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「こんな高価な物頂けません!」
(道案内をして一月分とは、とんだぼったくりだ。)
「私にとっては、追手に捕まらなかったことは君が思っている以上に価値があることなんだ。
むしろ安いくらいさ。だから受け取ってもらえないだろうか?」
男は困ったように眉を下げた。
(ここまで言われては断りづらい…)
「では…お言葉に甘えて頂戴致します。」
差し出されたジェラルミンケースごと受取る。
必死で抑え込んだが、内心震えていた。
別れの挨拶をして上空鉄道へと入っていく男の背中を公太は見えなくなるまで見送っていた。
(大層な物を頂いてしまったな…
取り敢えず、近東社長に無事送り届けたことを連絡しよう。)
◇◇◇
(思いがけない冒険になったな。
妹達に話したら呆れられてしまうだろうか。)
上空鉄道のホームへ上がるエレベーターへと入り、今しがた体験したことを思い出しては頬が緩みそうになるのを抑えた。
エレベーターはテニスコート3面程の広さがあり、ゆったりとしたソファがいくつも置かれていて、高級ホテルのラウンジのようだった。
窓辺には半個室もあり、人が少ないことを考慮してそこへ腰を下ろした。
階下に煌々と広がる街並みが小さくてなっていく。
(今日は良い出会いをした。
近藤社長が任せる人物だけのことはあって良い青年だったな。
追われていなければ出会えなかった縁だが…
だからといって追われたいわけではない。
そろそろどうにかしたいものだ。
いなくなったことを悟られないよう工作して時間を稼いでも、監視システムを使われたら直ぐ見つかってしまう。)
街から疑空へと視線を上げ、目を細める。
(擬空に張り巡らされた監視システム…
有能過ぎるのも困りものだな。お祖父様のマスターキーさえあればいくらでも姿を隠せるものを…)
「すみません…セザキ様ではありませんか?」
追手なら名を問うことはない。
目だけ動かし確認した窓に映る男の顔には見覚えはなかった。
印象的な、襟元から覗く蛇のタトゥーにも覚えはない。
ジャケットを左腕に掛け、入口を塞ぐように立つ姿は、こちらの返答がどうであれ次の行動を決めているように見える。
ごく自然な早さで振り返り、口を開いた。
「いいえ、違いますよ。」




