02
「犬守さん!おかえりなさい!」
聞き覚えのある声に視線を向ければ、小さく手を振って駆け寄ってきたのは経理課のタナカさんだった。
「営業部に来るなんて珍しいですね。どうしたんですか?」
「帰ってきて早々で本当に申し訳ないんですけど、ちょっとパソコン見てもらえませんか?」
(俺が今戻ってきたのを知ってるってことは、杉が教えたのか。ってことは、あいつの用件はこれか?)
「良いですけど、なんかトラブルですか?」
「今朝バージョンアップしたら良く使ってたファイルが開かなくなっちゃって、杉さんでも解決出来なかったからシステム部に行ったんですけど…
忙しいからそんくらいどうにかしろって追い返されたんです。
こっちはそれで仕事が進まなくて困ってるのに、終始知ったこっちゃないって感じで…」
「ああ、それは災難でしたね…」
(システム部の奴らは皆"一大"上がりで、他の部署を見下してるからなー)
「システム部ってお高く気取ってヤな所ですよね!」
語気強く関が言う。
以前同じような目にあった関は未だに根に持っているようで、システム部の話になると鼻息が荒くなる。
「分かりました、急ぎの書類だけ提出したら直ぐ行きます。」
「ありがとうございます!本当助かります!」
タナカさんが深々と頭を下げると、後方の扉から大橋さんが入ってくるのが見えた。
「犬守ー、遅かったじゃねーか。」
(自分の仕事押し付けておいて良く言うよ。)
「じゃ、じゃあ私そろそろ戻りますね。」
少し口早に言うと、タナカさんは振り返らず大橋さんにかち合わないよう避けて部屋から出て行った。
「今の、経理課のタナカさんだろ?またパソコンごとでも頼まれたかー?」
「まあ、そんなとこです。」
「システム部の真似事も程々にしとけよー
点数稼ぎしようが何しようが三大卒のお前なんかシステム部に行けねーんだからさー」
バカにしたように笑う大橋さんにこちらも笑顔を作って答える。
「点数稼ぎとかそんなんじゃないですよ。」
「なんだ、俺はてっきりまだシステム部に未練があんのかと思ったぜ。配属希望書に書いてたよな?」
(その話題まだ引きずるのかよー)
笑顔を作れてる自信がない。せめて苦笑いは浮かんでいてほしい。頑張れ俺の頬上筋!
大手会社のシステムエンジニアは一大卒でないと着くことは出来ないのが通例だが、入社後に提出させられた配属希望書に、「ダメで元々!」と書くだけ書いたのだが…
まさかそれが、次の部署異動まで残る書類だったとは…
お陰で、大橋さんの目に留まることになってしまった…
「そんなにシステムやりてーんなら、ウチみたいな大手じゃなくて町工場でも行くんだな。」
更にバカにしたように大橋さんは笑う。
(早くこの話終わらせてえ!)
「未練なんてありませんよ。それより、これヴァンロ建設から預かってきた書類です。」
カバンから取り出した書類を大橋さんに差し出した。
「あー、それやっといて。」
(またこの人は…)
「この前の契約に必要な奴ですよね、それを俺がやって良いんですか。」
「お前の為に言ってんだよー
仕事覚えるには何度も反復してやってみるのが良いと思うわけー
ってことで、後よろしくー
いやー、俺って優しい先輩だなー」
笑いながら去っていく大橋さんの背中をただただ呆れて見送る俺の隣で、関も呆れてなんの感情も宿さない目を向けていた。
「先輩、訴えるなら俺いつでも手え貸しますよ。」
「もしもの時は頼むわー」




