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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
黒き胎動(ダークパルス)編

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第十話「新たな胎動」3

第三章 共鳴(ハウリング)


 パリーン!!


 硬質な破壊音が、地下室の静寂を打ち砕いた。重厚な金属製のケース二つが、まるで内側からの圧力に耐えかねた風船のように、同時に砕け散ったのだ。飛散した金属片が、弾丸のような速度で壁に突き刺さる。


「……ッ、下がれ!」


 ジン(夜刃迅)が叫び、キリコ(九十九霧狐)とミレイユ・クロウを背に庇って黒い翼を展開した。 エリアス・ノクスもまた、苦悶するルカを抱きかかえ、聖剣で防御の構えを取る。


 解放された二つの『黒(ブラック・)胎(オリジナル・シン)』。それらは、床に広がる泥の海とはならなかった。重力を無視して宙に浮き上がり、互いに絡み合うように螺旋を描いて上昇し始めたのだ。


 ジュワアアアアッ……!!


 不快な溶解音と共に、黒い瘴気が爆発的に膨張する。それは地下室の天井を突き破り、礼拝堂全体を飲み込まんと広がっていく。 ただのエネルギーの暴走ではない。意思を持った、おぞましい「何か」が生まれようとしていた。


「……なんだ、ありゃ」


 チャーリー・Sが、サングラスを外して呆然と呟く。 黒い霧の中で、二つの泥が融合し、巨大な不定形の怪物を形成していく。 無数の触手が蠢き、その先端には人間の苦悶に満ちた顔や、魔獣の顎(あぎと)が浮かんでは消える。 それは、10年前の災厄の記憶を凝縮した、生きた悪夢。


『融合魔獣(キメラ・オブ・シン)』。


「グルァァァァッ!!」


 怪物が咆哮した。 その声は物理的な衝撃波となり、地下室の岩壁を粉砕する。落石が雨のように降り注ぐ中、怪物の視線――無数に開いた赤い瞳が、一点に集中した。


 光り輝く少女、ルカ。 彼女から溢れ出る神聖な光が、怪物にとってはこの上ない「極上の餌」に見えたのだ。


「……食わせろ」


 怪物が、言葉にならない思念を垂れ流しながら、ルカに向かって触手を伸ばした。 神を食らい、完全なる絶望として新生するために。


「させるかッ!!」


 エリアスが吼えた。 彼はルカを床に下ろすと、聖剣を両手で握りしめ、怪物の前に立ちはだかった。 老いた肉体に鞭打ち、かつて聖騎士として振るった闘気を全開にする。


「我が剣は、聖域を守るための盾! ……邪悪よ、去れ!」


 エリアスが剣を振り抜く。 銀色の閃光が、暗闇を切り裂く。


『聖断(ホーリー・スラッシュ)』。


 ズバッ!!


 怪物の触手が数本、綺麗に切断されて宙を舞った。断面から黒い粘液が噴き出し、床を溶かす。だが、怪物は痛みを感じる様子もなく、切断面から即座に新しい触手を再生させた。 それどころか、切られた触手自体が独立した小型の魔獣となり、エリアスの足元に襲いかかる。


「くっ……! 再生能力か!」


「エリアスさん!」


 キリコが叫び、援護に入る。


「『狐火』ッ!!」


 青白い炎が放たれ、小型魔獣を焼き払う。 だが、本体の瘴気が濃すぎて、炎が届かない。魔界の泥は、地上の火では焼き尽くせない。


「水攻めだ! ……押し流せ!」


 チャーリーが両手を掲げる。 地下水脈の水が逆流し、鉄砲水となって怪物を襲う。しかし、怪物は水を飲み込み、さらに巨大化しただけだった。


「……無駄だ」


 ジンが、冷や汗を流しながら呟く。


「こいつは……物理攻撃も、属性攻撃も効かねえ。……食えば食うほどデカくなりやがる」


 絶望的な相性。 黒胎とは、世界を侵食するための「穴」そのものだ。 攻撃すればするほど、そのエネルギーを吸収し、穴を広げてしまう。


「……なら、どうすれば」


 ミレイユが、祈るように両手を組む。彼女の封印術も、この規模の暴走には追いつかない。


「……あ、ぁ……」


 ルカが、うめき声を上げた。彼女の意識は、覚醒の熱に浮かされ、混濁していた。 身体が熱い。 内側から何かが溢れ出しそうで、怖い。 でも、それ以上に――


(……お父さんが、死んじゃう)


 薄目を開けた彼女の視界に、傷つきながらも自分を守り続けるエリアスの背中が映る。無数の触手に絡みつかれ、鎧が砕け、血を流している父の姿。


(嫌だ……。誰も、傷つけたくない……!)


 ルカの心臓が、激しく鼓動した。恐怖ではない。 大切な人を守りたいという、純粋な祈り。 その想いが、彼女の血に眠る「神の因子」を、完全に解き放とうとしていた。


 カァッ!!


 ルカの身体から放たれる金色の光が、一層強くなった。それは地下室の闇を払い、怪物の触手を焼き焦がすほどの輝き。


「……ッ!? なんだ、この光は!」


 怪物が怯む。 捕食者であるはずの泥が、ルカの光を恐れて後退りしたのだ。 攻撃的な光ではない。 全てを許し、包み込むような、圧倒的な「慈愛」の波動。


「ルカ……?」


 エリアスが、驚愕して振り返る。 そこにいたのは、怯える少女ではなかった。 光の中でゆっくりと立ち上がる、女神の片鱗。


 彼女の背中に、光の粒子が集束していく。 羽ばたきを待つ、夜明けの翼。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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