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二日目

 翌日、新年度(四月一日)、家の中で目を覚まして家の外を見返す。

 昨日の事は眠るまで頭の中で繰り返された。自分の人生がパラレルワールドの一つだなんて話、未だに信じられるわけが無かったからだ。だが、確かに昨日あったことは夢では無いのだと実感するしか無かった。



 新橋駅から帰る前に、近くを歩いていた女性に話し掛ける。

「すいません、今ある調査をしてましてですねぇ」

「はい、なんでしょうか?」


 優しく微笑む女性に穏やかな笑顔を返して、私の横に立つ男の方にへと視線を誘導する。

「彼についてどう思いますか?」

「「はい?」」


 女性と男が同時に驚きを向ける。

 女性の顔が徐々に怪しい人物を見る表情に変わっていくのが見てとれた。しどろもどろに言葉が溢れる。と、同時に男が会話に口を出してくる。

「えっ…と、どの…人でしょうか?」

「彼です彼、(「彼って誰、)もしかして見えてない(もしかしてワタシかい)|?おかしいなあ、(おかしいよね、)僕にはハッキリと(君から話し掛けて)|見えるんだけどなあ?」《来たんだよね?」》

えっ…と……(「ほら、怖がってるよ)、|あの、ナンパですか?《君が怖がらせたんだぜ」》警察呼びますよ」

「ああ、違うんです|よ。実は 《「へぇ、違うのかい?」》どこの番組かは言えないんですが、実験企画をやっておりまして、誰もいない場所に人がいると言い続ける人への反応を検証してましてですね。あのビル、あのビルの方にカメラがいるんですよ。」

 (「そう来たか」)


 駅に隣接するビルの四階辺りを指差す。怖がらせない為に、なにより通報されない為の策はちゃんと考えてあるのだ。

 それを聞くと、女性は落ち着いた様子を取り戻した。

「そうでしたか、ちょっとビックリしました」

「いえいえ、勿論モザイクにさせていただきますので。没になるかもしれないなあって不安に思いながらやっているんですけれどね、アハハハ。本当にご協力ありがとうございました。」


 話を終えて、女性が先を歩いていくのを確認すると、後ろを振り返り男を睨み付ける。


 要するに、コイツは本当に人間では無いのだと理解した。本当に神に近しい存在か、或いは幽霊か、はたまた疲れ果てた私の作り出した幻覚なのか。それはわからなかったが、結局コイツの言う通り、五日間は自分を変える選択をした方が良いのだろうと言う事なのだろう。踵を返して駅に歩くと、男が呼び止めた。


「おいおい、どこ行くんだ?」

「今日はもう帰る。少なくとも明日はバイト休むことになりそうだからね。それに準備することもあるし」

「そうかい、じゃあ明日からなわけだ。それで、何をするんだい?」

「言う必要があるのか?」

「あるだろ、人を殺すとか言い出されたらどうするんだ」

「人は殺さない。予定も無い。それに未だお前を信用できていない」

「そんな酷いこと言うんだ、さっきも信用して貰えなかったしなあ。自分から話掛けて来たのにね」

「じゃあ、何かしら信用できる情報を寄越せ。この三日間だけは言う通りにするが、それはそれなんだ」


 男はそれを聞くと、天を見上げて此方に顔を向けて口を開いた。


「シセイ、そう呼んでくれ。名前を教えられるだけでも一つの信用情報になるだろう?」


 そうして、シセイと名乗る男と別れ竹ノ塚に帰る。バイトには明日から休むと連絡をし、茨城に帰る準備を始める。新幹線のチケットと宿の準備を終わらせて眠りに着いて昨日が終わった。



そして、今日である。

 新幹線に乗り、茨城の地元に着く。駅の近くにあるスーパーへ買い物をすると、一人の女性が目に入った。その女性はお目当ての女性だった。私の高校生時代に恋をした人、天城 結(あまぎ ゆい)さんその人だった。


「天城さん、天城さんじゃないですか」

「天城ですけど、もしかして同級生だったバンちゃん?」

「そうです、バンちゃんです。バンダナずっと着けてたあのバンちゃんです」

「わー、どうしたの、久し振りだねえ。今東京って聞いたけど? 」

「ちょっと、ここら寄りまして。実は人生について色々悩んでるんですよ」


 早速天城さんに会えたのは幸いだった。これだけで二日間使うと思っていたくらいだからだ。やることはただ一つ、天城さんに告白をするだけだ。私は天城さんに告白をした事が無い。片思いだった。片思いのまま高校を卒業した。たとえ失敗しても人生の一歩を踏み出した事に変わらないだろう。世界の良し悪しよりも先ずは自分の思いを誰かに伝える事の方が先なのだ。


「天城さん、実は…」


 改めて天城さんの方を見る。よく見ると、彼女の左手薬指には黄金に輝く指輪が填められていた。つまりはそう言う事なのだろう。それでも、それでも伝えるべきなのだ。結果がわかっていると言うのに私は告白の言葉を口に出す。


「天城さん、実は僕、高校の頃天城さんの事が好きでした」

 天城さんは面をくらった顔をして、左手の薬指を私に見せて来た。聞くと、お相手とは大学時代の付き合い始めたらしく、子供も既に二人いるらしい。彼女はとっくに私の知らないところで幸せになっていた。私の出番は存在しない事は一目瞭然でしかなかった。


「お幸せに」


 その言葉を最後に、私はスーパーを出て、宿にへと向かった。


 「ここが貴方の実家ですか」


 宿に到着すると、シセイと名乗ったあの男が既に到着していた。


「何でいる」

「何でと言われましてもねぇ?というか告白如きで世界線が移動するとでも?」

「良いんだよ、吹っ切れるには十分だ」

「今日はコレで終わりですか、明日は何を?」

「何もしないよ、旅行をする。完全プライベートな旅行を」

「そうですか、それでここには何をしに?」

「親に会いに来たんだ。別に旅館を営んでいるわけじゃないぜ。母親に連絡をしたら、今日はここに泊まるって来たんだ。せっかくなら泊まろうと思ってね」

「親子水入らずという訳ですか。積もる話もあるでしょう。ワタシはお暇させていただきます」

「勝手に着いて来た奴が何を言うんだ。あ、そうだ。明日朝から大移動だから、お前も早く駅前来いよ?」

「おや、ワタシもですかい?」

「一緒に旅行しようぜ。した事ないんだ、友達との旅行ってヤツ」

めいいっぱいの笑顔で応える。コイツが何であれ、パラレルワールドがどうであれ、結局は自分で何を行動するかだと教えてくれた存在だ。無下になど出来るはずも無い。


「良いですよ、ただしワタシのチケットはいらないです。現地集合で大丈夫なんでね」

そう言い残すと、シセイはまた、そそくさとどこかに歩いて消えていった。



 私は歩いて、旅館へと入る。先ずは両親に会いに行こう。そして、何を話そうか。感謝からだ。

 既に私の気分は爽快なものへと変わっていた。


 明日はプライベートな旅行だ。

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