処分しようとした孤児の少女を、命令に背いて守ろうとしたからだ。ルカの持つ無垢な輝きが、彼女の古傷を刺激したのだ。


「邪魔だ、裏切り者! ……まとめて消えろ!」


 雲閻が激昂し、全ての道士に攻撃を命じた。無数の呪符、式神、そして黒い霧が、シェンに殺到する。


「まとめて相手してあげるわ」


 シェンは、煙草をくわえたまま、左手を軽く振った。


 パァン!!


 空気が弾けた。 固有能力《黒罪破戒(ヘイザイ・ブレイク)》。あらゆる術式を強制解除し、無効化するアンチ・マジックの波動。雲閻の幻術も、兵士たちの結界も、式神も、ガラス細工のように砕け散り、ただの紙切れや煙に戻っていく。


「な、術式が……!?」


「そして……」


 シェンは、腰の直刀を抜いた。 刃渡り一メートル。漆黒の刀身。 彼女は、それを一閃させた。


 ザンッ!!


 《断界刃(ダンカイジン)》。


 空間そのものを切り裂く斬撃。 包囲していた道士たちの武器が、鎧が、そして水路の壁ごと物理的に粉砕された。 血は流れない。「斬られた」という事実だけが残り、敵は戦闘不能になって倒れ伏す。


「……すげぇ。術式ごと斬ってやがる」


 ジンが驚愕する。 魔法も物理も関係ない。彼女の前では、全てが「切断対象」だ。


「……チッ。化け物が」


 雲閻は、分が悪いと悟り、煙幕を張って撤退した。静寂が戻る。


 混乱に乗じ、シェンは一行を先導し、地下深層にある『天龍穴』の祭壇へと導いた。 そこで『鏡の核』を龍脈に浸すと、ひび割れが修復され、まばゆい光を取り戻した。


「……助けてくれて、ありがとう。でも、どうして?」


 ルカの問いに、シェンは吸い終わった煙草を携帯灰皿に押し込みながら答えた。


「気まぐれよ。……それに、黒冠(あいつら)の鼻を明かしてやるのも悪くない」


 彼女は、キリコたちの「世界を超える」という目的に興味を持ったようだった。組織のルールに縛られず、自由に境界を超える運び屋たち。それは、彼女がかつて望み、手に入れられなかった自由の形。


「世界を超える? ……面白そうじゃない」


 シェンは、刀を納め、ニヤリと笑った。 その不敵な笑みもまた、灯によく似ていた。


「退屈しのぎに、付き合ってあげるわ。……用心棒代は、高いわよ?」


「……へっ。出世払いで頼むわ」


 ジンが苦笑する。最強の用心棒が加わった。一行は、シェンしか知らない地下水路の隠しルートを使い、鳳京を脱出する。


 目指すは東の海、魔都・虹海。 そこで待つ四神たちへの報告と、帰国への準備が始まる。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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