第15話『決壊、シエラ再臨!』
その奇声は、ウォームアップ中からすでに響いていた。
「カリン様ァァァァァ! 今日こそ私を壊してぇぇぇぇぇ!」
三ヶ丘学院との再戦。あの“変態守護神”――シエラが帰ってきた。
観客席がざわつく中、カリンは一歩も引かず、サイドラインからピッチを睨んだ。
(前より……騒がしいわね)
試合開始。支配女学園はパスをつなぎつつ、徐々に三ヶ丘陣内へ押し上げる。
そして前半15分、カリンが相手DFを一人いなしてペナルティエリア外からミドルを放つ。
――ビシィィィィッ!!
「ハイッ! カリン様のご褒美いただきましたァッッ!」
観客「……???」
全身でシュートを受け止めたシエラが、痙攣するようにのたうち回りながら叫ぶ。
「いいぞ!もっと罵ってくれッッ! 私のことなんて、ただのボール止め機でしょぉぉぉ!?」
審判「…だ、大丈夫ですか?」
「幸せです!!」
実況席も解説も絶句する中、シュートは何度も止められる。カリンが蹴っても、ヒナが押し込んでも、すべて止められる。まさに鉄壁。
そのたびに、観客の困惑とシエラの快楽が上昇していく。
「……正面は相手のご褒美よ。ま、カリンならすぐ気づくわね。女王の進化は、命令の質で決まるのよ」
観客席で見ていた麗奈がサングラス越しに呟く。
「カリン。彼女には“正面”からはダメ。そろそろ、攻め方を変えるときね」
後半開始直後。カリンは味方を見渡す。そして、短く指示を出した。
「全員、ポジションシフト。私が頂点に立たなくてもいい。“流れ”で勝つわよ」
支配を“押しつける”のではなく、流れを“導く”。
その意図はすぐに形になった。ヒナのサイドチェンジ、サブのMFからワンタッチでミオへ。
シエラが鋭く前に出る――が、ミオはそれを読んでいた。
ループシュート。
空にふわりと弧を描いたボールは、シエラの手の先をすり抜けて、ゴールへ吸い込まれた。
「うううううッ! カリン様は……進化しているぅぅぅ……ッッ!!///」
またしても観客、沈黙。
だが、ピッチに立つ選手たちは違った。
カリンの動きは、まるで舞台の演出家のようだった。
決めるべき人に、決めるべきタイミングで舞台を用意し、花を持たせる。
それが、彼女の“新しい支配”だった。
試合は1-0で終了。
三ヶ丘学院の連勝は止まり、支配女学園が予選全勝へ王手をかける。
握手の列で、カリンはシエラと向かい合う。
「次も、私の成長を楽しみにしていなさい」
「も、もちろんですぅぅぅ……! 私は……一生、カリン様の変化の記録係ですからァァァ……ッ!!」
観客は拍手しながら少し引いた。
その様子を見ていたヒナが、すぐ隣で呟く。
「……あなた、変わったね。命令じゃなくて、預けるようになった」
「それでも、支配の名は外さないわ。女王は、進化して当然でしょ?」
ヒナはふっと笑って頷いた。
「うん。……ちゃんと見てるから」
それは、信頼という名の支配だった。




