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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
白い彼岸花(ボーダーブレイク)編

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第十五話「古都の黒き処刑人」1

第一章 崩壊する霧の古城


 ドゴォォォォン!!


 地底の静寂は、鼓膜を食い破るような轟音によって暴力的に蹂躙された。 古城の地下深く、広大な空洞の天井が、一点から放射状に亀裂を走らせ、次の瞬間には崩落したのだ。


 降り注ぐのは、数千年の時を経た黒曜石の瓦礫と、土砂の雨。そして、その隙間を縫って降下してくる、黒い死神の群れ。


「Target acquired(目標捕捉). ……突入する」


 無機質な号令と共に、噴煙の中からマットブラックの強化外骨格(パワードスーツ)を着込んだ兵士たちが着地した。アークステイツ連邦『ゴーストライン』。彼らは着地と同時に重火器を構え、躊躇なく引き金を引く。


 ガガガガガガッ!!


 マズルフラッシュが地下の闇を灼き、プラズマ弾の嵐が吹き荒れる。 さらに、崩れた岩陰からは、液状化した闇が染み出し、人の形を成していく。 凰華共和国『黒冠(ヘイグアン)』の道士たちだ。


「あら、逃げ場なんてありませんよ?」


 鈴を転がすような、しかし底冷えする声が響く。 夜 華琳(イエ・ホァリン)が、優雅に扇子を開いた。彼女の背後に浮かぶ「影紋」から、不定形の影の魔獣が溢れ出し、出口となる通路を塞ぐように展開する。


 完全な奇襲。そして包囲。


「……しつこい客だ!」


 ジン(夜刃迅)が吠えた。 彼は、手にしたばかりの『次元の鏡の核(コア)』を抱えるキリコ(九十九霧狐)の前に滑り込み、背中の黒い翼をマントのように広げて弾幕を受け止める。


 ギギギギギギッ!!


 高熱の弾丸が鋼鉄の羽毛を削り、火花が散る。 翼が悲鳴を上げ、ジンの顔が苦痛に歪む。


「ジン!」


「動くなキリコ! ……その核(石ころ)は繊細なんだろ!? 衝撃で割れたらおじゃんだ!」


 ジンは歯を食いしばり、一歩も退かない。 だが、状況は絶望的だった。 ここは地下の閉鎖空間。広大とはいえ、逃げ場のない密室だ。 空を飛ぶスペースもなく、ジンの機動力は封じられている。 さらに、守るべき対象――非戦闘員のルカ・ノクスと、壊れやすい『鏡の核』がある以上、うかつに暴れ回ることもできない。


「ヒャッハー! 水浸しにしてやるぜ!」


 チャーリー・Sが、地下水脈から水を呼び寄せ、ウォーターカッターのように薙ぎ払う。数機のパワードスーツが吹き飛ぶが、すぐに後続が穴を埋める。敵の数は、先ほどの森での戦闘よりも増えていた。本隊が合流したのだ。


「Target verified. ……最優先目標『鏡の核(コア)』を奪取せよ。抵抗する者は抹殺しても構わん」


 隊長イーヴォ・ハーケンが、指揮機から冷徹に指示を下す。 彼の持つガトリングガンが回転を始め、圧倒的な火力を予感させる重低音を響かせる。


「くっ……! このままじゃジリ貧だ!」


 キリコが焦燥の声を上げる。 彼女の『千里眼』は、無数の弾道予測線と殺意のベクトルで埋め尽くされ、視界が真っ赤に染まっていた。逃げ道がない。 このまま押し潰されるか、あるいは流れ弾一つで『核』が砕け散り、全ての希望が潰えるか。 どちらにせよ、詰み(チェックメイト)だ。


 その時。 戦場の喧騒を縫って、静かな、しかし凍てつくような怒気を孕んだ声が響いた。


「……僕の城を、土足で踏み荒らすな」


 エミル・ノスフェラトゥだった。 彼は、祭壇の前に立ち尽くし、崩れ落ちた天井と、土足で踏み入ってきた侵入者たちを見上げていた。


 彼の瞳は、血の色に燃えていた。 だが、それは激情の炎ではない。 氷の炎。 数千年の歴史を持つ、父・ヴィクトルが愛し、眠りについたこの聖域を汚されたことへの、王としての静かなる激怒。


「エミル……?」


 キリコが息を呑む。 エミルの周囲の空間が、ピキピキと音を立てて凍りつき始めていた。


「皆さん、走ってください! ……祭壇の裏に、緊急用の隠し通路を開けます!」


 エミルが叫ぶと同時に、彼は細剣(レイピア)を祭壇の石盤に突き立てた。 切っ先から紫色の魔力が奔流となって流れ込み、城の制御術式(システム)に強制介入する。 深紅の幾何学模様が床に浮かび上がり、光り輝く。


「Access Code: APOCALYPSE(アクセスコード:黙示録). ……承認」


 エミルの詠唱と共に、城全体が悲鳴のような地響きを上げた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 地下空洞を支えていた巨大な石柱に、次々と亀裂が走る。 天井がたわみ、巨大な岩塊が落下を始める。


「エミル、何をする気だ!?」


 チャーリーが叫ぶ。 この振動は、攻撃魔法の余波ではない。 構造そのものの崩壊だ。


 エミルは、悲しげに、けれど誇らしげに微笑んだ。


「この城は……今日で終わりにします」


 彼は、周囲を見渡した。父との思い出。 孤独だった日々。 そして、灯たちと出会い、王としての自覚を持った場所。 その全てを、自らの手で葬り去ろうとしていた。


「父様の遺産を、彼らのような略奪者に渡すわけにはいかない! ……ここを、彼らの墓場にします!」


「……ッ!」


 ジンが目を見開く。 エミルは、自らの居城を犠牲にして、敵を生き埋めにする策に出たのだ。王が、自らの国を沈める。 その決断の重さが、痛いほどに伝わってくる。


「急いで! ……道は長くは持ちません!」


 祭壇の背後、壁がスライドし、暗い通路が口を開けた。 そこへ向かう道を作るため、エミルは魔力を放出し続け、崩落する天井を必死に支えている。


「僕のことはいいから! ……早く!」


 エミルの身体が震える。 魔力の過剰行使による負荷と、崩落の圧力。 鼻から血が滴り落ちる。 彼は、自分が人柱となって、仲間を逃がすつもりだ。


「……ふざけんな」


 ジンが、低く唸った。


「僕のことはいいから、だァ? ……いつからそんな悲劇のヒーロー気取りになりやがった!」


 ジンは、翼を羽ばたかせて加速した。 出口へではない。 エミルの元へ。


「ジンさん!?」


「馬鹿野郎! ……置いていくわけねえだろ!」


 ジンは、エミルの襟首を乱暴に掴み、俵担ぎにするように肩に担ぎ上げた。


「わっ……! 放してください! 僕が支えないと……!」


「うるせえ! ……城なんざくれてやれ! 命がありゃ、いくらでも建て直せる!」


 ジンは、エミルを担いだまま、キリコたちの方へ振り返った。


「走れ! 全力だ!」


「ええ! ルカちゃん、私の手を!」


 キリコがルカ・ノクスの手を引き、走り出す。 チャーリーが、最後尾で水流の盾を展開し、殿(しんがり)を務める。


「ヒャッハー! 崩れるぞ! 尻に火がついたぜ!」


 ズガァァァァァン!!


 天井が完全に崩壊した。何万トンもの土砂と岩石が、濁流となって地下空洞へとなだれ込む。


「Retreat! Retreat! (総員退避!)」


「きゃああっ!」


 イーヴォの絶叫と、華琳の悲鳴が聞こえた気がした。 最新鋭の兵器も、古の呪術も、圧倒的な質量崩壊の前には無力だ。 ゴーストラインの部隊も、黒冠の道士たちも、逃げる間もなく闇の底へと飲み込まれていく。


 ジンたちは、間一髪で隠し通路へと飛び込んだ。 背後で、重厚な石の扉が閉まる。 その直後、扉の向こう側から、世界が潰れるような轟音が響き渡り、凄まじい振動が通路を揺らした。


 数千年の歴史を持つ『ノスフェラトゥ城』。 吸血鬼の王の象徴は、その主の決断によって、侵入者たちを道連れに永遠の眠りについたのだった。


 暗闇の中、荒い呼吸音だけが響く。


「……はぁ、はぁ……」


 ジンは、エミルを地面に下ろした。 エミルは、閉ざされた扉を見つめ、涙を流していた。だが、その表情は後悔ではなく、何かをやり遂げた男の顔だった。


「……ありがとうございます、ジンさん」


「礼なら、生きて帰ってから言え。……まだ出口じゃねえぞ」


 キリコが、懐中電灯を点けた。 光の先には、長く、湿った地下道が続いている。 これは、かつて真祖ヴィクトルが万が一のために用意していた、城外へと続く脱出路。


「行きましょう。……振り返ってる暇はないわ」


 キリコが先頭に立つ。 一行は、崩れゆく過去を背に、暗い道へと足を踏み出した。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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