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3話

 ライラはこちらに攻撃が届かないと判断したのか、後ろに下がる。

 お互い大きく視界に入る距離なのに、ライラの姿が認識しづらくなっていく。


「目の前にいるのにここまで分かりづらくなるのか。相変わらずすごい気配遮断だな」


 この世界にはマナという力がある。マナは生命力の源だ。生きた存在であるなら誰もがマナがあふれ、他者に存在感を示してしまう。

 気配遮断はマナを体の内側に閉じ込める身体技能であり、正面のライラはマナを一切感じさせない。俺が見てきた気配遮断の中でトップクラスの技術だ。

 ライラを褒めていると、次の瞬間には完全に視界から消えた。狭い室内だが、どこかに隠れているのだろう。周りを見渡しても簡素なベッド、小さな棚しかない。とても人が隠れているとは思えない。




 人影すらない室内を眺めていると、俺の斜め上からナイフが飛んでくる。ライラが投擲したはずだが、あの華奢な腕で投げられたとは思えない速さで向かってきた。

 おそらくライラの風魔法をまとわせて、速度を上げている。


 魔法はマナを使う代表的なものなのだが、マナの気配が全然感じられなかった。

 気配遮断と魔法の同時使用、器用なものだ。


 近づく刃を視界に捉えていると、呼応するかのように黒い球が動き出す。ナイフと黒い球はぶつかり合って、俺に攻撃が届くことはなかった。




 それにしても今日は朝にスイッチが入ったな。

 ライラは元々とある暗殺一族の一員だった。で、訳あって俺がその一族を壊滅させたのだが、バカな族長がライラに俺を殺すように洗脳してしまった。

 そのせいで、様々なタイミングでライラは無意識状態となって俺を暗殺してしまおうとする。


 ライラ自身、洗脳を解くために日々努力しているのだが、この感じだとまだ実は結んでいないようだ。

 俺としては、ライラほどの実力者に狙われるのは良い訓練になると思っているので、結構楽しい。


 さて、そろそろフィニッシュがくる頃合いだろう。


 余裕の笑みを浮かべながら待っていると、今度は前後左右から複数のナイフが同時に飛んでくる。どれも風をまといながらだ。


「いいね。この数、全部のナイフを使ったか?。なら俺も全部出すぜ。(コク)

 

 俺の周りで浮かんでいる手のひらサイズの黒い球、それと同じものが空中で生成され、4つ出現させる。



 これは魔法とも身体技能とも違う、異能と呼ばれる俺だけの能力だ。


 (コク)は俺のもう1つの手足のような存在で、自身のマナを外に黒い球として具現化させて自由に動かすことができる。

 最大で5個まで作り出すことができ、普段は俺に対しての攻撃に自動で動くようにしているのだが、今回は訓練目的のため、手動で操作することにした。


 5つの黒い球は俺の周りを勢いよく回りだし、近づくナイフを弾き飛ばしていった。1秒もかからず、全てのナイフが床に落ちていく。


 死角を含めた高速の包囲攻撃は大したものだが、これがメインというわけではないはずだ。

 警戒を解かずライラを探すが視界に映らない。


「どこだ?」


 刃物が床に落ちる音が鳴ると同時に、それとは別の音が耳に入る。なにかが空を裂く音。

 音のなっている場所は、俺の真上だった。

 見上げると、真上にはライラがおり、彼女の手にはナイフが握られている。


 なんでまだ武器が……いや、最初に投げられたナイフか。俺に包囲攻撃をしている間に拾ったのだろう。

 俺が(コク)を手動で回りに動かしてしまったせいで、ライラへすぐ向けられる球がない。


 俺とライラの距離が近づき、彼女は握るナイフを振り下ろす。



 刃先が俺に当たる寸前、横からナイフが飛んできてライラの持つナイフとぶつかり合う。思わぬ衝撃にライラは手にしていたナイフを放す。

 ライラは驚くように目を見開き、ナイフが飛んできた方向を見る。

 あれは弾き飛ばしたナイフを(コク)で再び弾き、ライラのナイフめがけてぶつけたのだ。


「よそ見とはずいぶんな余裕じゃん」


 俺は空中から落ちてくるライラを組み伏せる。武器を持たず、別の方向に興味を持っていかれていた少女を捕縛するのはかなり簡単だった。


「うぅ!」


 抵抗するライラだったが、完璧に抑えられた状態から逃げ出すことはできなかった。

 暴れるライラのおでこに(コク)をコツンと鳴る程度で軽くあてる。


「……痛い」


 どうやら正気に戻ったようで、虚ろな瞳に光が戻ってきた。

 拘束を解き、ベッドの上で俺は一息つく。


「私……また」


「ああ。また暗殺しかけてたぞ。ハハハ」


「……」

 

 ライラはうつむいたまま動かない。

 どうやら自分の行いに反省しているようだ。


「それにしてもやっぱりライラは火力が弱点だな。スピードと技術は申し分ないのに、火力がないせいでラストの決めに欠けてる。もっと鍛えないといけないぞ」


「……」


 気にさせないよう語り掛けるが、そうもいかないらしい。


「たく。前から言ってるけど、気にするな。あんなので俺は絶対に殺されないし、それ込みで一緒に行動してるんだ。安心しろ。で、もし嫌ならもっと訓練してあの無意識を克服しろ。わかったか?」


 涙ぐむようにうつむくライラの顔を両手で掴み、こちらを見させる。


「……わかった」


「よし! それなら準備運動は終わり! 冒険者ギルドに行くぞ!」


 俺は落ち込むライラを引っ張って、冒険者ギルドに向かう。

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