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4話

 孤児院を出ると、朝から通りは騒がしく賑わっていた。


 すれ違う人たち全員が活力あふれる表情をしている。みんな何かしらの熱を持って人生を謳歌しているのだろう。

 俺も彼らに負けないよう、胸に秘める熱を込めて人込みをかき分けていく。


 ここはイデア王国、ユーストリア大陸に存在する大国の1つだ。

 イデア王国は多くの産業を興しているが、中でも冒険者業に対する支援は大陸随一と名高い。

 冒険者に対する税金の優遇、国が主導する大型クエストの斡旋、国内に多数存在するダンジョンの自由探索など冒険者の活動しやすい環境が徹底的に整えられていた。

 そのためイデア王国は多くの冒険者を抱える結果となり、冒険者において最高ランクであるSから駆け出しランクのG、全てのランク帯人口がユーストリア大陸でトップを誇っている。




 道を進んでいると、店が増えてきた。軒を連ねる店からは威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。

 様々な種類の店が並び立っているが、その中でも特に冒険者用の道具屋が多い。


 いつもなら目に入って、ついつい寄ってしまうのだが、今日はそうもいかない。


 騒がしい人込みを抜けると、目的の建物が視界に飛び込んできた。

 周囲の建物よりひと回りも大きい5階建ての巨大な建物。外壁は橙色の煉瓦で積み上げられており、朝の光を受けてどこか温かみのある色合いを放っている。正面には重厚な木製の両開き扉があった。その大きさは俺とライラが並んで通っても片側で十分に余るほどだ。扉の上には色褪せた木製看板が掲げられており、そこには「冒険者ギルド」の文字が刻まれている。



 冒険者ギルドを見ると、思わず口角が上がった。



 ここ最近、俺は冒険者ランクのランクアップの審査のため、新規のクエスト受注ができずにいた。

 しかし! それもついに終わり、正式にランクアップして新たなクエストを受けることができるようになったのだ。

 審査の間、ほとんどの時間は孤児院の子どもたちと戯れていた。悪くはなかったが、悶々とした気持ちがなかったかというと嘘になる。

 ふふふ。冒険者ランクFになった俺が、さらなる活躍を示してやろう。

 


 両開きの扉を一気に開く。

 目の前には2階まで吹き抜けになっているロビーが広がっており、多くの人間の声で包まれていた。

 ガラが悪く破けた装備の隙間から見える筋骨隆々の男性、全身を分厚い黒鎧で包み一切の肌が見えない騎士、今にも崩れ落ちそうなほどの大荷物を背負った小柄な女性など、見るからに一癖も二癖もありそうな面々がたむろしていた。この大半が冒険者なのだろう。

 入口から奥に目を向けると、そんな冒険者を相手に制服姿の受付たちが淡々と業務をこなしている。




 俺がロビーの中に進もうとした瞬間、後ろから服を引っ張られた。


「ん?……うわぁ!」


 振り向くと、ライラが今にも吐きそうな顔でこちらを見つめていた。


「あんな人ごみの中を通ったから、すごく気持ち悪い。外で休んでる」


 ライラはそういうと、スーッと気配を消して姿が見えなくなる。


「お、おう。わかった」


 そういえばライラは人が密集する場所は苦手だった。普段は冒険者ギルドに向かう時、ライラは俺と離れて建物の屋根と屋根を飛んできていたのに、今回は引っ張って人ごみの中を通ってしまった。


 申し訳ないことをしたと反省しつつ、気を取り直してロビーの中を進み、とある紙が貼られた壁の前に立つ。

 クエストについての紙、ではなく、とある国の情勢についての紙が貼られていた。




 シンギュラリ魔侯国(まこうこく)

 人間とは異なる種族、魔族が築いた国。ユーストリア大陸の中央に位置する大国であり、人類と完全に敵対している国家だ。

 壁に貼られた紙にはシンギュラリ魔侯国が周辺の人間の国家に攻め込んだという情報が書かれていた。



 文字を目で追ううちに、ふと昔のことを思い出す。昔、故郷の村が壊滅するより少し前の出来事だ。


『兄ちゃん。俺大きくなったらこの本に出てくる勇者みたいになりたい』


 幼い頃の俺にはお気に入りの絵本があった。勇者が魔王を倒すありきたりな絵本だが、その勇者に強く憧れていた。

 その童心は心の中だけに留まらず、よく周りに伝えており、一番話したであろう相手が兄のルシフルだった。

 ルシフルは俺を肯定してくれた。俺の夢を聞いて笑う周りとは違い真剣な表情で。


『約束だセフラ。必ず勇者になれ。お前なら絶対になれると信じてる』


 あの時の兄の顔を、今でも鮮明に思い出せる。

 心が温かくなると同時に、胸の底からどす黒い何かが膨れ上がってきた。



 紙に書かれた情報を全て目に通していくと、だんだんと俺は苦虫を噛み潰すかのような表情をしてしまう。

 シンギュラリ魔侯国には、多くの魔族を統べる頂点の存在がいた。長らく存在が確認されていなかったが、各国の努力の末、近年ついにその名前が明らかになった。

 各国はその存在を魔王と呼ぶようになった。





 その魔王の名前は、ルシフル・シュトレーム。

 兄と同じ名前だった。似顔絵はなく名前だけしかわからないが、この魔王は間違いなく俺の兄だ。あの日の光景を見た俺はそう確信している。


「待ってろよルシフル。必ず俺は勇者になってお前を倒す」

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