08
無理やり掌に握らされたそれは、金の台座に翠色の石が付いたボタンだった。
(皆に上げてる…パチもんだな。そうでなければただでくれるわけがない。やはり占いも適当に言ったのだろう。
「もらえない」と机に置いて去ることも出来るが、このシスター、どこまでも追いかけて来そうだな…)
「ありがとうございます。」
渋々受け取ることにした。
「では、俺はこれで失礼します。」
「もう行っちゃうのー」
「行くところがありますので。」
通りに戻った公太に路地から顔を出しシスターは手を振る。
「人探しの件、よろしくねー」
(暫くここら辺には近づかないようにしよう…)
もう関わりたくない一心で足早にその場を離れ目的地へと向かったが、またもや足止めを食らうこととなった。
「公太君じゃないか!」
(今度はなんだ…)
横から声を掛けられそちらを向くと、スーツ姿の初老の男性が満面の笑顔で立っていた。
「近東社長!」
以前本物のアップルパイをご馳走してくれた社長で、今日も会ったばかりだった。
(まさかこんな所で会うとは。)
「昼間は助かったよー
急だったのに悪かったね。」
「いえ、近東社長にはいつもお世話になってますから、こういう時に恩返しさせて下さい。いつでも連絡お待ちしてます。」
「ははは、お世話になってるのはこっちだよ。公太君も困ったことがあったら連絡してほしい。必ず力になろう。」
「ありがとうございます。その時は連絡させていただきます。」
(定型文で返したが、絶対連絡しないなー
近東社長は以前から目を掛けて下さっているが、取引相手だし、何より貴族だからなー)
「ところで、今日は何か視察かい?」
「はい。眼位寛解機器を見に来ました。」
「おっ!アレ良いよね!もう使ってみた?」
「はい!先日試着キャンペーンをやっていて使ってみたんですけど、控えめに言って最高でした!
次のボーナスの時買おうと思っているので、それまで色々見ておこうかと思ってます。」
(買うと言っても片落ちか中古になるだろうな。中々の高級品だから、俺にはそう簡単に手が出せる代物じゃない。)
「そうかそうか。」
にこにこと目を細める近東社長の後ろの飲食店から、ジェラルミンケースを持ったスーツ姿の男が現れ、若干の警戒と共に視線がそちらに引き寄せられた。
髪は濃いブラウン、瞳は黒の様だが、煌めく疑似ネオンの光加減によっては濃紺にも見える。
歳は俺より少し上くらいだろうか。
背も高くかなり端正な顔立ちで、髪が目立たない色でも相当目を引く人物だ。
見えるところに宝石は付けていないが、凛とした佇まい、醸し出す雰囲気から一瞬で貴族だと分かった。
男は視線を公太の後ろに留めながら口を開いた。
「近東社長、すみません。見つかってしまったようです。私はこれで失礼します。」
立去ろうとする男を近東社長は片手を上げ引き留めた。
「それでしたら少しお待ちを。」
近東社長は公太に向き直る。
「公太君、君、ここら辺詳しかったよね?」




