第16話『氷の前哨戦』
「本当に……勝てるのかしら、私たち」
その呟きは、スタジアム全体の静寂と同化して消えていった。
決勝トーナメントを決めた翌日、カリンたちは準決勝第1試合――聖セレナ女学園の試合を観戦していた。
「すげぇ……なんだあのパス回し……」
呆然と漏らすミオの隣で、ヒナが黙って首を振る。
パスは一切の無駄がなく、1タッチ、2タッチのリズムで相手の守備網を切り裂いていく。だが、それは決して“派手”ではなかった。冷たく、静かで、まるで冷凍庫のような支配だった。
ゴールが決まっても、歓声はごくわずか。代わりに鳴り響くのは、セレスの短い指示のみ。
「ライン上げて。5番、スペース埋めて」
彼女の声に、チームは無音のまま応じる。
戦術的に洗練された、機械のような11人。それが聖セレナだった。
「……あれが、“完璧な支配”」
カリンが息を呑む。隣のヒナはうなずく。
「違う。あれは“制御”だよ。誰も迷っていない。自由すら最初から用意されていない」
「でも……勝ってるじゃない」
「うん。勝つための最短距離を、彼女たちは何の迷いもなく進んでる」
そのとき、場内アナウンスが流れた。
試合後インタビュー。聖セレナのキャプテン・セレスのコメント。
「次はどのチームが上がってこようとも、構いません。私たちは、自分たちを制御するだけですから」
「“支配”に頼りすぎているチームほど、崩れるのも早い。私はそう考えています」
会場がざわめく。明らかに、カリン率いるチームへの牽制だった。
ミオがカリンを見る。「……なぁ、カリン、大丈夫か?」
だがそのとき、彼女の表情は誰よりも静かだった。
目だけが、炎のように燃えていた。
「ふふっ……よくわかってるじゃない。確かに、私は“支配”に縋ってたかもしれない。でも――」
スタジアムの照明が彼女を照らす。
「私は“違う支配”を見せるわ。自由を奪わない、でも導く。そんな支配があるって、知らしめてやる」
その横顔に、ヒナもミオも言葉を失う。
そして――
試合の終わりを告げるホイッスルが響いた。
氷のようなチームが、無表情のまま、また一つ勝利を積み重ねる。
観客たちが帰り始める中、カリンはひとり座席に残っていた。
その目に、静かな決意が宿っていた。




